欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二五〇話 突入

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 だがここまで来たら行くしかない。
 両王の監視が扉にいた二名の兵士だけとは考えにくく、室内にも必ず敵はいるだろう。
 一気に飛び込み、電光石火で無力化するしかない。

「私が先に入ります、その後に続いて下さいね」

「分かったわ」

「気を付けてね」

 息を整え、マナアクセラレーションを発動して全身をイメージで固める。
 そして一気に扉を開け放ち中へと飛び込んだ。

「ドライゼン陛下!」

「何者だ!」

「通りすがりの者です!」

 貴賓室へ飛び込むとやはり室内には敵が居た、扉の左右に一人ずつ四隅に一人ずつ、窓側に一人、俺と窓側の敵の間には一人がけのソファが二つ、それぞれに男性が座らされているようだ。
 ソファは窓側を向いており、戦火に燃える市街地が一望出来る。

「ぐはっ!」「ぎゃっ」「かはっ……」「げっ」

 部屋へ入った瞬間両サイドにいたロンシャン兵の鳩尾に肘を叩き込み、平行線上にいた両隅の兵士へ投げナイフを投擲、窓際の男が剣を抜きはなったのを確認し、窓際の隅にいた兵達がワンテンポ遅れて動き出すが、続けて投擲した投げナイフにより声を上げることなく床へと沈んだ。
 
「貴様アサシンか!」

「いいえ違います!」

 残った窓際の男が抜きはなった剣をソファに向けようとした所を、投げナイフを投擲し妨害する。
 投げナイフが剣により防がれる硬質な音が鳴り、分厚い上質なカーペットの上へ落ちた。
 その隙を逃すまいと一足で距離を詰め、俺の剣と男の剣が交差する。

「ふん! やるようだ!」

「ありがとうございます!」

「ガバメント! 貴方は自分が何をしているか分かっているの!?」

「ヘカテー王女? なるほど、貴様は王女の手の者か」

 剣同士が擦れるガチガチという音が眼前で鳴り続ける。
 全力で剣を押しているのに全く動く気配が無く、男には余裕さえ感じられた。
 背後から発せられたヘカテーの言葉により、俺が剣を合わせている男こそが元赤龍騎士団団長であり、現革命軍総司令であるガバメントだということが発覚した。
 よりによってロンシャン最強の男と剣を合わせるハメになるとは。
 
「いえ、私はフィガロ、ランチア魔導王朝ドライゼン王陛下直属の臣下です」

「ほう。弱虫国家の犬か」

「お好きに捉えて頂いて結構、貴方はこの国最強と聞きますが、ヴェイロン皇国の剣聖様とはどちらが上なのですか?」

 ガバメントが見え見えの挑発を掛けてきたが、それを華麗に無視して聞きたいことを質問した。
 剣聖である兄様よりガバメントのほうが強かったら俺は間違いなく殺される。
 剣を弾かれた瞬間、自分の首が宙を舞う光景が容易に想像出来て笑えてくる。
 全身から冷や汗が吹き出てきて、気を抜けば恐怖が心の底から押し寄せてきそうになる。

「ヴェイロンの剣聖とは御前試合でしか剣を合わせた事がない。だが……奴の方が上だ。しかし、俺は貴様より強い!」

「がっ!」

 剣を合わせているはずなのに、ガバメントは左の膝を俺の脇腹へ叩き込んでいた。
 脇腹を抉られる鈍い痛みに思わず力が緩んでしまった、そこを最強の剣士が見逃すはずもなく更に鳩尾へ拳が撃ち込まれた。

「ぐぅっ……!」

 重心の乗った強撃に体躯の小さい俺はあっけなく吹っ飛ばされ、入ってきた扉を破壊し通路の壁に叩き付けられた。
 肺の中の空気が全て強制的に吐き出され、軽い呼吸困難に陥った。
 霞そうになる視界の中、ホワイトとピンクがガバメントに斬りかかり、ヘカテーとシャルルはその間にソファに座らされていた両王を開放し、こちらへ掛けて来るのが見えた。

「フィガロ平気!? キュア!」

「なん……だよ、あの化け物……兄様と同じ匂いがする」

「ガバメントは騎士剣術じゃない、あらゆる流派や技法を取り入れたガバメント流とも言える剣術よ。どんな技が飛んでくるか分からない初見殺しの剣」

「ヘカテー王女、それは……先に、言って欲しかったですね。ゴホッゴホッ!」

「フィガロよ、こんな所まで助けに来てくれてありがとうな。シャルルも良くやった、感心したぞ」

「いえ、ドライゼン陛下がご無事で何よりです」

「お父様は国そのもの、助けるに決まってるでしょ」

 ドライゼン王とアーマライト王は無事に救出出来たが、問題は目の前にいるガバメントをどうするかだ。
 ホワイトとピンクは何度も壁に叩きつけられているようだが、そんな事はお構い無しに何度も何度もガバメントへ挑みかかっている。
 見たところ数箇所は切りつけられているようだけど、戦闘スピードは全く衰えていない。
 さすがは強化兵といったところか。
 切りつけても叩きつけても一向に怯まない強化兵二人を前に、さすがのガバメントも困惑を隠しきれないでいた。
 強化兵が悲鳴の一つでもあげればまた違うのだろうが、痛覚すら封印されているホワイトとピンクは、何をされてもただただ無言で立ち上がる。

「なんだ! お前らは一体何なんだ!」

 そしてついに、ガバメントが堪えきれず怒りの声を上げ、一刀のもとにホワイトをピンクを斬りつけるが、二人はそれぞれ腕で剣を受け、斬撃を耐え切っていた。

「あの二人……鬼気迫るものがあるわね」

 俺の横で戦闘を見ていたヘカテーが、ポツリと漏らす呟きが聞こえた。
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