国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜

登龍乃月

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二章 旅立ちの日

15.雨が降っていた日

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「えっと、じゃあこの果物二つください」
「はいよ! トリコロの実だね! こいつは今が旬で美味い、日持ちもする! も少し買ってかないかい?」
「何日くらい持つんです?」
「大体六日は持つ。六日目になると成熟が進むからもっと美味くなる」
「おお、それじゃ六つください」
「まいど!」

 トリコロの実なんて初めて聞くが、丸くて黄色くてサイズも手頃。
 持ち歩くには良いかもしれない。
 代金を払い、お隣さんへ。

「燻製肉ってありますか?」
「あるぜ! デイリーピッグの肉が殆どだがいいかい?」
「デイリーピッグ、ですか?」
「なんだいあんちゃん知らんのかい」
「はい、この辺りには初めて来たもので……」
「んん? そうかい? この辺りじゃよく出回ってる肉なんだがな……」
「あはは……世間知らずなものでして」
「まぁ買ってくれるなら何でもいいさね! どうだい! 十本くらい買ってくかい?」
「はい。じゃあそれで」
「おっ! 気前がいいねぇ! まいどあり!」

 燻製肉を受け取った僕はおっちゃん達に手を振りつつ、井戸へと向かった。



「あらあらぁ」
「まぁまぁ」
「あらあらあらぁ」

 井戸に着き、水を汲もうとすると、井戸のそばで話し込むおばちゃん達に出会った。

「王都の成人の日、行った?」
「もちろん行ったわよ! 子供が迷子になって大変だったの!」
「あらあら!」
「まぁまぁ!」
「それにしてもご不幸よねぇ、アース様がお亡くなりになるなんて」
「本当ねぇ、変な事とか起きないといいけどぉ」

 あらあら奥様方、僕の話題ですか。
「空席になった地の使徒候補はどうなるのかしら」
「きっと揉めるわよぉ」
「そうねぇ、でも私達には関係ないわね」
「そうねぇ、おほほほ」
「おほほほ」

 おばちゃん達はおほおほ言いながら別れ、それぞれの家路についたらしい。
 僕が死に、国をあげての葬式が行われたのが遠く感じる。
 葬式が行われたのは五年前なのだから、遠く感じるのも当たり前と言えばそうなのだけど。
 僕は葬式の間、部屋で勉強をしていた。
 国民達は三日間の喪に服し、その間は実にひっそりとしたものだった。
 僕の棺桶は王都の大通りをしずしずと進み、王家の墓地へと埋葬された。
 空の棺桶を見送る僕の微妙な気持ちを洗い流すように、その日は途中から雨が降り始めた。

「ほんと、使徒候補はどうなる事やら」

 過去にも不慮の事故や病気で、使徒候補や使徒が亡くなってしまった事は何回かあるらしい。
 その度に空席になった使徒の座を巡り、貴族の間で大いに揉めたそうだ。
 もっとも、貴族が使徒の座を得るという事は、王族と同列では無いにしても、貴族相手への発言権などは大きくなる。
 そりゃ皆必死になるってもんだよな。
 くわばらくわばら。
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