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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二三八話 強引な方法
しおりを挟む近況ボードにも書いたのですが、こちらでもご報告。
当作【欠陥品として貴族を追放された文殊使いは最強の希少職でした。】がアルファポリス様より書籍化される運びとなりました。
刊行予定は四月の下旬頃となっております。
なお、書籍化に伴いタイトルが改題となり【欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。】となりました。
これも皆様が応援してくれたおかげです。本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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「それはまぁ……知ってますけど……それと毒になんの関係があるんですか?」
したり顔で俺を見るクライシスの意図が分からず思わず首を傾げてしまう。
「わかんねーか? 毒はもう抜いた。なら細胞の活性化を促して再生能力を高めてやればいいんだよ。シャルルちゃんの時みたいにな。質のいい燃料を入れれば燃えやすくもなるってもんだ」
「ひょっとして……私の魔素の話ですか? ですがあれはまだ文殊が出来ていない頃の話であって……」
「時間もないし、まどろっこしい話を抜きにするとだな。お前の血をタウロスに飲ませろ」
俺がしどろもどろになりながらも言葉を絞り出していると、クライシスの口から驚くべき言葉が発せられた。
「はぁあ!? 何を言い出すんですか!?」
「冗談のようだがこっちは大真面目だ。腕を出せ」
どこからか取り出したナイフを煌めかせながら物騒なことを言い出すクライシスから、少しでも身を引こうと腕を引っ込める。
「えちょ、ちょっと待って下さい! せめて理由を聞かせてくれませんか!?」
「お前の体は一体なんだ? その体には何が流れ、何を保持している? それはどこにある?」
「あ……魔素の、俺の血に含まれる魔素を直接供給する、ということですか?」
「わかってんじゃねーか。ほれ腕出せ、痛くしないようにスパッとやってやる」
腕を切る仕草をしながらしれっと言い切るクライシスだが、血を飲ませるというのはいささか抵抗が……。
「いやでも俺の血を飲ませるなんてシャルルが」
「やって。それでタウロスが無事なら、やって。お願い」
珍しく睨みを利かせた最後の砦の一声により、俺は実にあっさりとクライシスの前に腕を突き出した。
「あっはーい。じゃ、じゃあ……痛くしないでくださいね? お願いしますよ」
「任せろ」
「ちなみにどれくらいの量を……私の血も有限なのですが……」
「だぁってろ。大丈夫だ。死にはしない」
そういいながらナイフを俺の手首に当て、素早く手前に引いた。
数秒遅れて俺の肌に切れ込みが入り、一筋の血液が流れだした。
クライシスは傷口をタウロスの口に当て、経過を見守っているようだった。
「はい……」
「ごめんねフィガロ。辛くなったら言ってね?」
流れる場のままにぽけっとしていると、背中にシャルルの額が寄せられたのがわかった。
「うん……」
「でもどうしてフィガロの血を飲ませると治りがよくなるの?」
俺の背に額を預けたままシャルルがそんな事を聞いてきた。
そういえばシャルルには俺の体の詳細は話していない。
この機会に打ち明けてみるか。
「……俺の血には魔素が溶け込んでる、しかもかなり濃い濃度でだ。血だけじゃない、俺の体中の細胞全てに魔素が溶け込んでる。魔力に変換されずにね」
「うそ……そんなことって……」
「ありえないと思うだろ? 俺だってクライシスから聞いた時は嘘だと思ったよ。でも、本当なんだ。魔力を生成出来ない欠陥品、それが俺だ」
「欠陥品……私と同じね。ふふ、なんだか嬉しい」
シャルルの細い腕が俺の胸に回され、背中に当たる額の圧力も強まったことで、俺が今抱きしめられているのだと遅ればせながらに気付く。
「嬉しいって……」
「だってそうでしょ? フィガロはあまり自分の事を話したがらないじゃない。森にいた時も、王宮に来た時もね。それに欠陥品だったのは私も同じ、共通の境遇って中々ないと思うの。だから、嬉しい。貴方を少し理解出来て、近付けたような気がして」
「シャルル……」
「あー……盛り上がってるとこ悪いんだがね? もういいぞ、傷も治した。あとは治癒魔法をかけ続けてやればじきに目を覚ますだろうさ」
「ぇあっ」
目を細めて俺を見るクライシスとバッチリ目が合い、自分がされていたことの恥ずかしさに気付いて思わず変な声が出た。
「は、はい! ありがとうございますクライシスさん!」
「いーっていーって。実際この爺さんを助けられたのはフィガロの存在あってこそだ。俺はちょっと手助けをしたにすぎん。例なら酒でいい」
「貰うんかい」
「ふふ、ありがとうございます。ランチアに無事戻れたら手配させて頂きます」
ぺこぺことお辞儀を繰り返した後、満面の笑みを浮かべてシャルルはそう言った。
「おう。頼んだぜ」
「それよりシャルル、ドライゼン王の姿が見えないんだけど……別行動なのか?」
「お父様は……敵に捕まっているわ。敵の目的はわからないけれど一国の王よ、無下に殺されるとは思わないわ」
「ドライゼン王が……捕まった!?」
満面の笑みはすぐに鳴りをひそめ、険しい顔つきに変わったシャルルの歯ぎしりが聞こえ、そのすぐ後に聞きなれた声が続いた。
「穏やかじゃないねぇ」
「リッチモンド! 下はもう大丈夫なのか?」
「あぁ、無事に戦闘は終了したよ。めんどくさくなったから味方全員退避させて敵を纏めて捻りつぶしてやったよ」
「そっちも穏やかじゃないような……」
「何を言っているんだい。一網打尽、いい言葉だね」
「んん! お父様は恐らくロンシャン国王と共に囚われているはずよ。場所は……わからないけど……」
ロンシャン連邦国王だけでなくドライゼン王までもが捕まった、これが何を示しているのかは分からないが、悠長にしている時間などない事だけは確かだ。
「シキガミでドライゼン王の魔力を追えたりしないのか?」
「無理よ……シキガミもそこまで万能じゃないわ」
目を伏せ、力なく首を振るシャルルだが諦めているわけではないだろう。
「ロンシャンに詳しい人がいれば……何かわかるかも知れないけど……」
その言葉にピンときた俺は来たルートを振り返り、塔の一つに目を向けた。
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