欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二七〇話 食糧

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 地下に降り、しばらく進むと石造りの大きな部屋に出た。
 所々がパーテーションで区切られ、区切られた場所には簡易的なテーブルやベッドがおかれ、部屋の一番奥に目的の物はあった。

「時刻塔の地下にこんな場所が……」

「こりゃあ最近急ごしらえしたもんだ、接合部や石がまだ新しい。仮設基地ってとこだろーな」

 部屋にはクライシスが動員していたロンシャン兵や、ランチア兵が思い思いに休んでいた。
 負傷兵はいないようだけど、多分負傷する度にクライシスが速攻で治癒したんだろう。
 
「随分とお久しぶりですな、フィガロ様。助けて頂きありがとうございます」

「タウルスさん! 回復して良かったです! シャルルも心配してましたよ」

「いやはや面目ありませんなぁ。矢の一本すら防げないとは」

 目的の物、革命軍が保持していた携帯食糧を、積まれている木箱から取り出して数を数えていたタウルスが俺を見て近付いて来た。
 顔色はすっかり良くなり、肌ツヤも高齢のモノとは思えないほどだ。

「しかしフィガロ様はどんな魔法を? 心無しか矢を喰らう前より体が軽い気がしますぞ」

「あはは……私の秘技ですよ秘技!」

 快調を示すように、力こぶを作る動きをするタウルスだが、まさか俺の血を飲ませた、なんて、言えるはずも無いので、秘技と言って誤魔化す事にした。
 ブラックとブラウンは壁際で不動の姿勢を取っているが、その周りではロンシャン兵とランチア兵が談笑をしている。
 
「こちらがクライシス様からお伺いした、フィガロ様陣営の数約四〇〇、これを二食分と予備に二〇〇、合計千個の携帯食糧でございます」

「そんなに貰えるんですか!」

「はい、この部分の床面にシンプルな魔導技巧が設置されておりましてな。一番上の木箱を取ると……」

 そう言ってタウルスは手近な木箱を取って床に下ろした。
 するとギギギ、という硬い音がなり、積まれていた木箱がせり上がったのだ。

「凄い……!」

「恐らく木箱が積まれている所の床面は、全てこの魔導技巧が設置されております。かなりの数の食糧が保存されていると見て間違いありませんな」

「全兵分の食糧が保管されてるわけじゃないと思うがな。ここと似たような場所が他にもあるだろうぜ」

 積まれた木箱に寄りかかってクライシスが言った。
 千個の食糧を引いてもなお積み上がる木箱はかなり魅力的だ。
 一度食糧を持って屋敷へ帰り、この時刻塔を目的地にして進めばいいのではないだろうか。
 そうすれば食糧の心配をすること無く進めるというものだ。
 だが敵がここを奪い返しに来る可能性もある。

「クライシス、私達は一度帰りこの現状をアーマライト王へ報告してきます、恐らくアーマライト王もこの場所に来る事でしょう。それまでここの守りをお願いしても?」

「いいぜ、むしろそのつもりだ。飯がねーのはキツイからな」

「ありがとうございます。ではさっそく行ってきますね、また連絡します」

「失礼します、お師様」

「おう」

 タウルスによって仕分けられた食糧を、大きめの木箱いっぱいに詰め込むと全部で四つになり、二つずつ運ぶ事になったが、マナアクセラレーションを使えばはさほど重くは感じない。
 リッチモンドも大して重さを感じていないように見えた。

「ここらへんでいいよね」

「大丈夫だろ、フライ」

 路地裏へ入り、リッチモンドは再びアンデットの姿になり、俺と共に空高く飛び上がった。
 前が若干見え辛いのを除けば、どうということはない。
 来た時と同じスピードで屋敷へ戻り、木箱から一人ずつ食糧を手渡していった。
 幸いにも屋敷の水は無事なので、各自持てるだけの水を補給させ一息ついた。
 腕の時刻盤に目をやれば、もうお昼を過ぎた頃だった。

「各隊、振り分けと補給、全て完了致しました!」

 中隊長五人が足並みを揃え、アーマライト王へ報告を上げる。
 食事をし、たっぷり休養した兵士達の顔は戦意に満ち満ちていた。
 アーマライト王にはクライシスのいる時刻塔の話をしてあり、とりあえずの進行目標は時刻塔へと決まっていた。
 市街地を突っ切れば直ぐに着くのだが、敵が潜んでいる可能性も考慮して迂回ルートを採用することにした。
 
「各隊! 進め!」

 アーマライト王の号令が響き、先頭集団から順々に出発していく。
 俺とホワイトとピンクは先頭集団に追従し、何かあればウィスパーリングによって後ろに控えているリッチモンドとシャルルへ連絡を送る事になっている。
 四二〇人の足音がザッザッと鳴り、その音はまるで楽士の奏でるリズムのようだった。

「最後尾が出発したよ、気を引き締めていこう」

「あぁ、了解だ。もうひと踏ん張りしてやるよ」

 トムから借りた装備もしっかりと手入れをしてあり、いつでも戦闘に移れる。
 大きく深呼吸をして、ロンシャンとランチアの同盟軍が進む先をしっかりと見据えて歩いて行った。
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