欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
102 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二六三話 リッチモンドの推理

しおりを挟む
 屋敷から半径五〇〇メートル以内の敵を全て殲滅出来た事を確認した僕は、屋敷の上に立ち考え事に耽っていた。
 時刻はもう朝方になっており、朝日がうっすらと差し始めている。
 アンデッドだからといって、僕が朝日に弱いわけはない。
 朝を知らせる小鳥の囀りが軽やかに聞こえる中、朝日に照らされながら僕は考える。

「革命軍の目的は何だ……? そして首謀者は誰なんだ」

 フィガロに頼まれるままこの国を訪れ、なし崩し的に参戦した今回の戦争だが、敵の目的が全く分からない。
 革命には血が付き物ではあるけれど、ここまで徹底的にやるだろうか。
 ロンシャン連邦国という国は連邦と言うだけあり、かなりの国土を持っているようだ。
 王城を中心として広がる街並みは、ランチアと比べるのが馬鹿らしくなるぐらいの規模を誇る。
 今いる屋敷から見渡せる範囲だけでも、ランチア市街が四つは軽く収まるだろうけど、見える範囲で煙や火の手が上がっていない場所の方が少なかった。
 ロンシャンの街は川や城壁などで細かく区分されているようだが、その中を走る道路は曲がりくねり、路地や小道が入り組んでいる。
 高低差も顕著であり、窪地から丘の上にまで住宅街が広がっている。
 長い煙突を何本も生やした工業地帯は砂漠に隣接しており、その砂漠はいくつもの堀抜かれた後があり、まるで巨大な蟻地獄のように見える。
 堀抜かれた場所は採石場なのか、それとも地下に眠る希少鉱物を掘り出す為の場所なのか。
 聞いた所によれば、ロンシャン連邦国の地下には迷宮も存在するようで、この街のどこかにその入口を管理している建物があるという。
 
「迷宮の主権を巡った争いもあったらしいけど……今回は別だろうね。国王とドライゼン王だけじゃなく、両王女をも手にかけようって言うんだから、徹底してるよね。ドライゼン王とシャルルちゃんを殺害するなんて、ランチアに宣戦布告をしているようなものだし……まさか敵の狙いは戦争そのものなのか……?」

 ただ革命を起こすだけなら、自国の王を処刑出来れば勝ちだ。
 革命というのは大体が政治体制や国の経済体制などに不満を持つ者達が、抜本的解決を目指す戦いだ。
 思想や身分制度なども大きく関わってくる難しい問題だけれど、他国を巻き込んでまで強行する革命など聞いたことも無い。
 しかし、革命という大義名分を掲げた上で、本当の狙いが国家間の戦争だとすればどうだろう。
 そう考えれば、先程飛び去って行った巨大な鳥型の魔獣らしきモンスターや、国が保有する兵力の三分の一が離反するという事態にも辻褄が合うのではないだろうか?
 ただの革命にしては戦力が大きすぎると思う。

「暴論かなぁ。でもいい線行ってると思うんだけどね。……仮に戦争を起こした所でメリットは何だ? こんな大規模な兵力を動員させられるのが、いち騎士団の団長だけとは思えない。例え国最強の剣士だと言えど、政治関連が絡んでくるのなら黒幕は一人じゃないはずだよね。国最強の剣士を旗頭とした大規模な革命……本当の黒幕はきっと他にいる」

 だとしたらその黒幕は誰だというのか。
 アーマライト王という線はほぼ無いだろう、戦争をしたいのに自作自演をしてわざわざ自国の兵力を落とす意味が無い。
 この国の第二王女であるヘカテーの線も薄いだろう。
 父親である王を処刑して自分が女王になった所で、戦争に何の意味を見出すというのだろうか。
 となれば……軍部の暴走、という線が一番高いだろうね。
 ガバメントとかいう騎士団長も軍部に所属しているはずだし。

「僕の勝手な推測だけど、そう考えれば納得がいくね。まぁ僕一人が結論を出したところで戦局が変わるわけでもないけど」

 そこまで考えた所で頭の中に仲間の声が届いた。

「リッチモンド、聞こえるか?」

「やぁフィガロ、待ちわびたよ。一体どこで油を売っていたんだい?」

「色々とごたついてな。方が付いたからそっちに合流したいんだけど……今どこにいるんだ?」

「今はとあるお屋敷の廃墟にお邪魔しているよ。シャルルちゃんを含め全員無事だ。ゆっくり寝ている所だから静かにね。ほら、ここだよ」

 僕はフィガロへ思念を送ると、スタッフを空に掲げ、黒い炎を打ち上げた。
 こうすれば明るくなってきた空でも見えやすいだろう。

「あぁ、確かに確認した。あの黒いもやもやだろ? すぐいくよ」

「はいよ。ここら一帯の敵は全部片付けておいたから安心していい」

「そうか。ありがとう」

「どういたしまして。あ、そうだ。数時間前に巨大な鳥が飛んでいったんだけど何か知らないかい?」

「リッチモンドにも見えてたんだな。それ、逃げられた獣魔兵の親玉だよ。ウルベルト中将とかいう隊長が使役してるっぽい鳥だ」

「中将ね……軍のほぼトップじゃないか。フィガロが取り逃がすなんて……」

「勘違いするなよ? 殺すのにビビっていたわけじゃない。不意を突かれて対応できなかったんだよ」

「そこまで言ってないけど……なるほどね。あの鳥からはクーガくんと同じような魔力を感じたんだけど……フィガロは感じなかったかい?」

「いや……分からなかった。クーガと同じって事はまさか!」

「そう。もしかしたらだけど、あの鳥は魔獣かも知れない。予測だけどね」

「魔獣を使役できる人間なんて……聞いた事ないぞ……」

 驚いた様子のフィガロだが、その魔獣をペットのように扱う人間が自分だという事はわかっているのだろうか?
 確かにクーガは魔獣にしてはかなり小型の部類にはいるが、ヘルハウンドという地獄の猟犬は魔獣の中でもかなり高ランクの存在だ。
 僕が本気で戦って五分五分か、もしかすると完全に敗北を喫するかも知れない。
 クーガの場合はまだ幼生体だと思うし、そこまでの大敗はないと思いたいけど、実力が未知数なのは間違いない。

「俺だってクーガが魔獣になったって聞いた時は驚いたし、魔獣に主人扱いされるなんて思わなかったけどさ……他にもそんな人間がいるなんて、信じられない」

「あ、自覚はしているんだね」

「何がだ?」

「いや、何でもないよ。それじゃ僕は屋敷の中に戻るから勝手に入ってきてくれよ」

「わかった。あと数分で着く、それじゃあ」

 ウィスパーリングを切り、人の姿へ戻った僕は屋敷にかけていた魔法を全て解除し、静かに扉を開けた。
 幸い誰も起きていないようで、屋敷の中は静寂に包まれていた。
 
「熟睡出来たようだね。約束は守ったよ、シャルルちゃん」

 ヘカテーと肩を寄せあって眠りこけるシャルルは、スヤスヤと安らかな寝息を立てていた。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。