国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜

登龍乃月

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二章 旅立ちの日

47.リンネ

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「んー、美味しいなぁ(後で買うから今は大人しくしてて!)」
『仕方ニャかろ、育ち盛りニャンじゃから。必ずニャぞ! 必ず後で肉を!』
『分かったから!』
『いやはや昨日は本当に消えるかと思ったからニャあ。主人様様よ』
『あぁ、それなんだけどさ、まだズタボロになった理由聞いてないんだけど』
『ふむ、ワシとしては言ったつもりニャンじゃがの……まずワシは神の欠片、爪と言うておこうか。爪のワシは他の神の領域内では大した力が出せんのじゃよ。じゃから土から這い出す力も出ずに脱出出来ニャかったし、河に落ちてからは陸に上がろうともがくじゃろ、それだけでもうほぼ全力を使ったからのぅ……ワシにもっと力があれば造作もニャかったんじゃが』
『土に埋められたら出るのは困難だし、水から這い上がるのおも結構疲れるから、それは力とか関係ないんじゃ……まぁいいや、それで?』
『ふん。ニャンとか陸に上がったワシじゃったが、運悪く走ってきた馬車に轢かれての、お主に拾われたあの場所に投げ出されたんじゃ。もう自分ではどうする事も出来ニャくての、このまま消えるのだと諦めておったんじゃ』
『ふーん』
『ニャンじゃ。今のワシは気分がいい。ニャンでも答えてやるぞ』

 肉を食べて上機嫌なのか、チャロは前足で顔を洗いながらそう言った。
 
『力が無くなると何で消えるんだ? 死ぬんじゃなくてさ』
『召喚された時のワシは不安定な状態じゃったんじゃ。神の力を猫という概念の形に無理やり押し込めたのがワシという存在じゃ。しかしそれも不出来でのぅ、こんな変な猫が誕生した上に、力の源である魔力が微量ずつ漏れ出てしまうという始末』
『あぁ、だからそんな魔物みたいな』
『そうじゃな。じゃがの、お主がたっぷり魔力をくれたおかげで力はある程度戻った。それにチャロという名前をくれたであろ? そのおかげで【チャロという名を持ち、神の力の一端を持つ猫であるワシ】という唯一無二な概念が定義された。これにより、不完全じゃったワシは一つの個として固定化され、完全とニャったのじゃよ』
『なるほどな。てことは猫でいいのか?』
『猫の形をしているだけの魔法生物といった方が正しいのう』
『ていうかさ。一ついいか?』
『ニャンじゃ』
『僕から魔力を、のくだりなんだけどさ』
『うむ?』
『いつどうやって僕の魔力を吸ったんだ!? そもそも魔力って吸えるのか!?』
『今更ニャにを言うかと思えば……ずっと吸っておったぞ。こう舌でザリザリとな』
『んなっ……あれはそういう……』
『エニャジードレイン。エニェルギードレインともいうヤツニャ』

 と、チャロは鼻をフンと吹いてしたり顔を浮かべた。

「したり顔で言うなよ!」
「ん? どうしましたかガイアスさん」

 思わず声に出して突っ込んでしまい、カウンターでグラスを拭いていたマスターに気付かれてしまった。

「あ、あぁいえ、すみません。なんでもないです」
「そうですか。おかわりも出来るのでその時は言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」

 治療を終えてからこの宿に来る前に、チャロがひたすら腕を舐めていた理由はそれだったのか。
 という事は今日の朝、丸飲みされた時に激しく顔を舐めまわされたのも……?

『ご名答ニャ。さしずめ朝ごはんといったところよの』
『だから人の思考を読むな! あれ? でも魔力吸われたなら体調に変化くらいあってもいいような』
『一気に吸えばそうニャるかもしれんが、ワシもそこまで馬鹿じゃニャいわい』
『お気遣い感謝します』

 こうして僕とチャロが、朝食を取りながら親睦を深めていた所で、宿の玄関のドアベルが鳴った。

「……おはようございます」
「お、来たか。おはようリンネ」
「リンネさん。おはようございます」

 リンネは僕とマスターの顔を見て軽く会釈をし、スタッフルームと書かれた部屋へ入っていった。

「んん……?」

 その様子を見ていたマスターが、顎を摘みながら怪訝な声を出した。

「どうしたんです?」
「いや……いつもの休み明けのリンネなら、今日のモーニングはなんですかー? とか言って厨房に入ってくるんだが……調子でも悪いのか?」
「そうなんですか。でも確かに声はあまり元気なようではありませんでしたね」
「ふむ……まぁそれか、毎月恒例のアレかもしれんな」
「アレですか?」
「わかりますでしょう? 女性特有のアレですよ」
「あぁ! なるほど! アレですね!」

 とは言ったものの、アレとは一体なんぞや?
 女性特有の毎月恒例のアレ……。

『おい主人様よ』
「んー?」

 あ、しまった。つい声を出してしまったけど、マスターには気付かれてないみたいだ。

『あの女子。ニャんだか芳しくニャい気配じゃぞ』
「リンネさんが?」

 マスターは奥の厨房に引っ込んで行ったので、思念会話を止め、口を開いた。
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