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二章 旅立ちの日
44.一寸先は喉
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とりあえずチャロの背中をトントンと叩いてみると、実にあっさり僕は解放された。
暗闇の世界から一転、ここ二日で見慣れた宿の部屋の光景が目に映る。
いや違う、見えるのは宿の部屋と、目の前で未だに胸元から開く鋭い歯の並んだ大口を開けているチャロの光景だ。
「生臭い……」
「グルル……」
ネチャア……と僕の頭部にべったりとついたチャロの唾液が糸を引き、顎のあたりからも床に滴り落ちていった。
「いや怖っ! お前っ! 死ぬかと、いや死んだかと思ったじゃないか! チャロ!」
「ブナーーーオォゥ」
「その場で止まれって……いや、止まってたからいいのか、でも飛び付くのは……いやいや、飛び付くのはいいとしても! 僕を丸呑みにするのはもうやめなさい! 怖いから! 分かった!?」
「オァーー……」
「何その不満そうな声」
「ニャオン、ナッナッ」
不貞腐れたような鳴き声を上げたと思えば、パッと目を開いて首を振るチャロ。
四本の尻尾が合わさった太めの尻尾は、ゆっくりと床を叩いている。
「そんな事ないって? じゃあもうやっちゃダメだからな」
「ニャイ」
「全くもう……お腹空いたか? 朝ご飯食べにいこっか」
「ウナっ」
「ほら、ケージに戻りなさい」
「ニャイ」
チャロをケージに戻した僕は、チャロの唾液でドロドロになった顔と頭を洗い、身支度を整えてから食堂へ向かった。
「おはようございますガイアスさん。あの……?」
食堂に着くと、マスターは窓を拭いていた。
テーブルに誰も付いていない所を見ると、やはり客は僕だけらしい。
そして目線は僕が持つチャロ入りケージ。
マスターの言いたい気持ちも、言いたい台詞もよく分かる。
けれど僕はそれを華麗にスルー。
「おはようございますマスター。いい朝ですね」
「ええと……大きくなってますよね、ソレ」
「何の話ですか? 僕が太ったとか背が伸びたとかそういう話ですか? いやぁ僕ってば成長期みたいで……」
「あぁ、成長期……って違いますよ! その魔物みたいな猫ですよ。明らかに大きいですよね? 三倍くらいの大きさですよね?」
華麗にスルーどころか、苛烈に突っ込まれてしまった。
「きっと僕と同じでチャロも成長期なんですよ。艱難汝を玉にすって言うじゃないですか」
「それは絶対に違う例えですよ」
「じゃあ細き流れも大河となる」
「違います。シュティレ大河じゃないんですから、ソレは小さな猫の集合体なんですか? 分裂するんですか?」
「まさか、集合体でなければ分裂もするわけないじゃないですか」
「ニャオ(分裂程度なら出来ん事も無いぞ』
「あれですね、寝る子は育つ」
はて、今なんか声が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?
暗闇の世界から一転、ここ二日で見慣れた宿の部屋の光景が目に映る。
いや違う、見えるのは宿の部屋と、目の前で未だに胸元から開く鋭い歯の並んだ大口を開けているチャロの光景だ。
「生臭い……」
「グルル……」
ネチャア……と僕の頭部にべったりとついたチャロの唾液が糸を引き、顎のあたりからも床に滴り落ちていった。
「いや怖っ! お前っ! 死ぬかと、いや死んだかと思ったじゃないか! チャロ!」
「ブナーーーオォゥ」
「その場で止まれって……いや、止まってたからいいのか、でも飛び付くのは……いやいや、飛び付くのはいいとしても! 僕を丸呑みにするのはもうやめなさい! 怖いから! 分かった!?」
「オァーー……」
「何その不満そうな声」
「ニャオン、ナッナッ」
不貞腐れたような鳴き声を上げたと思えば、パッと目を開いて首を振るチャロ。
四本の尻尾が合わさった太めの尻尾は、ゆっくりと床を叩いている。
「そんな事ないって? じゃあもうやっちゃダメだからな」
「ニャイ」
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「ウナっ」
「ほら、ケージに戻りなさい」
「ニャイ」
チャロをケージに戻した僕は、チャロの唾液でドロドロになった顔と頭を洗い、身支度を整えてから食堂へ向かった。
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そして目線は僕が持つチャロ入りケージ。
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けれど僕はそれを華麗にスルー。
「おはようございますマスター。いい朝ですね」
「ええと……大きくなってますよね、ソレ」
「何の話ですか? 僕が太ったとか背が伸びたとかそういう話ですか? いやぁ僕ってば成長期みたいで……」
「あぁ、成長期……って違いますよ! その魔物みたいな猫ですよ。明らかに大きいですよね? 三倍くらいの大きさですよね?」
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「きっと僕と同じでチャロも成長期なんですよ。艱難汝を玉にすって言うじゃないですか」
「それは絶対に違う例えですよ」
「じゃあ細き流れも大河となる」
「違います。シュティレ大河じゃないんですから、ソレは小さな猫の集合体なんですか? 分裂するんですか?」
「まさか、集合体でなければ分裂もするわけないじゃないですか」
「ニャオ(分裂程度なら出来ん事も無いぞ』
「あれですね、寝る子は育つ」
はて、今なんか声が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?
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