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1巻
1-2
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「キシュアアアアアァァァ!」
「「グルォオオオオ!」」
センチピードリッパーがまるで号令のように金切声を上げると、それに呼応するようにギガンテス達が走り出す。目標はもちろん俺達だ。
ズシンズシンと迫る足音を聞きながら、バルザック以下俺達は恐怖に震えながら、全力で来た道を駆けた。
「このままじゃ無理だぜ! バルザックさん! 打ち合わせ通りやっちまいましょうよ!」
「しかし荷物が!」
「今荷物の心配す!?」
「ジェニスの言う通り、もっと、空気読んで、ハァ、ハァ……それより、私が持た、ないよ……」
ハンターであるジェニスはともかく、後衛であるリンとモニカは全力で走った所でそのペースをずっと保てるわけがない。
段々と遅れ始めたリンとモニカの手をバルザックとジェニスが握り、懸命に励ましている。
「アダム!」
「なんだ!」
「足止めを頼む!」
「はぁ!? 無理に決まってるだろ! 血迷ったのか!」
バルザックがこちらをちらりとも見ずにそう言い放つので、さすがの俺も反論する。だが、どうやらそれは決定事項のようだった。
「悪いねアダム! 【ソニックアロー】」
くるりとこちらに向き直ったジェニスが、〝瞬弓〟とよばれるゆえんの高速射撃を二射繰り出した。
「なっ!」
狙いは――俺だ。
「あっぐ……! ジェニスゥウ!」
両膝を射抜かれ、走る勢いのまま地面に倒れ込んだ俺は、走り去るジェニスらの会話を聞き、絶望した。
「これもバルザックの指示なんだよ! 恨むならバルザックを恨んどくれ!」
「ジェニス! 余計な事は言わなくていい!」
「別にいいじゃないさ! あいつはもう死ぬんだ! アダムは私達を逃がすために颯爽としんがりを受け持ち、果てる。そういう筋書きって言っていたじゃないか!」
「そんな。嘘だろ……!」
信じたくない言葉が頭の中にガンガンと鳴り響く。
最初から決まっていた。俺がこのダンジョンで処理される事は、初めから決まっていたようだ。
「おまけだ! こいつもくれてやるよ!」
ダウンズが無造作に投げ捨てた、リンお手製の魔晶石が三つ赤く煌めき、中に封じられていた巨大な爆発を起こす【エクスプロード】の魔法が解き放たれる。
全てがスローに映り、爆発に巻き込まれて吹き飛ばされるメイ、ルクス、トリムの姿がはっきりと見える。
続けて崩れた壁や天井の瓦礫が落ち、動けないまま爆風にさらされる俺の体を何度も殴打していく。
「ごふ……ぁっ」
爆風と爆炎が収まり、霞む意識の中で見たのは、ぼろ雑巾のようになった俺をふらつきながらも守るように立つ三匹のサーヴァントの姿。
そして何も言わず仁王立ちをしている四体のギガンテスとセンチピードリッパー。
「や、めろ……やめて……にげ、ろよ。なん、で……」
「「「ワォォオオオーーーン」」」
命の炎を燃やすかのような、力強い三重の遠吠えがダンジョンに響き渡った。
それに気圧されたのか、こんな惨状になった俺達に同情しているのか、ギガンテス達は棍棒を握りしめたまま動かない。
「たの、むよ、そいつ……らは、ころ……さないで」
『マスター、楽しかったよ』
『僕達を大事にしてくれてありがとう』
『最後まで一緒に戦えて嬉しかったよ。ばいばい!』
「え……?」
ギガンテス達に飛びかかる寸前、俺はメイ達の声を聞いた気がした。
そして――無情にもメイ、ルクス、トリムの三匹の首はセンチピードリッパーに切り落とされる。
「あ、あぁ……」
遠のく意識の中、切断されて地に転がるメイ達の亡骸に手を伸ばそうとしたが、肩から先が動かない。ちらりと見えた限り、どうやら俺の体は【エクスプロード】の直撃を受けて爆散し、頭と胴体しか残っていないようだった。
「アダムさん! そんな、ひどい……!」
「モ、ニカ……?」
気付けばギガンテス達の前には魔法障壁が張られており、なぜかここにいるはずのないモニカの姿が目に入った。
「やっぱり私には無理! 見捨てる事なんて出来ない! 【ヒール】! 【フルケア】! 【リザレクション】! ……ダメ、血が止まらない……」
「にげ……」
「嫌よ! 貴方一人救えないで何が聖女よ! かかってらっしゃい! 私が全部倒して、アダムさんを連れて帰る!」
「む、りだ」
もはや俺に、この状況を理解出来るほどの思考能力はない。
モニカは逃げたはずだ。これは俺の幻覚なのだ。
だからきっと、障壁を破られて棍棒で殴り飛ばされるモニカなんて……
あぁ、立つな、今の一撃で全身ぐちゃぐちゃのはずだ……
腕がちぎれてるじゃないか、美人な顔が岩肌で削られて……
「よう頑張った。褒めてつかわす」
悪夢のような惨劇の最中、突然聞いた事のない声が聞こえ、視界が白く染まった。
「ギョアアアアア!」
「キュイイイイ!」
「おぬしら、私のご主人に何しくさらしとんじゃこんボケド畜生共がああああ!」
眩い光と共に現れたのは、この場に似つかわしくない豪奢なドレスを着た女性だった。彼女はその姿からは想像出来ない啖呵を切って、ギガンテスの一体に回し蹴りを放つと、その頭部を弾き飛ばした。
「は……?」
そこからは一瞬の出来事だった。
謎の女性は空中で踊っているかのような軽やかさで、残りのギガンテス達の頭部を一撃で粉砕。逃げようとしたセンチピードリッパーの足を鷲掴みにして、そのまま体を真っ二つに引き裂いた。
「あ、あれ。体が……治ってる」
謎の女性の戦闘に見入っていた僅かな間に、なぜか俺の体は治っていた。
「はっ! しまった! 私とした事が、つい取り乱して! お初にお目にかかります。私、龍種の頂点であり、幻獣界を統べる〝幻獣王〟バハムートエデンが娘、リリスと申します。この度はお目覚めになられた事を心よりお慶び申し上げると共に……ってちょっと待って超ドタイプ!」
「え?」
「あ、あああの。えっと、やだカッコイイ。まともに見られないですわ」
かしこまったと思えば早口でまくし立て、そうかと思えば顔を赤くしてモジモジして……
幻獣王とか言ったか? どこかの王族の人がなんでこんな所に? ていうかどっから来たんだ?
「えっと、あの……リリス、さん?」
「ハイなんですか! 我が君!」
「これどういう状況、なん、ですか? 俺、確かさっき体が爆散したはずなのに……五体満足で立ってるし」
目の前がぱっと光ったらぱっと体が軽くなって意識もしっかりしてるし、これがこのリリスという女性のおかげならきちんとお礼をしなければならない。
「申し訳ございません! お労しいお姿でしたので、ドカンと回復させていただきましたの。すぐに詳しいご説明をさせていただきますわ! 汚い所ですがどうぞ楽になさってください!」
「そうなのか……ありがとう。けどちょっと待ってくれ。メイ達の亡骸を」
俺はそう言って、切り飛ばされたメイ達の首を回収しようとしたのだが……
「お任せください! 我が君の手を汚すわけにはいきませんわ」
「え?」
「いつまで寝ているつもりだ下僕共、しっかり起きて王に挨拶せんか!」
「いやあの、寝てるっていうか、死んでるんですけ……どって……ええええ!」
なんともまぁ、不思議な事もあるもので……首がない状態のメイ達がよろよろと起き上がり、俺の前に綺麗にお座りをして並んだ。何これ怖いんだけど?
『ますた。ごめん』
『ただい、ま』
『がんば、たよ』
「しゃべっ――!?」
「この者らの魂が天界に行かず、我が君の上でぐるぐる回っていたので、無理矢理器に押し込めました」
「押し込めましたって……それに王とか我が君とか、もうどういう事だよ……」
「まずは王としての目覚め、おめでとうございます」
「だから王って……あぐっ!」
また同じやり取りをするのかと思った刹那、頭の中に謎の声が響いた。
――オリジンジョブ【森羅万象の王】が発現しました。
――これによりジョブ【テイマー】は【森羅万象の王】に統合されます。
――スキル:【王の意思】を会得しました。これにより基準を満たした従者の進化を任意に行う事が可能となります。
――スキル:【王の威光】を会得しました。これにより従者の各ステータスがプラス二百パーセントとなります。
――スキル:【徴収】を会得しました。従者のスキル及びステータスの三十パーセントをストックする事が可能となります。
――スキル:【分配】を会得しました。これによりストックしたステータスを従者へ振り分ける事が可能となります。
――スキル:【多言語理解】を会得しました。
――スキル:【万象の盟約】を会得しました。これによりあらゆる存在を従者として従わせる事が可能となりました。
――スキル:【冥府逆転】を会得しました。これにより理への介入が可能となりました。
――スキル:【パンドラズボックス】を会得しました。これにより盟約を交わした従者の存在、魂はパンドラズボックスに保存されます。
「誰の、声だ」
頭の中に流れ込む大量の情報に戸惑い、若干の頭痛を覚えながら俺はそう呟いていた。
それを聞いたリリスは顔をぱあっと輝かせ、胸の前で手を組んでこう言った。
「まぁ! さっそく聞こえたのですね! さすがは我が君、覚醒と同時に理の声が聞こえるなんて端倪すべからざるお方ですわ!」
「理の、声?」
「はい! 世界に選ばれた者のみが聞く事の出来る声です!」
「へぇ……」
リリスの話と理の声から推測するに、俺は森羅万象の王というオリジンジョブにチェンジしたらしい。
大量にスキルを会得したらしいけど、正直多すぎて覚えきれない。
さっき、唐突にメイ達の声が聞こえたのも、【多言語理解】のスキルのおかげなのだろう。
「ご理解いただけましたか?」
「森羅万象の王っていうのがちょっと分からないけど、なんとなく強くなったんだなってのは分かった」
「森羅万象とはこの世の全て、ありとあらゆるもの、という事です。となれば」
「ありとあらゆるものの王、って事か?」
「その通りです! 我が君は頭の切れるお方ですね!」
「あっはは……んなアホな……」
俺はどうやらとんでもない存在になってしまったらしい。
首なしで尻尾を振るメイ達の体を撫でつつ、俺は必死で頭を整理していくのだった。
「それでリリスさん」
「リリスとお呼びくださいな、あ・な・た。きゃっ! 言っちゃった!」
「え、えっと、リリス――はどうしてここに?」
両頬を手で挟んできゃあきゃあ言っているリリスの感情についていけず、しどろもどろになりながら質問を投げかける。
「はい! 私は父である幻獣王バハムートエデンより命を受け、森羅万象の王の誕生を待ちながら地上世界で眠りについておりました。眠り続けて幾星霜……やっと貴方様がお目覚めになられたので、大急ぎで駆け付けたのですわ!」
「その命の内容を聞いても?」
「はい! 森羅万象の王の妃になれと!」
「なるほど、政略結婚か」
「はい! 本当は好きでもない殿方と蜜月な関係になるのは嫌でしたけど、貴方様にお会いした時感じました。あぁ、この方は私の運命の殿方なのだと」
「つまり?」
「ひ・と・め・ぼ・れ! ですわ!」
「あ、ありがとう……あの、近くない?」
ひとめぼれ、の一文字ずつを俺の胸に指で書きつつ体を寄せてくるリリスに、俺はどう対応していいのか分からず、体を固まらせる。
生まれてこの方、女性からこんなに擦り寄られた事なんて一度もないのだ。こうなるのも致し方あるまい。うむ。
「うふふ……だって惚れてしまったんですもの、妃の座は私のも・の」
「いやでもほら、お互いの事をまだ全然知らないし……!」
「これから知っていけばよろしいかと?」
「あの! じゃあせめてお友達から! 始めませんか!」
「い・や・で・す」
「そんな満面の笑みで断らないでえええ」
まるでデスアナコンダの絡みつきのようなしつこさでアピールしてくるリリスに対し、我ながらいい案が浮かんだ。
「俺に従え! 俺は森羅万象の王だぞ!」
「あ、うぅ……強気なアダム様もまたイイ……」
「ど、どうだ?」
「仰せのままに、我が君。では早速でございますが、私を従者としてテイムしてくださいませ。そうする事でアダム様はさらなる高みへと至るでしょう」
「わ、分かった。リリスよ俺に従え! 【テイミング】!」
「アダム様の御心のままに」
リリスの額に掌を向けると、ドクン、と何かが繋がったような感覚があった。
「うわ……すげぇ、なんだこれ……!」
――スキル【徴収】を発動、サーヴァント【リリス】のステータスの三十パーセントをストックします。このストックは分配しない限り王のものとなります。
「力が……数倍、いや数百倍にも上がった気がする」
「私はこう見えても幻獣王の娘、教養にもボディにもステータスにも自信がございます」
「あ、うん……! ボディはちょっと置いといて、いやほんと凄い! これで三十パーセントなのかよ」
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます」
『ますた、わたしたちも』
『つよくなりたい』
『もう、まけたくないよ』
「お前ら……」
俺が感傷に浸っていたら、リリスがうんうんと頷いて指をパチン、と鳴らした。
「強くなりたい、か。よかろう! 私がその願い叶えてやろう! 特別だからな?」
「え、ちょ! 何してんの!?」
すると、メイ達の体がどろりと溶けて合わさり、スライムのようにモゴモゴと蠢き始めたのだ。何これ怖い。
「マジで何してんの!? 溶けたよ!?」
「大丈夫ですアダム様、この下僕達はこれで強く生まれ変わります!」
「ほんとかよう……」
大事な相棒達が、スライムみたいに溶けてどろりどろりと蠢く様を見せつけられているのだ、とても安心出来るような状況じゃあない。
ハラハラしながら事の成り行きを見守る事数分、不定形のドロドロが段々と形になり始めた。
そして――
「おお……!」
「どうですか? 一応この子達のリクエストはきちんとヒアリングして、反映しました! 出来た嫁だと思いませんか?」
「あ、あぁ、そうだな。凄いよ」
「ッシャア!」
小さくガッツポーズを決めるリリスを横目に、目の前で形成されていくメイ達だったモノを凝視する。
足先から肩までは約百五十センチくらい、そこから伸びる首と頭を入れればもっとデカい。全身が黒い毛並みで覆われ、首から胸元にかけて茶色い模様になっている。
雄々しく立つ体躯は逞しく、筋肉がはち切れんばかりに詰まっているのが見ただけで分かる。
そして、注目すべきは……肩口から伸びる三本の首と頭だった。
「なぁ、リリス、これってまさかさ……ケルベロス……ってやつか」
「そうです! 地獄の番犬、ケルベロスでございます!」
『マスター!』
『我ら!』
『完全なる!』
『『『復活を‼』』』
「メイ! ルクス! トリム!」
三位一体のサーヴァントとなったメイ達が俺に駆け寄り、グリグリと体を擦り付けて、太い尻尾をちぎれんばかりに猛烈に振っている。
予期しない斜め上の復活だったけれど、俺的にはコイツらが戻ってきて、また一緒に生きていけるだけで満足だった。
一度は諦めた人生と相棒だったけれど、メイ達の体を撫で、抱きしめていると自然に涙が溢れてきた。
「めいいぃ……るぐずぅ……どりむうう!」
『マスター!』
『マスター!』
『マスター泣かないで!』
「うっうっ……いい話ですねぇ……」
なぜかリリスまでも瞳を濡らし、小綺麗なハンカチで目元を押さえていた。
ひとしきり抱き合っておんおんと泣いた後、俺はもう一つの大事な事に目を向けた。
「モニカ……」
生贄として葬りさられようとした俺を助けるために、たった一人で戻ってきてくれたモニカ。
僅か数分で蹂躙され、無惨な死を遂げた彼女だが、その数分がなければリリスは間に合わなかっただろうし、俺も、メイ達も死んでいた。
下半身は握り潰され、腕は引きちぎられたのか一本しか残っておらず、天使のような美貌は見る影もない。
壁に寄りかかるような姿勢で事切れている、彼女だったモノに手を合わせる。
そしてこの時、可能性は限りなくゼロに近いけれど、こんな惨状でもモニカを助けられる方法を俺は思いついた。
「なぁリリス」
「お呼びですか!? なんでしょうアダム様!」
「俺のスキル、【冥府逆転】を使ってモニカを、この亡骸の子を、蘇らせる事は可能か?」
「えぇ……なんという……」
「やっぱり無理か……」
「いえ、無理ではないのですが……矮小な人間一体を救おうとするなんて、慈悲深いお方だと感銘を受けていました」
「矮小とか言うな……一応、元仲間、だからな。でも本当か?」
「はい。アダム様のお力をお借りすれば可能です、しかしこの子はアダム様の従者、サーヴァントとなりますが……」
「なんだとぅ」
「ここまで損壊していると、恐らく魂もかなりすり減っています。よろしければ私の方で補填させていただいても?」
「構わない、モニカは俺を助けてくれた。なんとしてでも救いたい」
「分かりました。ですが、先に謝罪を。アダム様を全快させたのと、犬共を復活させた事で、眠りについていた際に溜め込んでいた力を使い果たしてしまいまして……今の私では、このくらいのお力添えしか出来ず、申し訳ございません」
「いや、十分さ。ありがとう。そのおかげで、俺もメイ達も助かったんだ。その上、身を挺して俺を庇ってくれたモニカも救う事が出来る」
「光栄ですわ」
リリスはそう言ってはにかむように笑った。
モニカの力ですら癒せなかった俺の致命傷を、瞬時に全回復させ、尚且つメイ達を新たな存在として復活させた。
リリスが規格外な存在である事は、間違いないだろう。
「では、早速始めます。アダム様、私の手を握って、意識を集中してください」
「分かった、頼む」
差し出されたリリスの掌を強く握り、俺はただ祈った。
俺の手を握り返したリリスは深く息を吸い込み、意識を集中させているようだ。全身が淡く光り、腰まであるプラチナブロンドの髪が波のように揺らめいている。
死んでしまった者を蘇らせる事は決して出来ない。
しかしながら、俺の中にあるスキル【冥府逆転】。理への介入という、聞いた事もなければ、使い方も分からないスキルだけど、俺の中の直感が「使え」と命じている気がしたのだ。
リリスは目をつぶりながら小さく何かを呟いているが、恐らく魂の補填というやつなんだろう。
これでモニカが復活した場合、俺のサーヴァントになるらしいけれど、俺はそのまま解放するつもりでいる。
人間を従えるつもりはないからな……ましてや、散々お世話になった聖女様を従えるなんて、恐れ多くて俺の心が持たないよきっと、うん、ほんとに。
「「グルォオオオオ!」」
センチピードリッパーがまるで号令のように金切声を上げると、それに呼応するようにギガンテス達が走り出す。目標はもちろん俺達だ。
ズシンズシンと迫る足音を聞きながら、バルザック以下俺達は恐怖に震えながら、全力で来た道を駆けた。
「このままじゃ無理だぜ! バルザックさん! 打ち合わせ通りやっちまいましょうよ!」
「しかし荷物が!」
「今荷物の心配す!?」
「ジェニスの言う通り、もっと、空気読んで、ハァ、ハァ……それより、私が持た、ないよ……」
ハンターであるジェニスはともかく、後衛であるリンとモニカは全力で走った所でそのペースをずっと保てるわけがない。
段々と遅れ始めたリンとモニカの手をバルザックとジェニスが握り、懸命に励ましている。
「アダム!」
「なんだ!」
「足止めを頼む!」
「はぁ!? 無理に決まってるだろ! 血迷ったのか!」
バルザックがこちらをちらりとも見ずにそう言い放つので、さすがの俺も反論する。だが、どうやらそれは決定事項のようだった。
「悪いねアダム! 【ソニックアロー】」
くるりとこちらに向き直ったジェニスが、〝瞬弓〟とよばれるゆえんの高速射撃を二射繰り出した。
「なっ!」
狙いは――俺だ。
「あっぐ……! ジェニスゥウ!」
両膝を射抜かれ、走る勢いのまま地面に倒れ込んだ俺は、走り去るジェニスらの会話を聞き、絶望した。
「これもバルザックの指示なんだよ! 恨むならバルザックを恨んどくれ!」
「ジェニス! 余計な事は言わなくていい!」
「別にいいじゃないさ! あいつはもう死ぬんだ! アダムは私達を逃がすために颯爽としんがりを受け持ち、果てる。そういう筋書きって言っていたじゃないか!」
「そんな。嘘だろ……!」
信じたくない言葉が頭の中にガンガンと鳴り響く。
最初から決まっていた。俺がこのダンジョンで処理される事は、初めから決まっていたようだ。
「おまけだ! こいつもくれてやるよ!」
ダウンズが無造作に投げ捨てた、リンお手製の魔晶石が三つ赤く煌めき、中に封じられていた巨大な爆発を起こす【エクスプロード】の魔法が解き放たれる。
全てがスローに映り、爆発に巻き込まれて吹き飛ばされるメイ、ルクス、トリムの姿がはっきりと見える。
続けて崩れた壁や天井の瓦礫が落ち、動けないまま爆風にさらされる俺の体を何度も殴打していく。
「ごふ……ぁっ」
爆風と爆炎が収まり、霞む意識の中で見たのは、ぼろ雑巾のようになった俺をふらつきながらも守るように立つ三匹のサーヴァントの姿。
そして何も言わず仁王立ちをしている四体のギガンテスとセンチピードリッパー。
「や、めろ……やめて……にげ、ろよ。なん、で……」
「「「ワォォオオオーーーン」」」
命の炎を燃やすかのような、力強い三重の遠吠えがダンジョンに響き渡った。
それに気圧されたのか、こんな惨状になった俺達に同情しているのか、ギガンテス達は棍棒を握りしめたまま動かない。
「たの、むよ、そいつ……らは、ころ……さないで」
『マスター、楽しかったよ』
『僕達を大事にしてくれてありがとう』
『最後まで一緒に戦えて嬉しかったよ。ばいばい!』
「え……?」
ギガンテス達に飛びかかる寸前、俺はメイ達の声を聞いた気がした。
そして――無情にもメイ、ルクス、トリムの三匹の首はセンチピードリッパーに切り落とされる。
「あ、あぁ……」
遠のく意識の中、切断されて地に転がるメイ達の亡骸に手を伸ばそうとしたが、肩から先が動かない。ちらりと見えた限り、どうやら俺の体は【エクスプロード】の直撃を受けて爆散し、頭と胴体しか残っていないようだった。
「アダムさん! そんな、ひどい……!」
「モ、ニカ……?」
気付けばギガンテス達の前には魔法障壁が張られており、なぜかここにいるはずのないモニカの姿が目に入った。
「やっぱり私には無理! 見捨てる事なんて出来ない! 【ヒール】! 【フルケア】! 【リザレクション】! ……ダメ、血が止まらない……」
「にげ……」
「嫌よ! 貴方一人救えないで何が聖女よ! かかってらっしゃい! 私が全部倒して、アダムさんを連れて帰る!」
「む、りだ」
もはや俺に、この状況を理解出来るほどの思考能力はない。
モニカは逃げたはずだ。これは俺の幻覚なのだ。
だからきっと、障壁を破られて棍棒で殴り飛ばされるモニカなんて……
あぁ、立つな、今の一撃で全身ぐちゃぐちゃのはずだ……
腕がちぎれてるじゃないか、美人な顔が岩肌で削られて……
「よう頑張った。褒めてつかわす」
悪夢のような惨劇の最中、突然聞いた事のない声が聞こえ、視界が白く染まった。
「ギョアアアアア!」
「キュイイイイ!」
「おぬしら、私のご主人に何しくさらしとんじゃこんボケド畜生共がああああ!」
眩い光と共に現れたのは、この場に似つかわしくない豪奢なドレスを着た女性だった。彼女はその姿からは想像出来ない啖呵を切って、ギガンテスの一体に回し蹴りを放つと、その頭部を弾き飛ばした。
「は……?」
そこからは一瞬の出来事だった。
謎の女性は空中で踊っているかのような軽やかさで、残りのギガンテス達の頭部を一撃で粉砕。逃げようとしたセンチピードリッパーの足を鷲掴みにして、そのまま体を真っ二つに引き裂いた。
「あ、あれ。体が……治ってる」
謎の女性の戦闘に見入っていた僅かな間に、なぜか俺の体は治っていた。
「はっ! しまった! 私とした事が、つい取り乱して! お初にお目にかかります。私、龍種の頂点であり、幻獣界を統べる〝幻獣王〟バハムートエデンが娘、リリスと申します。この度はお目覚めになられた事を心よりお慶び申し上げると共に……ってちょっと待って超ドタイプ!」
「え?」
「あ、あああの。えっと、やだカッコイイ。まともに見られないですわ」
かしこまったと思えば早口でまくし立て、そうかと思えば顔を赤くしてモジモジして……
幻獣王とか言ったか? どこかの王族の人がなんでこんな所に? ていうかどっから来たんだ?
「えっと、あの……リリス、さん?」
「ハイなんですか! 我が君!」
「これどういう状況、なん、ですか? 俺、確かさっき体が爆散したはずなのに……五体満足で立ってるし」
目の前がぱっと光ったらぱっと体が軽くなって意識もしっかりしてるし、これがこのリリスという女性のおかげならきちんとお礼をしなければならない。
「申し訳ございません! お労しいお姿でしたので、ドカンと回復させていただきましたの。すぐに詳しいご説明をさせていただきますわ! 汚い所ですがどうぞ楽になさってください!」
「そうなのか……ありがとう。けどちょっと待ってくれ。メイ達の亡骸を」
俺はそう言って、切り飛ばされたメイ達の首を回収しようとしたのだが……
「お任せください! 我が君の手を汚すわけにはいきませんわ」
「え?」
「いつまで寝ているつもりだ下僕共、しっかり起きて王に挨拶せんか!」
「いやあの、寝てるっていうか、死んでるんですけ……どって……ええええ!」
なんともまぁ、不思議な事もあるもので……首がない状態のメイ達がよろよろと起き上がり、俺の前に綺麗にお座りをして並んだ。何これ怖いんだけど?
『ますた。ごめん』
『ただい、ま』
『がんば、たよ』
「しゃべっ――!?」
「この者らの魂が天界に行かず、我が君の上でぐるぐる回っていたので、無理矢理器に押し込めました」
「押し込めましたって……それに王とか我が君とか、もうどういう事だよ……」
「まずは王としての目覚め、おめでとうございます」
「だから王って……あぐっ!」
また同じやり取りをするのかと思った刹那、頭の中に謎の声が響いた。
――オリジンジョブ【森羅万象の王】が発現しました。
――これによりジョブ【テイマー】は【森羅万象の王】に統合されます。
――スキル:【王の意思】を会得しました。これにより基準を満たした従者の進化を任意に行う事が可能となります。
――スキル:【王の威光】を会得しました。これにより従者の各ステータスがプラス二百パーセントとなります。
――スキル:【徴収】を会得しました。従者のスキル及びステータスの三十パーセントをストックする事が可能となります。
――スキル:【分配】を会得しました。これによりストックしたステータスを従者へ振り分ける事が可能となります。
――スキル:【多言語理解】を会得しました。
――スキル:【万象の盟約】を会得しました。これによりあらゆる存在を従者として従わせる事が可能となりました。
――スキル:【冥府逆転】を会得しました。これにより理への介入が可能となりました。
――スキル:【パンドラズボックス】を会得しました。これにより盟約を交わした従者の存在、魂はパンドラズボックスに保存されます。
「誰の、声だ」
頭の中に流れ込む大量の情報に戸惑い、若干の頭痛を覚えながら俺はそう呟いていた。
それを聞いたリリスは顔をぱあっと輝かせ、胸の前で手を組んでこう言った。
「まぁ! さっそく聞こえたのですね! さすがは我が君、覚醒と同時に理の声が聞こえるなんて端倪すべからざるお方ですわ!」
「理の、声?」
「はい! 世界に選ばれた者のみが聞く事の出来る声です!」
「へぇ……」
リリスの話と理の声から推測するに、俺は森羅万象の王というオリジンジョブにチェンジしたらしい。
大量にスキルを会得したらしいけど、正直多すぎて覚えきれない。
さっき、唐突にメイ達の声が聞こえたのも、【多言語理解】のスキルのおかげなのだろう。
「ご理解いただけましたか?」
「森羅万象の王っていうのがちょっと分からないけど、なんとなく強くなったんだなってのは分かった」
「森羅万象とはこの世の全て、ありとあらゆるもの、という事です。となれば」
「ありとあらゆるものの王、って事か?」
「その通りです! 我が君は頭の切れるお方ですね!」
「あっはは……んなアホな……」
俺はどうやらとんでもない存在になってしまったらしい。
首なしで尻尾を振るメイ達の体を撫でつつ、俺は必死で頭を整理していくのだった。
「それでリリスさん」
「リリスとお呼びくださいな、あ・な・た。きゃっ! 言っちゃった!」
「え、えっと、リリス――はどうしてここに?」
両頬を手で挟んできゃあきゃあ言っているリリスの感情についていけず、しどろもどろになりながら質問を投げかける。
「はい! 私は父である幻獣王バハムートエデンより命を受け、森羅万象の王の誕生を待ちながら地上世界で眠りについておりました。眠り続けて幾星霜……やっと貴方様がお目覚めになられたので、大急ぎで駆け付けたのですわ!」
「その命の内容を聞いても?」
「はい! 森羅万象の王の妃になれと!」
「なるほど、政略結婚か」
「はい! 本当は好きでもない殿方と蜜月な関係になるのは嫌でしたけど、貴方様にお会いした時感じました。あぁ、この方は私の運命の殿方なのだと」
「つまり?」
「ひ・と・め・ぼ・れ! ですわ!」
「あ、ありがとう……あの、近くない?」
ひとめぼれ、の一文字ずつを俺の胸に指で書きつつ体を寄せてくるリリスに、俺はどう対応していいのか分からず、体を固まらせる。
生まれてこの方、女性からこんなに擦り寄られた事なんて一度もないのだ。こうなるのも致し方あるまい。うむ。
「うふふ……だって惚れてしまったんですもの、妃の座は私のも・の」
「いやでもほら、お互いの事をまだ全然知らないし……!」
「これから知っていけばよろしいかと?」
「あの! じゃあせめてお友達から! 始めませんか!」
「い・や・で・す」
「そんな満面の笑みで断らないでえええ」
まるでデスアナコンダの絡みつきのようなしつこさでアピールしてくるリリスに対し、我ながらいい案が浮かんだ。
「俺に従え! 俺は森羅万象の王だぞ!」
「あ、うぅ……強気なアダム様もまたイイ……」
「ど、どうだ?」
「仰せのままに、我が君。では早速でございますが、私を従者としてテイムしてくださいませ。そうする事でアダム様はさらなる高みへと至るでしょう」
「わ、分かった。リリスよ俺に従え! 【テイミング】!」
「アダム様の御心のままに」
リリスの額に掌を向けると、ドクン、と何かが繋がったような感覚があった。
「うわ……すげぇ、なんだこれ……!」
――スキル【徴収】を発動、サーヴァント【リリス】のステータスの三十パーセントをストックします。このストックは分配しない限り王のものとなります。
「力が……数倍、いや数百倍にも上がった気がする」
「私はこう見えても幻獣王の娘、教養にもボディにもステータスにも自信がございます」
「あ、うん……! ボディはちょっと置いといて、いやほんと凄い! これで三十パーセントなのかよ」
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます」
『ますた、わたしたちも』
『つよくなりたい』
『もう、まけたくないよ』
「お前ら……」
俺が感傷に浸っていたら、リリスがうんうんと頷いて指をパチン、と鳴らした。
「強くなりたい、か。よかろう! 私がその願い叶えてやろう! 特別だからな?」
「え、ちょ! 何してんの!?」
すると、メイ達の体がどろりと溶けて合わさり、スライムのようにモゴモゴと蠢き始めたのだ。何これ怖い。
「マジで何してんの!? 溶けたよ!?」
「大丈夫ですアダム様、この下僕達はこれで強く生まれ変わります!」
「ほんとかよう……」
大事な相棒達が、スライムみたいに溶けてどろりどろりと蠢く様を見せつけられているのだ、とても安心出来るような状況じゃあない。
ハラハラしながら事の成り行きを見守る事数分、不定形のドロドロが段々と形になり始めた。
そして――
「おお……!」
「どうですか? 一応この子達のリクエストはきちんとヒアリングして、反映しました! 出来た嫁だと思いませんか?」
「あ、あぁ、そうだな。凄いよ」
「ッシャア!」
小さくガッツポーズを決めるリリスを横目に、目の前で形成されていくメイ達だったモノを凝視する。
足先から肩までは約百五十センチくらい、そこから伸びる首と頭を入れればもっとデカい。全身が黒い毛並みで覆われ、首から胸元にかけて茶色い模様になっている。
雄々しく立つ体躯は逞しく、筋肉がはち切れんばかりに詰まっているのが見ただけで分かる。
そして、注目すべきは……肩口から伸びる三本の首と頭だった。
「なぁ、リリス、これってまさかさ……ケルベロス……ってやつか」
「そうです! 地獄の番犬、ケルベロスでございます!」
『マスター!』
『我ら!』
『完全なる!』
『『『復活を‼』』』
「メイ! ルクス! トリム!」
三位一体のサーヴァントとなったメイ達が俺に駆け寄り、グリグリと体を擦り付けて、太い尻尾をちぎれんばかりに猛烈に振っている。
予期しない斜め上の復活だったけれど、俺的にはコイツらが戻ってきて、また一緒に生きていけるだけで満足だった。
一度は諦めた人生と相棒だったけれど、メイ達の体を撫で、抱きしめていると自然に涙が溢れてきた。
「めいいぃ……るぐずぅ……どりむうう!」
『マスター!』
『マスター!』
『マスター泣かないで!』
「うっうっ……いい話ですねぇ……」
なぜかリリスまでも瞳を濡らし、小綺麗なハンカチで目元を押さえていた。
ひとしきり抱き合っておんおんと泣いた後、俺はもう一つの大事な事に目を向けた。
「モニカ……」
生贄として葬りさられようとした俺を助けるために、たった一人で戻ってきてくれたモニカ。
僅か数分で蹂躙され、無惨な死を遂げた彼女だが、その数分がなければリリスは間に合わなかっただろうし、俺も、メイ達も死んでいた。
下半身は握り潰され、腕は引きちぎられたのか一本しか残っておらず、天使のような美貌は見る影もない。
壁に寄りかかるような姿勢で事切れている、彼女だったモノに手を合わせる。
そしてこの時、可能性は限りなくゼロに近いけれど、こんな惨状でもモニカを助けられる方法を俺は思いついた。
「なぁリリス」
「お呼びですか!? なんでしょうアダム様!」
「俺のスキル、【冥府逆転】を使ってモニカを、この亡骸の子を、蘇らせる事は可能か?」
「えぇ……なんという……」
「やっぱり無理か……」
「いえ、無理ではないのですが……矮小な人間一体を救おうとするなんて、慈悲深いお方だと感銘を受けていました」
「矮小とか言うな……一応、元仲間、だからな。でも本当か?」
「はい。アダム様のお力をお借りすれば可能です、しかしこの子はアダム様の従者、サーヴァントとなりますが……」
「なんだとぅ」
「ここまで損壊していると、恐らく魂もかなりすり減っています。よろしければ私の方で補填させていただいても?」
「構わない、モニカは俺を助けてくれた。なんとしてでも救いたい」
「分かりました。ですが、先に謝罪を。アダム様を全快させたのと、犬共を復活させた事で、眠りについていた際に溜め込んでいた力を使い果たしてしまいまして……今の私では、このくらいのお力添えしか出来ず、申し訳ございません」
「いや、十分さ。ありがとう。そのおかげで、俺もメイ達も助かったんだ。その上、身を挺して俺を庇ってくれたモニカも救う事が出来る」
「光栄ですわ」
リリスはそう言ってはにかむように笑った。
モニカの力ですら癒せなかった俺の致命傷を、瞬時に全回復させ、尚且つメイ達を新たな存在として復活させた。
リリスが規格外な存在である事は、間違いないだろう。
「では、早速始めます。アダム様、私の手を握って、意識を集中してください」
「分かった、頼む」
差し出されたリリスの掌を強く握り、俺はただ祈った。
俺の手を握り返したリリスは深く息を吸い込み、意識を集中させているようだ。全身が淡く光り、腰まであるプラチナブロンドの髪が波のように揺らめいている。
死んでしまった者を蘇らせる事は決して出来ない。
しかしながら、俺の中にあるスキル【冥府逆転】。理への介入という、聞いた事もなければ、使い方も分からないスキルだけど、俺の中の直感が「使え」と命じている気がしたのだ。
リリスは目をつぶりながら小さく何かを呟いているが、恐らく魂の補填というやつなんだろう。
これでモニカが復活した場合、俺のサーヴァントになるらしいけれど、俺はそのまま解放するつもりでいる。
人間を従えるつもりはないからな……ましてや、散々お世話になった聖女様を従えるなんて、恐れ多くて俺の心が持たないよきっと、うん、ほんとに。
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