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二章 旅立ちの日
28.まさかの〇〇料理人
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「プッ……ククク……」
「フフッ……フフフ」
はて? 何やらお二方とも含み笑いをしていらっしゃるが……。
笑うほど面白い事言ったかな?
と僕が不思議そうに二人を見ていると、二人は我慢できなくなったかのように笑い声を上げた。
「だっはっは!」
「あははは!」
「な、なにか……?」
「いやぁお客さん、何を言い出すかと思えば……ありがとうございます、ほんとに」
「ガイアスさんは不思議な方ですね、働いている身としては一番嬉しい言葉です」
「い、いえいえ、本当の思ったままを言ったまでですから……」
僕としては、この場の沈んだ空気をなんとかしようと考えた結果のキメ顔とキメ台詞だったのだけど、予想以上に効果はあったらしい。
けど最高に美味しいと思ったのは本当の事だし、嘘は言ってない。
「あの、マスター。さきほど味が落ちたと言っていたお魚ですけど、それでこの美味しさなら本来の美味しさはもっと上、ということですよね?」
「ん? あぁ、そうですね。今獲れる魚にはエグミというか臭みというか、そういうのが強くて下処理に時間がかかるのです。身もボソボソだし良いダシも取れない……しかし元々はもっと濃い旨みでエグミも臭みも無い。身もぷりっぷり、生でもいけるしなんなら内臓だって生で食べれてしまうほどのモノが多いんです。今お客さんが食べてるウンモールフィッシュですが、生の白子が絶品なんです。塩焼きにするんであればケトニーフィッシュがもう最高でして……プラチナスケイルフィッシュは鱗の上から熱々の油をかけるとですね? うろこがぶわーっと逆立ちましてそれがボックルの実の傘に似ているので、ボックル仕立てと言うのですが、それを切り身にし、半生の状態で香味ソースに付けて食べるともう絶品の絶品で……」
おおうおおう、どうやら僕の一言で、マスターの料理魂に火を着けてしまったらしい。
恍惚とした、慈愛に満ちた顔はだらしなく歪み、まるで妖艶な美女を目の前にしたかのように、鼻の下が伸びきってしまっている。
瞳は虚空を見つめているけれど、きっと虚空の先には、今話してくれた料理達が完璧な状態で手招きしているのだろう。
なんなら酒を飲みながら、舌鼓を打ち鳴らしているのだろう。
それはもう激しく打ち鳴らしているのだろう。
なぜならマスターの口角から涎が一筋、慎ましやかに伸びていたのだから。
「マスター! もう! マスターってば! ガイアスさんがキョトン顔してますって!」
マスターの変容ぶりに気付き、リンネがマスターをゆさゆさと揺さぶる。
二度三度と揺さぶりをかけ、マスターはようやくこちら側に帰って来た。
「はっ……! す、すみません、つい……」
「だ、大丈夫ですよ。マスターの魚に対する愛がとてもよく伝わりましたから」
「いやぁ、初めてのお客さんにだらしないとこ見せてしまいました……めんぼくない」
「大丈夫ですから、それにマスターがそこまで肩入れする本当のお魚達、実に興味が湧いて来ました」
「そうでしょうそうでしょう! 煮付けに一番良いのは……」
「もう! マスター!」
「ぬぁ!? す、すみません……」
僕がやらかした、また火を着けた、と思った矢先にリンネが素早くマスターをこちらの世界に戻してくれた。
「マスターはテルルの魚に魅せられてしまって、三年前に王都から移住して来た方なんですよ」
「へぇ! そうなんですか!」
「お、おい、リンネ。やめないか」
「いいじゃないですか。マスターだってさっきあれだけ熱弁してたくせに」
「む、むぅ……まぁ、そうですね。あれは五年前。たまたま仕入れの目利きに市場へと出向いた時でした。その当時私は王都でしがない料理人をしていましたが、仕入れなどは他の人間にやらせておりました。その日はたまたま、本当にたまたま市場へ行ったんです。そこでテルルの魚の話を聞き、試食してみたのが最初でした。ウチの所でもテルルの魚を扱ってはいました、ですが市場に出回っていた新鮮な魚、その内臓を食した時に私の世界は変わりました。それほどまでに衝撃でした。普段であれば捨てている内臓があそこまで美味しいとは思ってもいませんでしたから。そこからです。テルルで、水揚げされたばかりの新鮮な魚を使って、魚料理を極めたいという想いが募り……」
「移住した、というわけですね」
「はい」
「ガイアスさん、マスターはしがないとか言ってますけど、この人宮廷料理人の料理長だったらしいですよ?」
「ぐっふ……!」
食べている料理を飲み込もうとした時に、リンネがとんでもない事を口走ったおかげで、むせて料理をぶちまける所だった。
「フフッ……フフフ」
はて? 何やらお二方とも含み笑いをしていらっしゃるが……。
笑うほど面白い事言ったかな?
と僕が不思議そうに二人を見ていると、二人は我慢できなくなったかのように笑い声を上げた。
「だっはっは!」
「あははは!」
「な、なにか……?」
「いやぁお客さん、何を言い出すかと思えば……ありがとうございます、ほんとに」
「ガイアスさんは不思議な方ですね、働いている身としては一番嬉しい言葉です」
「い、いえいえ、本当の思ったままを言ったまでですから……」
僕としては、この場の沈んだ空気をなんとかしようと考えた結果のキメ顔とキメ台詞だったのだけど、予想以上に効果はあったらしい。
けど最高に美味しいと思ったのは本当の事だし、嘘は言ってない。
「あの、マスター。さきほど味が落ちたと言っていたお魚ですけど、それでこの美味しさなら本来の美味しさはもっと上、ということですよね?」
「ん? あぁ、そうですね。今獲れる魚にはエグミというか臭みというか、そういうのが強くて下処理に時間がかかるのです。身もボソボソだし良いダシも取れない……しかし元々はもっと濃い旨みでエグミも臭みも無い。身もぷりっぷり、生でもいけるしなんなら内臓だって生で食べれてしまうほどのモノが多いんです。今お客さんが食べてるウンモールフィッシュですが、生の白子が絶品なんです。塩焼きにするんであればケトニーフィッシュがもう最高でして……プラチナスケイルフィッシュは鱗の上から熱々の油をかけるとですね? うろこがぶわーっと逆立ちましてそれがボックルの実の傘に似ているので、ボックル仕立てと言うのですが、それを切り身にし、半生の状態で香味ソースに付けて食べるともう絶品の絶品で……」
おおうおおう、どうやら僕の一言で、マスターの料理魂に火を着けてしまったらしい。
恍惚とした、慈愛に満ちた顔はだらしなく歪み、まるで妖艶な美女を目の前にしたかのように、鼻の下が伸びきってしまっている。
瞳は虚空を見つめているけれど、きっと虚空の先には、今話してくれた料理達が完璧な状態で手招きしているのだろう。
なんなら酒を飲みながら、舌鼓を打ち鳴らしているのだろう。
それはもう激しく打ち鳴らしているのだろう。
なぜならマスターの口角から涎が一筋、慎ましやかに伸びていたのだから。
「マスター! もう! マスターってば! ガイアスさんがキョトン顔してますって!」
マスターの変容ぶりに気付き、リンネがマスターをゆさゆさと揺さぶる。
二度三度と揺さぶりをかけ、マスターはようやくこちら側に帰って来た。
「はっ……! す、すみません、つい……」
「だ、大丈夫ですよ。マスターの魚に対する愛がとてもよく伝わりましたから」
「いやぁ、初めてのお客さんにだらしないとこ見せてしまいました……めんぼくない」
「大丈夫ですから、それにマスターがそこまで肩入れする本当のお魚達、実に興味が湧いて来ました」
「そうでしょうそうでしょう! 煮付けに一番良いのは……」
「もう! マスター!」
「ぬぁ!? す、すみません……」
僕がやらかした、また火を着けた、と思った矢先にリンネが素早くマスターをこちらの世界に戻してくれた。
「マスターはテルルの魚に魅せられてしまって、三年前に王都から移住して来た方なんですよ」
「へぇ! そうなんですか!」
「お、おい、リンネ。やめないか」
「いいじゃないですか。マスターだってさっきあれだけ熱弁してたくせに」
「む、むぅ……まぁ、そうですね。あれは五年前。たまたま仕入れの目利きに市場へと出向いた時でした。その当時私は王都でしがない料理人をしていましたが、仕入れなどは他の人間にやらせておりました。その日はたまたま、本当にたまたま市場へ行ったんです。そこでテルルの魚の話を聞き、試食してみたのが最初でした。ウチの所でもテルルの魚を扱ってはいました、ですが市場に出回っていた新鮮な魚、その内臓を食した時に私の世界は変わりました。それほどまでに衝撃でした。普段であれば捨てている内臓があそこまで美味しいとは思ってもいませんでしたから。そこからです。テルルで、水揚げされたばかりの新鮮な魚を使って、魚料理を極めたいという想いが募り……」
「移住した、というわけですね」
「はい」
「ガイアスさん、マスターはしがないとか言ってますけど、この人宮廷料理人の料理長だったらしいですよ?」
「ぐっふ……!」
食べている料理を飲み込もうとした時に、リンネがとんでもない事を口走ったおかげで、むせて料理をぶちまける所だった。
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