国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜

登龍乃月

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二章 旅立ちの日

53.ギルドの依頼

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 王都もそうだけど、大都市などの人口が多い場所には色々なギルドの集合体である、総合ギルドなんてのもあったりする。
 移動する事が多いハンターなんかは、関税が免除になったりその分を報酬に上乗せしてくれるという。
 そこに関して言えば少し羨ましくはある。
もしも採集だけでもいいなら、登録するくらいやぶさかでもないけれど。

「どんな依頼なんですか?」
「一応魔物退治さ、だが魔物の情報が少なすぎて困ってんだ。だからこうして街を彷徨いて情報を集めてるってーわけ」
「依頼人に話を聞いたのだけど、赤色と銀色が混ざり合ったような色をした、人間の赤ん坊の頭部ほどの大きさのスライムのような魔物。それが五、六匹動物の死体に群がっていたそうなの。三日前の話ね」
「お食事中だったんですかね」
「多分ね、だとすればその魔物は肉食。放っておいたら人間を襲うかもしれないわ」

 神妙な顔をして言うワッフルと、同意してうんうんと頷くバラン。
 とはいえスライムか。
 スライム。
 魔法生物の代表格といっていい魔物だが、こいつほど多様な種を持つ魔物もいないだろう。
 産まれた場所、育った場所によって生態ががらりと変わり、肉食、草食、木食、石食、土食、毒食なんてヤツもいる。
 魔力溜まり周辺で産まれる個体もいれば、研究用などで人工的に産み出される個体もいる。
 草原などで見かける個体は攻撃性も無く、サイズも小さいため、観賞用やペットとして飼育する者もいる。
 近年では毒を主食とするスライムは、人体の毒素も吸い取ってくれる事が分かり、それを利用した美容事業なども展開されてきている。
 肉食だから獰猛だ、人を襲う、なんていう安直な考えは僕は好きじゃない。
そんな事を言えば、この世の肉食系は全て駆逐されてしまうではないか。
 鷲だって肉食だし、猫だって犬だって元は肉食なんだし。
 だけどまぁ、依頼という仕事なのであれば、それは致し方ない事だとは思うけれど。

「だがなぁ、肝心の魔物がてんで見つからねーのよ」

 とバランは言った。
 お手あげとばかりに肩をすくめ、口をへの字に曲げている。
 
「そうねー目撃された場所に行ってみたけれど、なんの痕跡もなかったのよ」

 ワッフルもはぁ、とため息を吐いて胸の下で腕を組んでいる。
 組んだ腕の上に二つのスライムがほよよん、と豊かに乗っていた。
 
「銀色の体表、というのは聞いた事がないですね」
「だろう? 俺達もさ」
「スライムは新種が産まれる事も多いし、多分今回もその新種系だと思うわ。大きさからしてまだ幼生体だと思うし、研究素材として一匹くらい持ち帰るのもありかもしれないわね」
「ま、そんなわけで坊主も気を付けろな。さっきのチンピラみたいな奴もそうだが、この街の治安はかなり悪そうだ」
「わかりました。お気遣い感謝です。ところでその目撃場所ってどこなんですか?」
「ん? 川沿いにある下水溝の出口さ。そんな事聞いてどーすんだ?」
「いえ、参考までにと」
「そーかそーか。んじゃあな」
「いい旅になるのを願ってるわね」
「はい。さようなら」

 遠ざかる二人に手を振り、二人の姿が見えなくなった所で僕は目線を民家の屋根へと移した。

「おい。チャロ」
『ニャんじゃ。世間話はもう終わったのか?』

 と、屋根の上であくびをするチャロ。
 僕が襲われた後、すぐに屋根の上に飛んで行ったのを僕は見逃さなかった。
大丈夫か、くらいくれてもよかったじゃないか。
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