4 / 53
一章 逸脱者
4.これから
しおりを挟む
そして祝賀パーティーは盛大に、実に煌びやかに華やかに開催された。
美しく飾られた美味しい宮廷料理に色とりどりの酒、ジュースなどが振る舞われていた。
エレメンタリオ国内だけでなく、諸外国からも大勢の王族や貴族、著名人や有名人などが招かれていた。
各国の王族貴族が、それぞれの姫や王子を連れて父に挨拶をし、僕達子供達も定文の自己紹介を繰り返していく。
「将来が楽しみですなぁ」
「利発な目だ」
「既に貫禄もありますなぁ」
などという言葉が無数に飛んでくる。
兄姉達はいざ知らず、世間的に死ぬ事になっている僕にとっては、苦痛と言ってもいいくらいだった。
「ごきげんよう、アース殿下」
「アース・グランシャリオ、三男にして地の使徒となるべくって……ご、ごきげんよう。えっと」
「ラピスラズリ・クルレルダイトと申しますわ」
「ラピスラズリ・クルレルダイト……」
「アース殿下、どうぞラピスとお呼び下さいませ」
「あ……はい。ラピス様」
心ここにあらずの挨拶をしていると、僕と同年代か少し上らしき姫君が微笑んでいた。
何人もの姫君と挨拶を交わしたが、ほぼ上の空で声も顔も覚えていない。
けどこの子は違った。
何が違うのかと言われたら、その正体は全くもって分からないけれど。
何だろう? 存在感だろうか?
僕の本能に直接訴えかけてくるような存在感と、海よりも空よりも深い濃い蒼い瞳。
「どうかしまして? 私の顔に何か付いておりますでしょうか……?」
「はっ! いっいえいえ! ただその、いえ、何でもありません。失礼致しました」
はぁ~なんて素敵な声なのだろうか……。
不思議そうに首を傾げるその仕草もまた素敵可愛い。
「アースよ。言葉に急に熱が入ったようだが」
「ちっ! ちち……陛下! そんな事は!」
横で見ていた父がそんな事を言った。
口元が少しニヤついてる……。
「よいよい。クルレルダイトの姫君は美しさで評判だからな」
「陛下からのお言葉、もったいなく思いますわ」
ラピスはそういって、ドレスの端をつまみ軽く礼をした。
父はうむ、と言ってラピスの父である、クルレルダイト王との談話に戻った。
けど、僕にとってはきっとこれが……最初で最後の出会いになるんだろう。
僕は一抹の夢として、この出会いを胸に刻みつけることにした。
そんな僕の思いを他所に、半日以上をかけたパーティーは幕を閉じた。
翌日。
「アースよ」
「はい。お父上」
僕は執務室にて、だいぶ血色の良くなった父を前にしていた。
机の上には、大ぶりな石がはめ込まれたペンダントが置いてあった。
「アース、いやガイアスよ。これをお前に授ける」
「これは……?」
「特に名称などはないのだが……そうだな、石礫の首飾りとでも呼ぼうか」
「石礫……ですか」
父はペンダントを手に取り、嵌っている石を見つめた。
「これには色々な魔法が込められておってな。アリエスが作った渾身の魔道具だよ」
「いいのですか? そんな貴重な物を……」
「よい。何しろこれはお前の為に作られた一点物だからな」
「お父上……いえ、陛下ありがとうございます」
「これに込められているのは、簡単に言えば認識阻害の魔法だ。これを付けている限り、お前は道端の石ころと同じような存在になる。姿を見られても会話をしても、お前は次の瞬間忘れ去られる。そしてどんな魔力探知でもひっかかる事はあるまい」
「なるほど、ゆえに石礫というわけですか」
「そうだ。お前の死は明日発表する。そこから五年間お前は誰にも認知されず、会話も無い。仮に一言二言会話をするような事があっても、お前の存在は誰の記憶に止まる事も無い」
「それは……中々に辛そうですね」
誰からも認識されず相手にされず、記憶にも残らずに、五年間を生き抜かなければならない。
想像しただけでゾッとする。
けれど仕方ない。
アース・グランシャリオは明日死ぬのだから。
美しく飾られた美味しい宮廷料理に色とりどりの酒、ジュースなどが振る舞われていた。
エレメンタリオ国内だけでなく、諸外国からも大勢の王族や貴族、著名人や有名人などが招かれていた。
各国の王族貴族が、それぞれの姫や王子を連れて父に挨拶をし、僕達子供達も定文の自己紹介を繰り返していく。
「将来が楽しみですなぁ」
「利発な目だ」
「既に貫禄もありますなぁ」
などという言葉が無数に飛んでくる。
兄姉達はいざ知らず、世間的に死ぬ事になっている僕にとっては、苦痛と言ってもいいくらいだった。
「ごきげんよう、アース殿下」
「アース・グランシャリオ、三男にして地の使徒となるべくって……ご、ごきげんよう。えっと」
「ラピスラズリ・クルレルダイトと申しますわ」
「ラピスラズリ・クルレルダイト……」
「アース殿下、どうぞラピスとお呼び下さいませ」
「あ……はい。ラピス様」
心ここにあらずの挨拶をしていると、僕と同年代か少し上らしき姫君が微笑んでいた。
何人もの姫君と挨拶を交わしたが、ほぼ上の空で声も顔も覚えていない。
けどこの子は違った。
何が違うのかと言われたら、その正体は全くもって分からないけれど。
何だろう? 存在感だろうか?
僕の本能に直接訴えかけてくるような存在感と、海よりも空よりも深い濃い蒼い瞳。
「どうかしまして? 私の顔に何か付いておりますでしょうか……?」
「はっ! いっいえいえ! ただその、いえ、何でもありません。失礼致しました」
はぁ~なんて素敵な声なのだろうか……。
不思議そうに首を傾げるその仕草もまた素敵可愛い。
「アースよ。言葉に急に熱が入ったようだが」
「ちっ! ちち……陛下! そんな事は!」
横で見ていた父がそんな事を言った。
口元が少しニヤついてる……。
「よいよい。クルレルダイトの姫君は美しさで評判だからな」
「陛下からのお言葉、もったいなく思いますわ」
ラピスはそういって、ドレスの端をつまみ軽く礼をした。
父はうむ、と言ってラピスの父である、クルレルダイト王との談話に戻った。
けど、僕にとってはきっとこれが……最初で最後の出会いになるんだろう。
僕は一抹の夢として、この出会いを胸に刻みつけることにした。
そんな僕の思いを他所に、半日以上をかけたパーティーは幕を閉じた。
翌日。
「アースよ」
「はい。お父上」
僕は執務室にて、だいぶ血色の良くなった父を前にしていた。
机の上には、大ぶりな石がはめ込まれたペンダントが置いてあった。
「アース、いやガイアスよ。これをお前に授ける」
「これは……?」
「特に名称などはないのだが……そうだな、石礫の首飾りとでも呼ぼうか」
「石礫……ですか」
父はペンダントを手に取り、嵌っている石を見つめた。
「これには色々な魔法が込められておってな。アリエスが作った渾身の魔道具だよ」
「いいのですか? そんな貴重な物を……」
「よい。何しろこれはお前の為に作られた一点物だからな」
「お父上……いえ、陛下ありがとうございます」
「これに込められているのは、簡単に言えば認識阻害の魔法だ。これを付けている限り、お前は道端の石ころと同じような存在になる。姿を見られても会話をしても、お前は次の瞬間忘れ去られる。そしてどんな魔力探知でもひっかかる事はあるまい」
「なるほど、ゆえに石礫というわけですか」
「そうだ。お前の死は明日発表する。そこから五年間お前は誰にも認知されず、会話も無い。仮に一言二言会話をするような事があっても、お前の存在は誰の記憶に止まる事も無い」
「それは……中々に辛そうですね」
誰からも認識されず相手にされず、記憶にも残らずに、五年間を生き抜かなければならない。
想像しただけでゾッとする。
けれど仕方ない。
アース・グランシャリオは明日死ぬのだから。
1
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる