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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二五五話 光弾
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「……は……?」
そんな声が立ち込める土煙の中と俺の背後から聞こえてきた。
声の主は勿論ウルベルトと、身構えていたロンシャン兵達だ。
だがこれで終わりではない。
扇状にフレイムボルテックスランスを放ち、射線上の獣魔兵は掃討出来たが、衝撃で吹き飛ばされた獣魔兵の中には生き残りがいるはずなのだ。
いくら攻撃力が高くても十式程度の数で、獣魔兵軍団を全て葬れるとは思っていない。
初撃に派手な魔法を撃ち込んでウルベルトの戦意を削ぐ、という意味合いも多少はあった。
「ゴッフ、ゴッフ」
土煙の中に影が浮かび、影のものと思しき声がする。
一つ、二つ、三つと影は増えていき、影は土煙を抜けその姿を表し始めた。
吹き飛ばされた獣魔兵達が集まり、再び陣形を整えつつある。
「総員構え!」
その姿を認めたロンシャン兵達は直ちに剣を構え直し、戦闘に備える。
獣魔兵軍団の数は半分くらいまで減らせたと思われ、身に付けていた防具も所々壊れているのを見ると、中々に善戦したのではないだろうかと思う。
土煙はまだ晴れる気配はない為、ウルベルトがどんな顔をしているかは不明だが、聞こえた声からするに結構な間抜け面をしているのだろう。
「君達にはなんの怨みも無いけど……ここで倒させてもらうよ」
「グギュオオオオオ!」
土煙から完全に身を出した先頭の四足歩行型が、俺の姿を視界に捉え唾液を撒き散らしながら大きく鳴いた。
それに呼応するかのように鳴き声は伝播していき、姿を表した獣魔兵達が次々と吠え、突撃を開始した。
ホワイトとピンクには俺がとり逃した獣魔兵の始末を指示し、全力で戦えと言ってある。
こんな事になるなら広域殲滅魔法なんかも勉強しておけば良かったと思いつつ、なるべく数を減らすべく広範囲に効果を及ぼす魔法を頭の中で選択する。
「ディス・エクスパンション【バーストフレア】」
俺が選んだのは中級の火属性魔法であるバーストフレア、これは半径二メートル以内に無数の爆発を引き起こす攻撃特化の魔法だ。
フレイムボルテックスランスと同じように、左右に五つずつ展開した円球状の炎の塊からは炎の舌が何本も揺らめき、何も無い空間を舐めまわしている。
「シュート!」
炎の塊は俺の意思通り、炎の舌を後方になびかせながら獣魔兵軍団の中へ飛び込んで行く。
そして爆発と豪炎が獣魔兵達を飲み込んで行き、爆発の衝撃で地面から剥ぎ取られた土がパラパラとこちらにも飛んでくる。
「おお……なんと……これが辺境伯の力か……!」
後方からロンシャン兵の畏怖に満ちた声が届くが、俺はその言葉に応えること無く土煙の中へ突っ込んで行った。
狙いは獣魔兵軍団を操る部隊の長、ウルベルトただ一人。
ウルベルトの後方に何が控えているかは分からないが、この状況ならば不意打ちも功を奏するだろう。
バーストフレアの豪炎の熱が残る中を駆け抜け、土煙を抜ける。
「貴様!」
「どうも!」
抜けた先には親指を噛みながらヤキモキしているウルベルトがいた。
抜き放った剣を無造作にウルベルトへ叩き込むが、それはさすがに対応可能だったのか、後方に飛び退かれてしまった。
流れるように剣を抜き、半身に構えたウルベルトが憤怒の表情と共に俺を睨みつけた。
「貴様……もしやハイエルフか? ハイエルフは見掛けと中身がかけ離れている場合があると聞いた事がある。それに魔法の達人だという事もな!」
「私がハイエルフなわけが」
「そうでなければ説明がつかん! 貴様のような小童に私の獣魔兵軍団がこうも簡単にやられるワケがない!」
ハイエルフなわけがないですよ、と言おうとした途端、被せるように声を荒らげるウルベルトの目は血走っており、人の話を聞くような状態では無かった。
「じゃあいいですよそれで……ハイエルフ、ねぇ……」
この世界のどこかに住んでいるという、精霊と人の間の存在。
物質界に生きながらにして、霊質界の存在と語らうことが出来る特殊な種族だ。
自然の守り人とも呼ばれ、ハイエルフの操る魔法は一般的なものとは異なる術式らしい。
大昔は大陸中に存在していたらしいのだが、約五〇〇年ほど前、唐突に歴史の表舞台から姿を消した。
人の姿に身を変え人間社会に溶け込んでいるとも、遥か遠き空の上で新たな文明を築いているとも言われている。
死ぬまでに一度くらいは出会ってみたいものだ。
「仮にハイエルフだとしても、ただの人間だとしても、私の実力はお分かり頂けましたでしょうか?」
「黙れ! 認めん、私は断じて認めない! ロンシャン連邦を代表する力の一端が貴様のような小僧にいいい!」
ウルベルトが甲高い叫び声を上げた途端、彼の周囲に複数の光弾が出現し、俺に向けて一斉に打ち出された。
「なんっ! ですかこれはっ! ああぁぁぁぁっ!」
唐突の出来事に僅かながら回避運動が遅れてしまったがトムの備蓄から借りた盾のおかげで何発かは弾くことに成功した。
しかし数発の光弾が俺を掠め二、三発はモロに食らってしまった。
体を突き抜ける激痛にぐらりと視界が揺れる。
何とか倒れずに踏ん張り、口角から垂れてきた自分の血を拳で拭った。
そんな声が立ち込める土煙の中と俺の背後から聞こえてきた。
声の主は勿論ウルベルトと、身構えていたロンシャン兵達だ。
だがこれで終わりではない。
扇状にフレイムボルテックスランスを放ち、射線上の獣魔兵は掃討出来たが、衝撃で吹き飛ばされた獣魔兵の中には生き残りがいるはずなのだ。
いくら攻撃力が高くても十式程度の数で、獣魔兵軍団を全て葬れるとは思っていない。
初撃に派手な魔法を撃ち込んでウルベルトの戦意を削ぐ、という意味合いも多少はあった。
「ゴッフ、ゴッフ」
土煙の中に影が浮かび、影のものと思しき声がする。
一つ、二つ、三つと影は増えていき、影は土煙を抜けその姿を表し始めた。
吹き飛ばされた獣魔兵達が集まり、再び陣形を整えつつある。
「総員構え!」
その姿を認めたロンシャン兵達は直ちに剣を構え直し、戦闘に備える。
獣魔兵軍団の数は半分くらいまで減らせたと思われ、身に付けていた防具も所々壊れているのを見ると、中々に善戦したのではないだろうかと思う。
土煙はまだ晴れる気配はない為、ウルベルトがどんな顔をしているかは不明だが、聞こえた声からするに結構な間抜け面をしているのだろう。
「君達にはなんの怨みも無いけど……ここで倒させてもらうよ」
「グギュオオオオオ!」
土煙から完全に身を出した先頭の四足歩行型が、俺の姿を視界に捉え唾液を撒き散らしながら大きく鳴いた。
それに呼応するかのように鳴き声は伝播していき、姿を表した獣魔兵達が次々と吠え、突撃を開始した。
ホワイトとピンクには俺がとり逃した獣魔兵の始末を指示し、全力で戦えと言ってある。
こんな事になるなら広域殲滅魔法なんかも勉強しておけば良かったと思いつつ、なるべく数を減らすべく広範囲に効果を及ぼす魔法を頭の中で選択する。
「ディス・エクスパンション【バーストフレア】」
俺が選んだのは中級の火属性魔法であるバーストフレア、これは半径二メートル以内に無数の爆発を引き起こす攻撃特化の魔法だ。
フレイムボルテックスランスと同じように、左右に五つずつ展開した円球状の炎の塊からは炎の舌が何本も揺らめき、何も無い空間を舐めまわしている。
「シュート!」
炎の塊は俺の意思通り、炎の舌を後方になびかせながら獣魔兵軍団の中へ飛び込んで行く。
そして爆発と豪炎が獣魔兵達を飲み込んで行き、爆発の衝撃で地面から剥ぎ取られた土がパラパラとこちらにも飛んでくる。
「おお……なんと……これが辺境伯の力か……!」
後方からロンシャン兵の畏怖に満ちた声が届くが、俺はその言葉に応えること無く土煙の中へ突っ込んで行った。
狙いは獣魔兵軍団を操る部隊の長、ウルベルトただ一人。
ウルベルトの後方に何が控えているかは分からないが、この状況ならば不意打ちも功を奏するだろう。
バーストフレアの豪炎の熱が残る中を駆け抜け、土煙を抜ける。
「貴様!」
「どうも!」
抜けた先には親指を噛みながらヤキモキしているウルベルトがいた。
抜き放った剣を無造作にウルベルトへ叩き込むが、それはさすがに対応可能だったのか、後方に飛び退かれてしまった。
流れるように剣を抜き、半身に構えたウルベルトが憤怒の表情と共に俺を睨みつけた。
「貴様……もしやハイエルフか? ハイエルフは見掛けと中身がかけ離れている場合があると聞いた事がある。それに魔法の達人だという事もな!」
「私がハイエルフなわけが」
「そうでなければ説明がつかん! 貴様のような小童に私の獣魔兵軍団がこうも簡単にやられるワケがない!」
ハイエルフなわけがないですよ、と言おうとした途端、被せるように声を荒らげるウルベルトの目は血走っており、人の話を聞くような状態では無かった。
「じゃあいいですよそれで……ハイエルフ、ねぇ……」
この世界のどこかに住んでいるという、精霊と人の間の存在。
物質界に生きながらにして、霊質界の存在と語らうことが出来る特殊な種族だ。
自然の守り人とも呼ばれ、ハイエルフの操る魔法は一般的なものとは異なる術式らしい。
大昔は大陸中に存在していたらしいのだが、約五〇〇年ほど前、唐突に歴史の表舞台から姿を消した。
人の姿に身を変え人間社会に溶け込んでいるとも、遥か遠き空の上で新たな文明を築いているとも言われている。
死ぬまでに一度くらいは出会ってみたいものだ。
「仮にハイエルフだとしても、ただの人間だとしても、私の実力はお分かり頂けましたでしょうか?」
「黙れ! 認めん、私は断じて認めない! ロンシャン連邦を代表する力の一端が貴様のような小僧にいいい!」
ウルベルトが甲高い叫び声を上げた途端、彼の周囲に複数の光弾が出現し、俺に向けて一斉に打ち出された。
「なんっ! ですかこれはっ! ああぁぁぁぁっ!」
唐突の出来事に僅かながら回避運動が遅れてしまったがトムの備蓄から借りた盾のおかげで何発かは弾くことに成功した。
しかし数発の光弾が俺を掠め二、三発はモロに食らってしまった。
体を突き抜ける激痛にぐらりと視界が揺れる。
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