欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二四六話 未知の兵力

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「リッチモンド! 王様達の居場所が分かった! 王城西の貴賓室らしい!」

「はぁー? 本当なのかい? まさかの貴賓室とはね。分かったよ、フィガロに合流すればいいかい?」

「あぁ頼む」

「オーケー、直ぐに向かうよ」

 リッチモンドとの思念伝達を切り、吐息を吐いて胸を押さえているシャルルの手をとった。

「お疲れ様、やるじゃないか」

「ふふ、でしょ? それとね革命軍総司令官の名前が分かったわ」

「おお! シャルル様さすがです!」

「名前を聞いた所で俺には分からないけど、アストラさんなら分かるかな?」

 今にもシャルルへくってかかりそうな勢いのアストラは鼻息を荒くし、シャルルの言葉を待っている。

「赤龍騎士団団長ガバメントです」

「馬鹿な! あの方が!? なぜ……なぜ革命軍などを率いているのだ?」

 ガバメントと言う名前は知らないけど、アストラの驚き方を見る限りこの国では有名人らしい。
 ロンシャン連邦国には赤龍騎士団、黒竜騎士団、白龍騎士団という三つの騎士団があるのは知っている。
 どれがどんな役割なのかは不明だが、三つの騎士団の中で赤龍騎士団が一番強いらしい。
 そのトップに君臨する人物が弱いとは考えられないので、かなりの強敵になるのだろうという事は予測できる。

「アストラさん、今は考えるより先に動きましょう。なんだか外の様子がおかしいです」

「う、うむ! そうだな、私とした事が申し訳ない」

 地下牢区画から階段を登り出口近くになった時、王城が大きく揺れた。
 クライシスの魔法なのかは分からないが、あまり派手にやり過ぎてこの城を破壊しないか心配だ。

「クライシス、聞こえますか?」

「お、ぉお。聞こえるぞ、どした? 俺は何もやってないぞ?」

「……何したんです」

 念の為にとウィスパーリングでクライシスへ思念を飛ばした所、妙に不審な返事が返ってきた。
 この言い方、絶対何かやらかしただろ。

「何もしてねーって! 俺はちゃあんと陽動したぜ? だがなぁ……ちっとばかし派手すぎたらしくてな、どこに隠れてたのか知らんが市街地に潜伏してたロンシャン連邦の兵士達がこぞって突撃し始めてな……結構な数がそっちに行った、スマン」

「貴方という人は……今も攻撃してますか?」

「いや? 俺はもう何もしてない。今しがた王城の方に魔導砲弾が飛んでったがありゃロンシャン連邦がぶっぱしたやつだ」

「分かりました。どうやらドライゼン王達は王城西の貴賓室に捕えられているそうですが……そっちから把握出来ますか?」

「ロンシャンの城の構造なんて知らん」

「そうですよね、分かりました。クライシスはしばらく待機していて下さい」

「へいへい。また用が出来たら呼んでくれー」

 恐らくだがクライシスのやり過ぎ陽動により、反旗を伺っていたロンシャン連邦兵達が好機と判断して反攻作戦に出たのだろう。
 結構な数の兵が王城に向かったという事は、ここが戦場になるのは間違いない。
 しばらく待てば、外で戦闘中とみられるロンシャン連邦兵達が王城中になだれ込んでくると思われる。
 ならばその戦闘の混乱に乗じてドライゼン王達を救いだす。
 それしか無い。
 
「ねぇフィガロ、なんか感じない?」

「え?」

 俺が思考の渦に揉まれていると、シャルルが俺の袖を引っ張りやけに周囲を見回している。
 言われてみれば妙な気配が城中に漂い始めている気がする。
 重苦しいようなどこかで感じたことのあるような、そんな気配だ。
 
「軍の三分の一は革命軍に加担しているらしいの。それに傭兵や義勇軍もたくさんいるって聞いたわ」

「三分の一もか……」

「ぐぅ……面目ない……国に仕える軍人が革命軍なとにほだされるとは」

 周囲を警戒しながら、シャルルは持ち帰った情報を話してくれた。
 ただでさえ多いロンシャン連邦の兵力の三分の一もが離反したとなると、相当な数の兵士達が革命に加担していることになる。
 その戦力がどこに控えているのかが不明な以上、下手には動けない。
 俺やクライシス、リッチモンドだけならば何とかなるが、シャルルにドライゼン王、アーマライト王にヘカテー王女、アストラに強化兵の四人、ヘカテー王女に随伴している守護騎士にロンシャン兵、今のままでは大所帯すぎる。
 早急にドライゼン王達を救出して城を離れるべきだろう。

「あれ見て……」

 シャルルが小さな声で呟き人差し指を向けている方向へ視線を動かすと、そこには三匹の獣型モンスターがゆっくりと徘徊しているのが見えた。
 モンスターは三匹ともに鎧のような武具を身につけ、赤い瞳を光らせながら静かに唸り声を上げていた。

「あれは……獣魔兵……奴らの部隊も寝返っているか……!」

「獣魔兵?」

 アストラの口から出た聞きなれない言葉に思わず反復してしまう。

「ロンシャン連邦ではモンスターを捕え調教し兵力として転用する技術があります。その兵力とされる調教済みのモンスターを獣魔兵と呼んでおります。そして獣魔兵を使役するのが獣魔操奇部隊……」

「つまりは離反した三分の一のどれか、ということですね」

「そうです、獣魔兵の戦闘力は非常に高い。しかもあのタイプは機動力に優れた獣魔兵、立体で動き群れで敵を仕留める」

「なるほど……」

 仕掛けるべきかこのままやり過ごすべきかを判断しかねている時、遠くから数人の走る足音が聞こえ、足音はこちらへ向かって来ているようだった。
 足音は獣魔兵にも届いているらしく、獣魔兵は駆けてくるであろう方向に揃って頭を向け、低い唸り声を漏らしていた。
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