国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
14 / 53
二章 旅立ちの日

14.のどかな日常

しおりを挟む
「狭いだろうけど我慢しておくれ」
「いえいえ! ベッドがある、それだけで充分ですよ!」
「そうかい? そう言ってもらえると助かるよ」
「してご婦人、この部屋は?」

 綺麗に掃除されてこざっぱりとした部屋には、使用感のある机と本棚、それと一人用のベッドがあるだけ。
 使用感はあるけれど、生活感はまるでない。

「ここは息子の部屋さ。ずいぶん昔に独り立ちするって言って出てってねぇ」
「そうなんですか」
「いつ帰ってきても良いように、掃除だけはしてるけどね。ここ数年は便りもない。どこで何をしてるんだかね」

 ふぅ、と微笑んだおばちゃんは、窓の外を見て少しだけおセンチな気分らしい。
 母や父やアリエス、なんなら兄姉達も僕を思い出しておセンチになって欲しいものだね。
 もっとも僕にはそんな感情的になる予定も情緒もない。
 泣いている暇なんて、これっぽっちも僕には無いのだ。

「ぞうなんですねぇ……!」
「ちょっちょ! どうしてアンタが泣くのさ!」
「泣いでばぜんよぉ……!目にゴミが入っだんでずぅ!」
「そ、そうかい……? あぁ、まだ名前を聞いて無かったね。あたしゃフローってんだ」
「ガイアズでずうう」
「ガイアズさんね! わかったよ!」
「ス、でずうう」
「あぁはいはい! わかったから早く涙をお拭きよ!」
「ずびばぜんんん」

 おばちゃんから渡されたハンカチで目元を拭く。
 なんとまぁ親切なおばちゃんだろうか。
 ただ目にゴミが入ってしまっただけだというのに。

「ガイアスさんや」
「なんだいフローさんや」
「アンタ若いのに爺さんみたいな返事だねぇ。飯はどうすんだい? 良かったら食ってきな」
「いいんですか!? ありがとうございます! 助かります!」
「ただ、アンタの口に合う料理かは分からないよ?」
「大丈夫です! 不味くても食べます!」
「あはは! そうかい、そんじゃ日が沈む頃には食事の用意済ませとくからね」
「はい、わかりました」

 ケタケタと笑ったフローは、そのままドアを閉めて行ってしまった。
 日没まであと数時間はある。
 それまで何をしていようか。

「水、だな」

 水筒の中身もほぼほぼ無い。
 この家に来る途中、村の真ん中に井戸があったのを覚えている。
 水を汲んで……どうするか、散歩でもして景色を楽しむのもいい。
 
「フローさん! ちょっと出掛けて来ますね!」
「はいよー!気をつけてねぇ!」

 フローさんに一声かけ、玄関を出る。
 草と土の香りが一気に押し寄せてくる。
 んふぅーーっと大きく息を吸い、胸いっぱい鼻いっぱいに自然の香りを取り込んでいく。
王都を出て二日、最初は感動もしたけれど、今じゃ特別さも無い。
 なんならこれがこれからの日常になっていくのだ。
 
「よう旅の人! 良かったら寄ってってくれよ」

 大して舗装もされていない村の中をテクテク歩いていると、ねじり鉢巻をしたおっちゃんに声をかけられた。
 おっちゃんの前には野菜や果物が並べられている。
 どうやら八百屋のようだ。

「こっちも寄ってきなー!」

 と、隣からも別のおっちゃん。
 隣は……肉屋かな? 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...