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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二七六話 ミロク
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「……商品が隠れているのかい?」
「ええ。自分は商人でしてね。色んな物品を扱ってるんですよ」
「なるほど、奴隷販売も、という事だね? 別に僕は奴隷に対して何か言うつもりは無いさ。でもどうしてこんな所に?」
「いやはは……恥ずかしながら奴隷を詰んでた馬車が壊れちゃいましてね、奴隷達を連れ出してるウチに逃げ遅れた次第で」
「ふぅん……とりあえず隠れている人達も出てきて欲しいね。なんなら僕が行こうか?」
敵意は無いと僕が再三告げているのに、出てこようともしないミロクの奴隷と身内に何となく違和感を感じ、スタッフの先に小さな火球を生み出した。
「ちょっ! ちょっと待って下さいリッチモンドさん! 今! 今連れてきますから!」
僕の言葉が嘘では無いと判断したのだろう、ミロクは大慌てで走り出し隠れていた家屋の中に引っ込んで行った。
待つ事数分、ミロクとその身内であろう男が鎖を手に手を挙げながらゆっくりと家屋から出てきた。
鎖は一メートルほどの長さで、先端は奴隷の首に付けられた枷に繋がっている。
枷を付けられた奴隷は四人、どれもが女性だったが年齢や種族はバラバラだった。
衣服は布で作られた簡素な貫頭衣だけで、草を編んで作っていると思われる履物を着用していた。
手首にも枷が付けられていたが、枷を繋いでいたであろう短めの鎖は半分に断ち切られ、ダラリと垂れ下がった鎖がシャラシャラと金属音を鳴らしている。
彼女達は一人ひとつずつナップザックを背負い、膨らんだナップザックからすると中身はいっぱいに詰められているのだろう。
そして奴隷達の指先や貫頭衣は血で赤く染まっているのだが、不思議と痛がっている様子は見えない。
ただ彼女達に共通しているのが暗い表情、生気のない眼とガサガサに荒れた肌、艶のない髪、こちらの顔色を伺うような眼差しだ。
見た所、かなり粗野な管理のようだ。
僕がまだ人であった頃、父や兄と共に色々な市場を回った事がある。
その市場の中には他国の奴隷市場なんかも含まれていたが、ここまで管理がずさんな奴隷は見た事が無かった。
奴隷商人は奴隷という命を品物として利益を得る生き物だ。
先もミロクに言ったけど、僕は奴隷に対して憐憫などは感じない。
奴隷はいわゆる犯罪者や、貧困に苦しんだ末に売られた者達であったり、そこに身を落とす様々な事情がある。
まれに没落貴族なんかも混じってはいるけどね。
話がずれたけど、奴隷商というのは総じて自分の商品には金を掛けるものだ。
女なら女の、男なら男なりの処置を施し商品の価値を底上げすのだ。
そもそも奴隷を買うのは富裕層が主なので、多少高くした所でその金銭に応じたクオリティへ昇華すればその分高く売れる、そして商人の身入りも増える。
僕が昔に見た奴隷達は皆、毛艶もよく、体の肉もしっかりと付いた者達だ。
もちろん病気になってしまったり、問題のある奴隷は表には出てこないので、今言った限りではないのだろうけど。
けど目の前の奴隷達に病気の色も見えないし、体の部位に欠陥があるようにも見えない。
「突然ですけど……ミロクさん。奴隷の方々、怪我をしているなら治してあげるよ?」
「え? あ、いや! 大丈夫! 大丈夫です! この血はその、他の奴隷が殺られた時にですね」
「……助けようとしたのかい?」
「そう! そうなんですよ! いやあリッチモンドさんは察しがいいですね!」
「怪我をしてないなら、いいんだけどね」
僕の質問に対し、しどろもどろになって答えたミロクは手を揉みヘラヘラと愛想笑いを貼り付けている。
さっきから感じるこの違和感は何だろう。
ミロクは商人と言っているけど、何かが変だ。
身内と言う男もそうだ。
ガラが悪そうな顔付きに薄汚れた服、背負っている大きなナップザックの口からは、何本もの武器の柄が頭を出している。
「それでどうするんだい? こっちに合流するかい?」
「出来ればそうしたい所なんですが……この先にまだ生存者がいるみたいなんですよ」
「へぇ? 分かるのかい?」
ミロクは怪しげな笑みを浮かべ、今いる場所からさらに一ブロック先に目を向けた。
「はい。ついさっき数人の男女が向こうへ走っていくのが見えたんです」
「その人達も助けたい、という事かい?」
「おっしゃる通りで。リッチモンドさんは冒険者なんでしょう? 身なりからして結構な実力者とお見受けします、手を貸して頂けませんかねぇ?」
ミロクの言っている事が本当なら行くべきだろう。
けど僕の身なりって言っても指輪が三個とネックレス、スタッフ、ローブといったものだ。
これで実力が判断出来るのだろうか?
「いいよ。行こうか」
若干の違和感を感じたまま、僕はミロクと共に彼の示す場所へと赴いた。
ミロクに言われるがまま道を行き、路地裏へと入る。
「本当にいるんだろうね?」
「間違いありません。きっと自分らみたいに隠れているのでしょう」
路地裏を進み、通りが見えなくなった時の事。
「ここならいいだろう」
後ろを歩くミロクからそんな声が聞こえた次の瞬間、僕の後頭部に衝撃が走った。
「ええ。自分は商人でしてね。色んな物品を扱ってるんですよ」
「なるほど、奴隷販売も、という事だね? 別に僕は奴隷に対して何か言うつもりは無いさ。でもどうしてこんな所に?」
「いやはは……恥ずかしながら奴隷を詰んでた馬車が壊れちゃいましてね、奴隷達を連れ出してるウチに逃げ遅れた次第で」
「ふぅん……とりあえず隠れている人達も出てきて欲しいね。なんなら僕が行こうか?」
敵意は無いと僕が再三告げているのに、出てこようともしないミロクの奴隷と身内に何となく違和感を感じ、スタッフの先に小さな火球を生み出した。
「ちょっ! ちょっと待って下さいリッチモンドさん! 今! 今連れてきますから!」
僕の言葉が嘘では無いと判断したのだろう、ミロクは大慌てで走り出し隠れていた家屋の中に引っ込んで行った。
待つ事数分、ミロクとその身内であろう男が鎖を手に手を挙げながらゆっくりと家屋から出てきた。
鎖は一メートルほどの長さで、先端は奴隷の首に付けられた枷に繋がっている。
枷を付けられた奴隷は四人、どれもが女性だったが年齢や種族はバラバラだった。
衣服は布で作られた簡素な貫頭衣だけで、草を編んで作っていると思われる履物を着用していた。
手首にも枷が付けられていたが、枷を繋いでいたであろう短めの鎖は半分に断ち切られ、ダラリと垂れ下がった鎖がシャラシャラと金属音を鳴らしている。
彼女達は一人ひとつずつナップザックを背負い、膨らんだナップザックからすると中身はいっぱいに詰められているのだろう。
そして奴隷達の指先や貫頭衣は血で赤く染まっているのだが、不思議と痛がっている様子は見えない。
ただ彼女達に共通しているのが暗い表情、生気のない眼とガサガサに荒れた肌、艶のない髪、こちらの顔色を伺うような眼差しだ。
見た所、かなり粗野な管理のようだ。
僕がまだ人であった頃、父や兄と共に色々な市場を回った事がある。
その市場の中には他国の奴隷市場なんかも含まれていたが、ここまで管理がずさんな奴隷は見た事が無かった。
奴隷商人は奴隷という命を品物として利益を得る生き物だ。
先もミロクに言ったけど、僕は奴隷に対して憐憫などは感じない。
奴隷はいわゆる犯罪者や、貧困に苦しんだ末に売られた者達であったり、そこに身を落とす様々な事情がある。
まれに没落貴族なんかも混じってはいるけどね。
話がずれたけど、奴隷商というのは総じて自分の商品には金を掛けるものだ。
女なら女の、男なら男なりの処置を施し商品の価値を底上げすのだ。
そもそも奴隷を買うのは富裕層が主なので、多少高くした所でその金銭に応じたクオリティへ昇華すればその分高く売れる、そして商人の身入りも増える。
僕が昔に見た奴隷達は皆、毛艶もよく、体の肉もしっかりと付いた者達だ。
もちろん病気になってしまったり、問題のある奴隷は表には出てこないので、今言った限りではないのだろうけど。
けど目の前の奴隷達に病気の色も見えないし、体の部位に欠陥があるようにも見えない。
「突然ですけど……ミロクさん。奴隷の方々、怪我をしているなら治してあげるよ?」
「え? あ、いや! 大丈夫! 大丈夫です! この血はその、他の奴隷が殺られた時にですね」
「……助けようとしたのかい?」
「そう! そうなんですよ! いやあリッチモンドさんは察しがいいですね!」
「怪我をしてないなら、いいんだけどね」
僕の質問に対し、しどろもどろになって答えたミロクは手を揉みヘラヘラと愛想笑いを貼り付けている。
さっきから感じるこの違和感は何だろう。
ミロクは商人と言っているけど、何かが変だ。
身内と言う男もそうだ。
ガラが悪そうな顔付きに薄汚れた服、背負っている大きなナップザックの口からは、何本もの武器の柄が頭を出している。
「それでどうするんだい? こっちに合流するかい?」
「出来ればそうしたい所なんですが……この先にまだ生存者がいるみたいなんですよ」
「へぇ? 分かるのかい?」
ミロクは怪しげな笑みを浮かべ、今いる場所からさらに一ブロック先に目を向けた。
「はい。ついさっき数人の男女が向こうへ走っていくのが見えたんです」
「その人達も助けたい、という事かい?」
「おっしゃる通りで。リッチモンドさんは冒険者なんでしょう? 身なりからして結構な実力者とお見受けします、手を貸して頂けませんかねぇ?」
ミロクの言っている事が本当なら行くべきだろう。
けど僕の身なりって言っても指輪が三個とネックレス、スタッフ、ローブといったものだ。
これで実力が判断出来るのだろうか?
「いいよ。行こうか」
若干の違和感を感じたまま、僕はミロクと共に彼の示す場所へと赴いた。
ミロクに言われるがまま道を行き、路地裏へと入る。
「本当にいるんだろうね?」
「間違いありません。きっと自分らみたいに隠れているのでしょう」
路地裏を進み、通りが見えなくなった時の事。
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