欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二八七話 作戦前夜

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 革命軍に占拠された王城を取り戻すことにあたり、作戦会議の為アーマライト王とドライゼン王はアストラや中隊長、小隊長までをも呼んだ。
 パーテーションを組み替えて作り出した会議区画の中に、続々と入っていく兵士達を見ながら俺は携帯食料を頬張っていた。
 先ほどの話の最中アーマライト王がなぜやる気になったのか、というのが気になっていたのだが話を終えた後、アーマライト王は「王として不甲斐ない態度だった、少しばかり気が滅入っていたようだ」と謝罪があった。
 切り替えが早いとは思うが、きっと無理してでも気持ちを切り替えなければやってられないのかもしれない。
 作戦決行は既に決まっていて、明朝明け方に奪還部隊が出発することになっている。
 これから行われる作戦会議は連携やら部隊の配置やらといった細かい内容だ。
 俺はアーマライト王の指揮に従い、リッチモンドはドライゼン王の指揮のもとこの時刻塔を守護する手筈になっている。
 なし崩し的に巻き込まれた内乱だが、リッチモンドの言う通りさっさと終わらせて家に帰りたいものだ。
 昇級試験の続きもあるし、トロイに譲る予定の家具なども選別しなきゃいけないし、クロムとの共同計画もある、ウンヴェッターが言っていた守護精霊などの領地の問題もあるし、やることは山積みなのだ。
 
「はぁああー……」

「随分と長い溜息を吐くのね。幸せが逃げちゃうわよ?」

 空になった携帯食料の缶の底をフォークで突きつつ溜息を吐くと、隣にいたシャルルがそんなことを言った。
 同じく携帯食料を食べていたシャルルの顔はいつもよりやつれているが、その可憐さは変わらない。
 アーマライト王との話の後、ウル達を連れて行った家屋へシャルルも連れていき、入浴と着替えを済ませてもらった。
 なので今のシャルルの服装は一般人となんら変わらないのだが、やはり気品というのは着ている服で左右されるものではないらしい。
 森にいた頃はそんな事欠片も思わなかったのだけど、ランチアに来て様々な人と出会った結果、一般人とシャルルの格の違いというものに気付かされた。
 
「ぐぶえっ……!」

 俺がシャルルの顔を鑑賞しながら感傷に浸っていると、突然シャルルの両手が俺の頬を挟み込んだ。

「な、なにするんだよ」

「人の顔をじろじろ見るからよ」

「ご、ごめん……」

「いいわよ。化粧っ気のない顔を見られるのは森で慣れちゃったからね」

 シャルルは僅かにむくれ顔を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻り俺の頬をもにゅもにゅと弄っている。
 そしてその時初めて気付いた。
 
「しゃ……シャルル、顔が近いんですけれどもあのその」

「別にほっぺたで遊ぶくらいいいじゃない」

「そういう事じゃないんだけど……」

「コホン」

 無自覚に近付くシャルルにどぎまぎしていると、視界のはじっこでわざとらしい咳払いが聞こえた。
 誰だと考えるまでもない、リッチモンドだ。

「あのね。べた付くのはいいんだ。でも僕が居ないところでやってくれないかい? 僕、今完全に空気だったよ?」

「あはは……」

「べた付いてって……油汚れみたいに言わないでくれないかしら? 私はそんなつもりないわよ?」

「無自覚って怖いねぇ」

「ごもっとも」

 不満げに口を尖らせるシャルルだったが、今のように気軽に接近されると心拍数が跳ね上がってしまうので非常に困る。
 慣れるもんだとクライシスは言っていたが、どう考えても慣れる前に俺が駄目だ。
 食事を済ませ、リッチモンドは風に当たってくると言って外へ行ってしまった。
 シャルルもタウルスの所へ行ってしまい、残ったのは俺だけになった。
 腕輪に嵌められた文殊を布で拭きながらぼーっとしていた時のこと。
 パーテーションの向こう側に人の気配を感じ、視線を送るとすぐに獣の耳がピョコンと現れた。

「こんばんは。今宜しいでしょうか」

「どうぞ。ハンヴィーさん、でしたね」

「はい。お休みの所申し訳ございません、少しだけお話を宜しいでしょうか」

「かまいませんよ」

「ありがとうございます」

 遠慮がちにパーテーションの陰から姿を現したハンヴィーが、ペコリと可愛らしくお辞儀をして俺の方へ歩いてきた。
 後ろでまとめられていた髪は下ろされ、長い金髪が風と遊びふわりふわりと揺れていた。
 尻尾はハンヴィーの歩幅に合わせて振り子のように動いている。

「どうしました?」

「実は……プル姉の事でお話があるんです」

「プルさん、は通常人種の方ですよね。彼女がどうかしましたか?」

 俺の前まで来たハンヴィーが足先を揃えて立ち止まり、意を決したように口を開いた。

「お願いです。プル姉さんを助けていただけませんか」

 ハンヴィーの薄いピンク色の蕾のような唇から出たのはそんな嘆願だった。
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