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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二六〇話 王女とアンデッド
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「ひっ……!」
シャルルは僕の本当の手を見るなり、小さな悲鳴を上げた。
しかしその後はぐっと口をつぐみ、目を閉じてる静かに深呼吸を繰り返した。
そしてゆっくりと目を開き、しっかりとした眼差しで僕を見た。
「驚いたわ。本当に、人間じゃないのね……しかもリッチって……かなり上級のアンデッドじゃない。歳を重ねる毎に強さが増す……リーサルデッドロードや不死の超越者に近いと言われるアンデッド」
「ご説明痛み入るよ。その通りさ、納得してくれたかい?」
本来僕のようなリッチの上位存在はあまり表に出てくる事は無い、というよりは、その上位存在になる前に討伐されてしまうのが殆どらしい。
リッチとして一〇〇年以上経過した存在はエルダーリッチと呼ばれるようになるが、大体はエルダーリッチになる前に滅びるか、リーサルデッドロードと呼ばれる上位存在へ変異する。
それよりも更に上位の存在、イモータル・トランセンドとは全ての不死者の頂点に立つ究極のアンデッドのことを指し、命無き者の王、理の反逆者、などなど様々な二つ名を持つ最上位存在だ。
僕はリッチになって一〇〇年近くは経つけれど、ずっと家の中に閉じこもっていた為にそこまでの強さは無い。
それでもそこら辺の生者やアンデッドには勝てるけど、僕より上の存在が出てきたら、きっと手も足も出ないだろう。
「え、ええ。大丈夫よ、ちょっとびっくりしただけ。心配無いわ」
「良かった。もう少し騒がれるかと思っていたけど……君は強引なだけでなく、胆力も優れているようだね」
「図太くて悪かったわね? フィガロやクライシスさんと一緒に生活していれば大体のことは受け入れられるようになるものよ」
「あはは! それは同感だ! あの二人は色々とおかしいからね」
「そう! そうなのよ! 本当に困っちゃう」
話している内にシャルルの引きつっていた表情も柔らかくなり、リッチのままの僕の手をしげしげと眺めては指で突いたり、つまんだりしている。
予め約束をしていたとは言え、人はここまで柔軟に対応出来るものなのだろうか、と多少なりとも疑問を抱かざるをえない。
「フフ……」
「なに? 私変な事言った?」
「いや、ごめんごめん。そうじゃない。フィガロやお師様も変だけど、君も大概だなと思っただけさ」
「褒められてる気がしないわね?」
「貶しているつもりは無いよ?」
「くく……」
「ふふふ……」
互いに笑いを堪えていると、僕の前に再びシャルルの小さな手が差し出された。
今度は強引に手を取られる事もなく、僕はアンデッドのままの手でその小さな手を握り返した。
「改めて、これから宜しくね。リッチなリッチモンドさん?」
「その言い方だと僕がまるでお金持ちみたいじゃないか……何にせよ、本当の僕を受け入れてくれてありがとう。よろしくね、王女様のシャルルちゃん」
シャルルと固い握手を交わした後、僕は自分の手を人間のものへと戻した。
外では相変わらず戦闘が続いているがそこまでの激しさは無く、革命軍とロンシャン連邦軍は膠着状態で、互いを牽制し合っているような状況だった。
あと数時間もすれば日が昇り、周囲の状況ももっと分かりやすくなるだろう。
無駄に動き回って疲労を溜めるより、この屋敷に留まり体力や気力を回復させる方が得策だ。
「それで、これからどうするの? クライシスさんは?」
「お師様とは何故か連絡が取れない。あの人がやられる事はまず無いけど、もしかしたら何かしらの邪魔が入っているのかもしれない。それと、僕は日が登るまでここに留まった方がいいと思うけど、シャルルちゃんはどう思う?」
「邪魔……か、なんか嫌な予感がするわ。とは言え留まるのは私も同感ね、この包囲網の中で動き回るのは得策だとは思えないわ」
「何を二人で話しているの?」
僕とシャルルが意見交換をしていると、大きな欠伸をしながらロンシャン連邦国の第二王女だという女が割り込んできた。
「ここに留まった方がいいだろう、って話ですよヘカテーさん」
「あぁ、そうね。大した兵力もない私達が戦場に飛び出た所で出来ることは何も無いし、フィガロ様とも合流してないし。いいんじゃないかしら? それに眠いし」
再び大きな欠伸をし、少しだけ外の様子を見たヘカテーが目を擦りながら壁際に寄りかかり、ストンと腰を落としてしまった。
目の下浮かぶ薄いクマを見る限り、彼女のかかえる心労は少なくないのだろう。
ロンシャン連邦という国は、僕が生きていた時代には存在しなかったので、ここ二〇〇年の間に建国された比較的新しい国なのだろう。
僕が生きていた時代、ここにあったのはドーヴィル公国という小さな国で、小さく貧しいながらも力強いイメージを抱いていたような気がする。
そのドーヴィル公国には、国宝とされていた大きな宝石があったような気もするんだけど……昔の事過ぎて記憶が曖昧だ。
「塔に留まってもらったランチア兵やタウルスの容態も気になるけど、ひとまずはこの境地を乗り切らないと」
「本当にごめんね、シャルちゃん。ランチアの方々にはなんとお詫びをしていいのか……」
壁際にへたりこんだヘカテーと、目線を合わせるように座り込んだシャルルが二人してため息を吐いた。
ソファの方を見ればドライゼン王とアーマライト王が二人して頭を抱え、同じようにため息を吐いていた。
シャルルは僕の本当の手を見るなり、小さな悲鳴を上げた。
しかしその後はぐっと口をつぐみ、目を閉じてる静かに深呼吸を繰り返した。
そしてゆっくりと目を開き、しっかりとした眼差しで僕を見た。
「驚いたわ。本当に、人間じゃないのね……しかもリッチって……かなり上級のアンデッドじゃない。歳を重ねる毎に強さが増す……リーサルデッドロードや不死の超越者に近いと言われるアンデッド」
「ご説明痛み入るよ。その通りさ、納得してくれたかい?」
本来僕のようなリッチの上位存在はあまり表に出てくる事は無い、というよりは、その上位存在になる前に討伐されてしまうのが殆どらしい。
リッチとして一〇〇年以上経過した存在はエルダーリッチと呼ばれるようになるが、大体はエルダーリッチになる前に滅びるか、リーサルデッドロードと呼ばれる上位存在へ変異する。
それよりも更に上位の存在、イモータル・トランセンドとは全ての不死者の頂点に立つ究極のアンデッドのことを指し、命無き者の王、理の反逆者、などなど様々な二つ名を持つ最上位存在だ。
僕はリッチになって一〇〇年近くは経つけれど、ずっと家の中に閉じこもっていた為にそこまでの強さは無い。
それでもそこら辺の生者やアンデッドには勝てるけど、僕より上の存在が出てきたら、きっと手も足も出ないだろう。
「え、ええ。大丈夫よ、ちょっとびっくりしただけ。心配無いわ」
「良かった。もう少し騒がれるかと思っていたけど……君は強引なだけでなく、胆力も優れているようだね」
「図太くて悪かったわね? フィガロやクライシスさんと一緒に生活していれば大体のことは受け入れられるようになるものよ」
「あはは! それは同感だ! あの二人は色々とおかしいからね」
「そう! そうなのよ! 本当に困っちゃう」
話している内にシャルルの引きつっていた表情も柔らかくなり、リッチのままの僕の手をしげしげと眺めては指で突いたり、つまんだりしている。
予め約束をしていたとは言え、人はここまで柔軟に対応出来るものなのだろうか、と多少なりとも疑問を抱かざるをえない。
「フフ……」
「なに? 私変な事言った?」
「いや、ごめんごめん。そうじゃない。フィガロやお師様も変だけど、君も大概だなと思っただけさ」
「褒められてる気がしないわね?」
「貶しているつもりは無いよ?」
「くく……」
「ふふふ……」
互いに笑いを堪えていると、僕の前に再びシャルルの小さな手が差し出された。
今度は強引に手を取られる事もなく、僕はアンデッドのままの手でその小さな手を握り返した。
「改めて、これから宜しくね。リッチなリッチモンドさん?」
「その言い方だと僕がまるでお金持ちみたいじゃないか……何にせよ、本当の僕を受け入れてくれてありがとう。よろしくね、王女様のシャルルちゃん」
シャルルと固い握手を交わした後、僕は自分の手を人間のものへと戻した。
外では相変わらず戦闘が続いているがそこまでの激しさは無く、革命軍とロンシャン連邦軍は膠着状態で、互いを牽制し合っているような状況だった。
あと数時間もすれば日が昇り、周囲の状況ももっと分かりやすくなるだろう。
無駄に動き回って疲労を溜めるより、この屋敷に留まり体力や気力を回復させる方が得策だ。
「それで、これからどうするの? クライシスさんは?」
「お師様とは何故か連絡が取れない。あの人がやられる事はまず無いけど、もしかしたら何かしらの邪魔が入っているのかもしれない。それと、僕は日が登るまでここに留まった方がいいと思うけど、シャルルちゃんはどう思う?」
「邪魔……か、なんか嫌な予感がするわ。とは言え留まるのは私も同感ね、この包囲網の中で動き回るのは得策だとは思えないわ」
「何を二人で話しているの?」
僕とシャルルが意見交換をしていると、大きな欠伸をしながらロンシャン連邦国の第二王女だという女が割り込んできた。
「ここに留まった方がいいだろう、って話ですよヘカテーさん」
「あぁ、そうね。大した兵力もない私達が戦場に飛び出た所で出来ることは何も無いし、フィガロ様とも合流してないし。いいんじゃないかしら? それに眠いし」
再び大きな欠伸をし、少しだけ外の様子を見たヘカテーが目を擦りながら壁際に寄りかかり、ストンと腰を落としてしまった。
目の下浮かぶ薄いクマを見る限り、彼女のかかえる心労は少なくないのだろう。
ロンシャン連邦という国は、僕が生きていた時代には存在しなかったので、ここ二〇〇年の間に建国された比較的新しい国なのだろう。
僕が生きていた時代、ここにあったのはドーヴィル公国という小さな国で、小さく貧しいながらも力強いイメージを抱いていたような気がする。
そのドーヴィル公国には、国宝とされていた大きな宝石があったような気もするんだけど……昔の事過ぎて記憶が曖昧だ。
「塔に留まってもらったランチア兵やタウルスの容態も気になるけど、ひとまずはこの境地を乗り切らないと」
「本当にごめんね、シャルちゃん。ランチアの方々にはなんとお詫びをしていいのか……」
壁際にへたりこんだヘカテーと、目線を合わせるように座り込んだシャルルが二人してため息を吐いた。
ソファの方を見ればドライゼン王とアーマライト王が二人して頭を抱え、同じようにため息を吐いていた。
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