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しおりを挟む十五歳になってしばらくしての事だった。
父の書斎に呼ばれた。
いかなる理由があろうと入れてもらえなかった、父の書斎。
緊張しながらも中に入り、いつもの挨拶を交わした直後だった。
「――フィガロ。お前には家を出てもらう」
告げられたのは、父からの勘当宣言だった。
「父様、それは……私が出来損ない、だからでしょうか」
「そうだ。自分で分かっているなら話は早い。お前の噂が隣の領地にまで伝わっている。これ以上、お前を家で養う事は不可能なのだ。領地の外れに、お前を引き取っても良いという老人がいる、その人を訪ねなさい。……今日中にな」
「はい……ご迷惑をお掛けしました。ここまで育てていただき、お礼を申し上げます。そして……お世話になりました」
「あぁ。今後、アルウィンの名を語る事は許さん。……達者でな」
「はい、父様もご健勝で」
一礼し、静かに書斎の扉を閉めた。
こうなるであろう事は、心のどこかで予想していた。
アルビオン地方にあるヴェイロン皇国で、最大の権力を持つ貴族――『アルウィン公爵家』の次男として俺は生まれた。
『アルウィン公爵家』は代々、高名な魔導師を排出してきた家柄であり、数百年の歴史がある。
多くの武勲や功績でその地位を不動のものとしている、ヴェイロン皇国随一の有力貴族なのだ。俺のように不能な人間など、恥さらしでしか無いのだろう。
俺には生まれつき欠陥があった。
魔力を練れない、という致命的な欠陥である。
これは「魔法が使えない」のと同義であり、一般人にも使える低級魔法すら発動できない。
そんな出来損ないがアルウィン公爵家にいるとなれば、家名を汚し、評判が落ちる。
だったら捨ててしまうしかない。
数百年続く家の歴史、国や民からの信用、他貴族との軋轢、その他諸々の事情を勘案すれば、間違いなくそうするだろう――あの父ならば。
父は父なりに考え、ただ追い出すのではなく、引き取り手を用意してくれたのだろう。
そんなことを思いつつ、俺は荷造りをしていた。
幼い頃から、自分の欠陥には気付いていた。
練ろうとしたそばから魔力が散っていくのだ、変だと思わないわけが無い。
医者、呪い師、魔導理学など、あらゆる機関を回った結果、体内の魔力経絡に異常がある、という診断結果が出た。
過去にない症例で、医学や魔法の知識を結集してもお手上げだそうだ。
研究対象として協力して欲しい、と打診されたが、母親がやんわりと断っていた。
今思えばあの時、親は俺を見捨てなかった。
親が研究に協力していたら、俺はもうこの家にいなかっただろう。
「それでは……行ってまいります」
「気をつけるのよフィガロ……ごめんね、母さんが駄目なばかりにこんな……」
「いいのですよ母様。道端に捨てられるより遥かにありがたいので」
出発は人目に付きにくい夜中。母が一人、門前で見送ってくれた。
この門から出たら、俺はアルウィン家のフィガロでは無くなる。
十五年過ごした家を離れるのは、少しばかり心に来るものがある。
「それでは母様、どうかご健勝で」
「貴方もねフィガロ……いつかまたどこかで会える事を祈っているわ」
母の言葉は震え、頬には幾筋の涙。
十五年間、一度も泣き顔を見せなかった母が泣いている。
どうやら俺は愛されていたらしい。
嬉しく思った。
「アルウィン家の繁栄と母様のご健勝、心よりお祈りいたします」
簡潔にそれだけ言って、門をくぐり外に出た。
風が頬を撫で、俺を誘い、連れ添うように、さわさわと音を立てる。
闇に染まる街道を歩く。ただの一度も振り返る事無く。
我が名はフィガロ、家名はまだ無い。
◇ ◇ ◇
夜の草原を歩き、目指すはアルウィン領の北端、サーベイト村。
そこからさらに北にあるサーベイト大森林に、俺の里親がいるそうだ。
なんでも数十年前にサーベイトに越してきて以来、ずっと森の中で暮らしている変わった老人が里親らしい。どんな人かは分からないが、性悪でない事を祈るばかりである。
サーベイト村までは馬車で数時間、徒歩であれば丸二日かかる距離だ。
それぐらい離れていれば、父としても問題は無いと考えたのだろう。
もちろん馬車や馬といった交通手段は与えられていないので、徒歩での移動となる。
「しかし……改めて考えてみると人生詰んでるよな」
即席で作った焚き火の前で、一人呟く。
ゆらゆらと揺れる炎にすら笑われているような気がしてきた。
枝の爆ぜる音を聞きながら深い溜息を吐く。
「五歳の子供でも使える、【ティアドロップ】すら使えないんだからな……」
ティアドロップというのは、お子様用の練習呪文で、指先から水滴を出すだけの簡単なお仕事である。幼少期は、そういった魔法を使って魔力コントロールを学ぶのだ。
「魔法の道はとっくに捨てた。優れた技術も無いし、裸一貫、農民にでもなるか……あれ、一度村の人にやらせてもらったけど、クッソキツいんだよなぁ……。やだなぁ、強引な税の取り立てで自分の食い扶持すら取り上げられて、食う物も無くなって水だけで命を繋いで……餓死した挙句モンスターに食われて終わるのかなぁ……」
口に出してみたものの、実際には、そんな苛烈な取り立ては無い。
食物を生み出す農民が倒れては元も子もないのだから。
『領地の農民、猟師がいるからこそ、我々は食い繋ぎ、命を長らえる事が出来るのだ。そこを履き違えてはならん、偉いのは我々ではなく、日々自然と向き合っている彼等だ』
父が事あるごとに言っていたのを思い出す。
行き過ぎた妄想にふけるのをやめ、じっ……と炎を見つめる。
厳格な父、気丈で優しかった母、勉学のために王都へ出た姉と、魔法剣士として大成した兄。
皆で囲んだ食卓が脳裏を過ぎり、視界が滲む。
悔やむ事ではない。認めなければならない。
一人で生きていかねばならない。過去を捨て、未来を生きねばならない。
そう自分に言い聞かせていた時だった。
「グルルルルル……」
少し離れた場所から獣の声が聞こえた。
「チッ……」
ここらのモンスターは総じて弱く、火を焚いていれば強襲してくる事など無い。
しかし安全かと聞かれれば、否定せざるを得ない。
火が消えるか、寝付いてしまったら、首を噛み切られて終わりだ。
「喰われるつもりは……無いからな」
足元に置いてあった護身用の短槍をしっかりと握りしめ、声の聞こえた方向を警戒する。
聞こえた限り敵は一匹だけ、やれない相手じゃない。
アルウィン家では、武術の指南もある程度受けてきた。
魔法がいかに優れていようと、武術の心得が無ければ武人の動きを予測出来ない、というのがアルウィン家の教えだった。
魔法が使えない分、武術に打ち込んだのはある意味正解だったかもしれない。家族には一度も勝つ事が出来なかったけれども。
世の中には魔法を斬るなんて馬鹿げた芸当をする達人もいるらしいが、本当かどうかは知らない。
「抵抗させてもらうぞ? 多少はね?」
数刻の睨み合いが続き、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
実戦は初めてだからな、落ち着けよ俺。
「ガウウ……」
カサリ、と音を立てて、声の主が姿を現した。
「なんだ?」
見た事の無い、狼のようなモンスターだった。
体躯はやせ細り、後ろ脚を引き摺るようにして、こちらを窺っている。
焚き火の明かりでしか判断出来ないが、体毛は黒く、所々に白い毛が流線のように走っていた。
「怪我してるのか」
テリトリーから出てきたのだろうか、それとも怪我をして、仲間に見捨てられたのだろうか。
少なくとも襲ってくるつもりは無いようだった。
「火が怖くないのか……?」
足を引き摺りながら、少しずつこちらへ向かってくるモンスターは、焚き火など気にもしていないように見えた。
「グウウ……」
「助けて欲しい……のか?」
槍を片手で持ち、そろそろと近付いてみるが、威嚇もしない。
ゆっくりと手を伸ばし、頭を撫でてみる。
フサフサであろう体毛は血でべっとりと汚れていた。
このモンスターの血では無いようだ。
怪我は後ろ脚だけ、後は空腹による削痩といった所か。
「賢いのか懐っこいのか……分かんねぇ奴だな。モンスターのくせに人間に助けを求めるとか。まぁ旅は道連れって言うしな。これも何かの縁だ、仲良くしようぜ」
カバンの中から干し肉を出し、モンスターの目の前に放り投げる。
俺と干し肉を交互に見た後、干し肉に齧り付くモンスター。
背に腹は代えられないのだろう。
追加で三本ほど干し肉を投げ、その喰いっぷりを眺めた。
「名前付けるか……? 種類は……狼種だよなぁ……クーガ。なんてどうだ? 空腹の牙で、クーガだ。……ハハ、我ながら酷いネーミングセンスだな」
苦笑いしながら語りかけるが、当のクーガはまるで聞いていない。
食った後に襲ってくるかも知れないし、どっかに行ってしまうかも知れないが、俺的にはどちらでもよかった。
敵対するなら排除するまでだし、去る者は追わず。一人は寂しいので、出来れば連れて行きたいんだけども。
「ん?」
干し肉を食い終わったクーガは、一つ大きな欠伸をした後、丸くなって寝始めてしまった。
無用心すぎる。
「お前も疲れてたのか? いいよ、見張りは俺がやっとくからゆっくり寝てろよ」
もうすぐ夜明けだ、一日くらい寝ずとも平気だろう。
むしろこれで寝てしまって、永遠に起きられないのは困るからな。
「我ながら……お人好しだねえ」
◇ ◇ ◇
夜が明け、出発の支度をしているとクーガが目を覚ました。
「どうするんだ? 行くも行かないもお前次第だけど……って言っても通じないよな。アホらし」
じゃあな、とクーガの頭を撫で、カバンと槍を手に取り、俺はその場を後にした。
このペースで行けば、今日の夕刻には目的地に着けるだろう。
俺は干し肉を齧りつつ、槍を杖替わりにして、黙々と歩き続けた。
道中振り向くと、一定の距離を保ったまま、クーガが付いてきているのが見えた。
俺を狙っているのか、干し肉を狙っているのか、あまり良い気分では無い。
喰われても困るので、手持ちの干し肉を小分けに落として進む事にした。
結果、クーガはサーベイトに着くまでずっと付いてくる事になった。
サーベイト大森林は、アルウィン領の北に位置する大規模な森林地帯。
様々な動植物が棲み着き、サーベイト村の近くの森は憩いの場として、一部が開拓されている。
一方で奥地にはあまり人の手が入っておらず、自然のままの姿を維持している。
そんな場所を、俺は今訪れていた。
「ホントにここで合ってんのかな……」
道も無く、木々が鬱蒼と茂っていて、どう考えても人が住む環境じゃなかった。
森に入って、早二時間ほどが経過している。
父から受け取った書面には、小一時間進むと到着する、という記載があった。
迷ったのでは? と思ったが、不安になるのでそんな考えは捨てる。
そして、不安を吹き飛ばすように大声を張り上げた。
「すーいませーーん! 誰かいませんかーーー?」
「ここにおるでな。デカい声出さんでも気付いとるよ、お前さんがフィガロじゃな? そんなに魔力を垂れ流さんでも分かるわい」
「はぁん!?」
背後から聞こえた突然の声に、慌てて振り向いた。
そこには、身の丈は一七十センチほど、赤色のとんがり帽子を被り、何年剃っていないのかと問いたくなるほどの、立派な口髭を生やした渋面の老人が立っていた。
「はぁん、じゃないわい。さっさとその物騒な魔力を引っ込めんか。森が怯えとるじゃろ」
「と、言われても……えっと、貴方が私の里親の……?」
「クライシスじゃ。気軽にクラ爺と呼んでくれて構わんぞう。ほれ、ピースピース」
「お初にお目にかかります、私……えっと……フィガロと申します。家名はなく、ただのフィガロでございます。この度は、不肖の私の身柄を預かっていただけるという事で……」
「あーいい、いい! そういう堅っ苦しいのは無しじゃ! そもそもお前さんもう貴族じゃ無かろーて。一般ピーポーはそんな仰々しい挨拶せんわ」
「いや……しかし……その……」
「苦い顔しとるなぁ。そりゃ十五年も貴族やってりゃ簡単には抜けんよなぁ。ま、気楽にやっとくれ、キラークにな。ほれ、ハイタッチじゃ! これくらいは出来よう?」
クライシスと名乗った老人――クラ爺の勢いに呑まれて手を挙げると、スパーンという小気味よい音が森に響き渡った。
渋面の老人が陽気にハイタッチを求めてくる絵面もそうだけど、こんなに気楽に接してきた他人は初めてなのでかなり戸惑った。
「ほっほっほ、良い掌だのー! さて、立ち話もなんじゃし帰ろうじゃないか」
「帰るって……どこに……」
「アホかお前さんは。家に決まっとろうが」
「あ……はい、そうですね」
俺の返事を待たずしてクラ爺はさっさと行ってしまった。
また迷子になっても困るので急いで付いて行くのだが、そこで衝撃的な光景を見た。
この老人、見た目はかなりの高齢なのだが、歳を感じさせない身のこなしとスピードで、道無き道をヒョイヒョイと進んでいく。
傾斜が七十度はありそうな斜面を流れるような動きで駆け上がり、常人ではあり得ない動きで木々の枝から枝へと跳んで行くのだ。
地面に足をつけている時間の方が少ないんじゃないか、と思うほどの移動スピードだった。並外れた体幹と身のこなしが無ければ出来ない芸当である。
アルウィン家で鍛え抜いた俺の肉体をもってしても、クラ爺が通過した場所を見様見真似で付いて行くのが精一杯だった。
魔法が使えないかわりに、肉体は結構鍛えてきたつもりだったのに、その自信が見事に砕け散った。
あの動きは並の戦士なんて目じゃない、クラ爺は確実に達人の域に到達している。
アルウィン家の皆が一斉に攻撃したとしても、笑って躱すのは確実だ。
なんなんだこの爺さんは。
「なんじゃあ、だらしないのぅ。最近の若者はこれだからイカン」
「す、すみ……すみません……。お言葉、ですが、老公が……速いの……では……」
「馬鹿言うんじゃない。ワシぐらいの老骨に追いつけんでどうする? お前さんに付いてきたあのデッドリーウルフの方がよっぽど速いぞい? 獣風情に負けるとはのう」
「申し、わけ、ありません……て、デッドリーウルフとは?」
「ん? お前さんのペットじゃないのか? 模様が若干異なっとるが、ありゃあ絶対にデッドリーウルフじゃの。あんな狼を連れとるもんじゃから、少し期待したんじゃがのぉ……残念無念また来年じゃな」
やっとの思いでクラ爺に追いついたそばから、そんな事を言われた。
「その狼は――」
息を整えた後、俺は狼と出会った経緯を話したのだった。
デッドリーウルフはアルウィン領より遥か北方、険しい山々が連なるザガート高地に棲息すると言われる狼種のモンスターだ。
その身体能力と知能の高さから、強力なモンスターがはびこるザガート高地の、生態系の頂点に君臨している。
並の戦士や冒険者では歯が立たないほどの強さで、基本群れで生活しており、一匹で遭遇する事はまず無い、とクラ爺は言った。
「お主、よう食われずに生きとったな……」
「はは……ホントですね……でもどうしてアルウィン領に、しかも一匹で」
「何かの理由で群れを追われたか、リーダーの座を奪い合って負けたか……こればっかりは分からんのう」
彷徨っていた理由は分からないが、付いてきた理由はなんとなく分かる、と言うのがクラ爺の見解だった。
その旨も含めて色々と話を聞きたいからさっさと家に入れ、と言われたので、挨拶もそこそこにお邪魔する事にした。
ちなみにクーガは家の反対側にある巨大な岩の上に伏せていたが、視線はしっかりと俺に向けられていた。
◇ ◇ ◇
「はぁん!? お前さんそれ本気で言っとるのか!?」
「え? あ、はい。何か可笑しかったでしょうか」
「おかしいも何も無いわい。お前さんよう今まで生きてたのう……」
荷解きを終えた後、軋む椅子に腰掛けてクラ爺の入れてくれた紅茶を啜りつつ、俺の生い立ちをある程度話した。
クラ爺が唖然とした顔でこちらを見ているのだが、理由が分からない。
その後、クラ爺による徹底的な身体検査が行われた。
この世界の大気には様々な物質が含まれていて、大別すると【空気】【魔素】の二つ。
世界に存在する多種多様な生物の全てが、その恩恵にあやかっている。
生きるために空気を吸い、魔素を体内に取り込む事で魔力へ変換し、その力を以て魔法を行使する。
それら二つは細胞単位で溶け合っており、どちらかが欠けると、生命活動を維持出来なくなってしまう……というのが、クラ爺のご高説だった。
この大前提を基に、俺の体の説明だ。
俺は幼い頃から魔力を練る事が出来ないという欠陥を持っていて、あらゆる治療を試みたが結果は変わらずだった。
唯一分かったのが、魔素経絡の歪みからくる魔素供給不全という事だけだった。
いつしか俺は腫れ物扱いされ、屋敷の中で軟禁状態で生かされていた。
けれど魔法を行使出来ない事以外は、常人と変わらない生活を送れていたのだ。
剣術に優れた兄から毎日指導を受け(いつもボコボコにされたが)、頭脳明晰な姉に座学を教わって、半泣きになるほどの課題を毎日出された。
二人曰く、『ずっと家にいるんだから、多少の無茶は出来て当然』だそうだ。
――こんな話をした直後の反応が冒頭のものだ。
「魔素を取り込めないっちゅう事は死ぬと同義じゃぞ。けれどお主は生きちょる、その判断を下した奴がヤブなんじゃよ。うむ、絶対にヤブじゃ、間違いない」とブツブツ言っていた。
身体検査はそこそこの時間がかかった。
水晶のような物を握らされたり、皮膚を少し取られたり、重りを持ち上げさせられたり、血を採られたり、切り傷を付けられたりと結構な目に遭った。
そして出た結果は――。
「うむ、間違いない! お主は人間じゃない!」
というトンデモ発言だった。
「ひどい!」
「冗談じゃよ、まぁあながち嘘でも無いがな。検査の結果じゃがのう……全ての値がめでたく異常値を示しておるよ。ホッホッホッ」
「異常なのは嫌というほど存じております。でも、それで終わりではない、ですよね?」
検査を受けながらクラ爺の事はよく見ていた。
聞いた事の無い様々な魔法や、見た事の無い魔道具を使いこなすこの老人が、一般人と同じ結果を出すとは到底思えなかったのだ。
「ふむ。よいか? 心して聞くのじゃ。これから話す事は全て真実じゃ」
「分かりました」
クラ爺の説明はこうだった。
大気中の魔素を取り込むための魔素経絡の数が、俺には一般人の十倍ある。ゆえに取り込める量も一般人の十倍、その気になればそれ以上も可能らしい。
そして吸収と同時に放出も行っており、放出する魔素の量は取り込んだ量の数倍だという。
これがまず、一つ目の異常。
常人は体内の魔力総量が満たされた場合、魔素経絡が自動的に閉じ、総量が減ればまた経絡が開いて、大気中の魔素を吸収する。
無意識に倍以上も魔素を放出するなど、見た事も聞いた事もないらしい。
そして二つ目。体内に貯蔵された魔力は絶えず循環していて、細胞の活性化を行っている。これは万人に共通する事だ。
魔力が循環しない細胞は驚異的なスピードで老化し、最悪の場合、魔力が足りず魔力欠乏症となり、死に至るという。よって、魔力を練れない俺が生きている事自体が異常、という事になるのだ。
三つ目。これは二つ目と矛盾するのだが、俺の体内には魔素が満ちていた。
魔力では無く、魔素である。
通常であれば取り込んだ魔素を体内に循環させ、細胞と馴染ませる事により魔力が生まれるのだが、俺の保有する魔素は細胞と馴染む事もせず、体内に存在していた。
これが、俺の存在を異質たらしめている原因でもあった。
四つ目、驚くべき事に皮膚や爪、血液、頭髪に至るまで、通常では出るはずの無い全ての箇所から魔素反応が出たと言う事。もはや意味が分からない。
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