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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二六八話 アーマライト
しおりを挟む「かまいません! 覇王アーマライト陛下による手腕は兵達の語り草となっております! 柔軟な戦略や素晴らしき先見の明! 今頼れるのは陛下しかおりません! どうか!」
「そう褒めても何も出んぞ? あの時は運が良かったのだ……しかしそこまで言われてしまっては断ることも出来んな」
「では!?」
「いいだろう! 徹底的に抗戦してやろうじゃないか! 易々とこの国は取らせんぞ!」
「ははっ! 有り難きお言葉!」
小隊長による説得で、アーマライト王は心を決めたようだった。
アーマライト王の言葉を受けた小隊長達と壮年兵は、力強く最敬礼を取って並んだ。
そして壮年兵は「伝令して参ります!」と息巻いて屋敷から出ていき、五人の小隊長達はアストラや、先に屋敷にいた他の兵達へ挨拶をしに行った。
「でだ。頼みがあるのだフィガロ殿」
「私にですか?」
小隊長達の様子を見ていたアーマライト王が、俺に向き直り真剣な目をして言った。
「うむ。我が国の都合でそなた達を巻き込んでしまったのだ、こんな事を頼める立場では無いのは分かっている。分かっているのだが、恥を忍んで頼みたい」
「な、なんでしょうか……?」
「そなた達の力を貸して欲しいのだ。あのガバメントを退けて生還したフィガロ殿、我らが寝ている間に周囲の敵を殲滅してしまったリッチモンド殿、それにフィガロ殿の共の傭兵達、そなたらのような強者は中々出会えるものでは無い……どうか、頼めないだろうか」
「分かりました、と言いたい所なのですが……私達の目的はドライゼン王とシャルルヴィル王女の救出です。私一人であれば少なからずご助成出来るとは思うのですが……」
俺とリッチモンド、クライシスの三人だけであれば即答で参加を表明したのだけど、ここにはシャルルとドライゼン王がいる。
それに塔に残したままのタウルスだって気掛かりだ。
「私の事は気にするな。というより私も参戦して宜しいか? アーマライト王よ」
「はい!?」
俺が下を向いて考え込んでいると、ぽん、と肩を叩かれ頭上からドライゼン王の声がした。
俺の聞き間違いでなければ、ドライゼン王も戦うと言ったはずだ。
「いや、それは……! 多大な迷惑と被害を与えてしまった上に、一国の王であるドライゼン王を戦いになど!」
「かまわん。ここまで巻き込まれてしまったのだ、ランチアの兵も少なからず犠牲になった。それに放置して私達だけ先に帰還するわけにも行くまい。もはやこれはロンシャン連邦国だけの問題では無いのだ」
「しかし!」
「こうなっちゃったお父様の意志を変えるのは難しいわよ」
言い合いに発展しそうな両王の横から、シャルルが口を挟んだ。
その表情は呆れたような、諦めたような、そんな微妙な感情が見て取れる。
「お父様はこう見えて頑固なのよ?」
「うむ。やると決めたら私はやるぞ? それにシャルルの婿殿を一人で戦地に赴かせるのもな」
「だっ! いきなり何を!」
至極正当な言い分を語った直後にコレである。
ドライゼン王の発言をすぐさま理解出来なかったのか、アーマライト王が俺とドライゼン王とシャルルの顔を何度も見返している。
「婿……殿? フィガロ殿が? なるほど……そういう事でしたか……知らなかったとは言え御容赦を、フィガロ殿……いえフィガロ様」
「様なんて付けないで下さい、私はまだランチア王家の人間ではありませんから」
ドライゼン王の言葉を理解したアーマライト王は、俺に向けて深々と礼をした。
こんな時に言う事じゃないと思うのだけど、知られてしまったからには仕方が無い。
「という訳で私も戦うぞ? 玉座にただ偉そうに座っているだけの王ではないとフィガロに教えてやろう」
「は、はい……」
「フィガロが行くって事は自動的に僕も行く事になるね。もちろんホワイト君達も」
「すまない、ありがとう」
「私はどうしたらいい? 私も戦う?」
紅茶を片手にリッチモンドが言い、シャルルがそれに続いておずおずと手を挙げる。
無理に戦う必要も無いけど、シャルル一人だけどこかに避難させるというのも、なんだか危ない気がする。
「シャルルは俺達と一緒に来てくれ。ドライゼン王の障壁があるんだ、一緒に行動した方が安全だろう」
「分かったわ! よろしくねお父様、リッチモンド」
「クックック……戦場の守護獅子王と呼ばれた私の力、存分に使わせて貰おう」
ドライゼン王が怪しげに笑っている中、シャルルはリッチモンドに握手をした後、仁王立ちをしているホワイトとピンクに近付いて行った。
「いやはやなんとも豪華な顔ぶれになってしまいましたな……」
「これはさすがに私もびっくりです」
この一件でシャルルの強引な性格と度胸は、ドライゼン王から受け継がれたものらしい、というのが分かった。
森で出会った頃のシャルルとはまるで違うが、虚弱体質を克服した事により、本来持っていた性格を取り戻したのだろう。
いくら俺の、フォックスハウンドの仲間とは言え、リッチモンドの正体を知ってなお、気楽に接する事が出来るとは驚きだった。
まぁ……森に居た頃もクーガと仲良くやっていたようだし、物怖じしない性格なのだろう、きっと。
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