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しおりを挟む第一章 絶望と覚醒
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
賑わう酒場に一層大きな乾杯の音頭が響き、グラスを合わせる小気味のいい音が鳴る。
俺、アダムが籍を置くS級パーティ【ラディウス】が、A級ダンジョン〝鬼岩窟〟を攻略した祝勝会である。
「くーーっ! やっと攻略出来たな! これも皆のおかげだぜ!」
攻防バランスの取れた戦略と優れた剣術、豪気な性格でラディウスを纏めるリーダーである、元王国軍戦士長――勇者バルザックが冷えたエールを一息で飲み干した後にそう言った。
「やっとも何も俺達なら朝飯前のダンジョンだったぜ!」
冒険者ランクはB級だが耐久力とパワーには定評のある、パーティの壁役、重戦士ダウンズが重ねるように言う。
「でも、さすがに歴代最速攻略を目指したのは骨が折れた」
そして甘ったるい果実ジュースの入ったコップを両手で持ち、くぴくぴと飲みながら言ったのは僅か十五歳にして十を超えるオリジナル魔法を編み出した天才少女、大魔導士リン。
「なーんで私達が今更A級ダンジョンに潜るのかと思えば……」
「いいじゃないですかジェニスさん。これもいい経験です!」
「モニカはいつでもポジティブちゃんだねぇ」
「はい! いつでも明るく道を照らす! それが私の役目ですから!」
世界中に支部を持つ巨大宗教、クレセント聖教会出身であり、次期〝聖女〟との呼び声が高い敏腕プリースト、モニカ。
元傭兵ながら個人の実力はA級冒険者に匹敵すると称され、狙った獲物は逃がさない最高峰のハンター、ジェニス。その二人が肩を小突き合いながら笑っている。
そんなパーティメンバーの楽しそうな表情を見ながら、空いた皿やグラス、追加注文などを一手に引き受けている俺は、ラディウスの雑用係兼モンスターテイマーをしている。
「しっかしアダムよぉ。鬼岩窟でもテメェはホントに役立たずだったなぁ! 俺らが必死に戦ってる間何していたか言ってみろよ!」
「えっ……それは……」
皿に残っていた野菜くずを口に運んでいる時、顔を少し赤らめたダウンズがそんな事を言ってきた。
この人は何かにつけて俺をいじり、馬鹿にしてくるが、酒が入るとさらにひどい。
「ちょっとダウンズさん! そういう言い方よくないですよ!」
「あぁ? 聖女ちゃんは何も思わないんですかー? 戦闘に参加しねぇで一番後ろでぼけっと突っ立ってるだけのアダム君によぉ!」
そしていつも仲裁に入ってくれるのがモニカだった。
他のメンバーは知らないふりをするか、冷ややかな視線を俺に向けてくる。
その対応で、俺がパーティ内でどう思われているのかを改めて察してしまう。
リンもジェニスもどっちに付けば有利か、なんて事は重々承知しているようで「アダムは雑用、仕方ない」「私らが優秀すぎてやる事ないのかもよ? ククク」なんて言ってる。
俺にだって言い分はあるけど、何だかんだでダンジョンのドロップアイテムや装備――鬼岩窟攻略後に貰ったレア装備の鬼王の胸当て――を恵んでくれるあたり、気にかけてもらえているのだと思い、ぐっとこらえる。
みんな過酷な戦闘や野宿で神経がすり減っているのだ、仕方ない事、俺が我慢すればいいだけの事なのだ。
「バルザックさんもそう思うだろ? ただのごく潰しじゃねぇか! 使えねぇ奴が天下のラディウスにいちゃいけねえって! あっはっは!」
ラディウスはパーティとしてS級の実力がある。個人の冒険者ランクがS級の者は今のところいないが、史上最速でS級パーティになった事もあり、メンバーのプライドはとんでもなく高い。
「……ダウンズ、もうやめろ」
「へいへい。バルザックさんがそう言うなら。今は、やめときますよーヒック」
「……メイ達に食事あげてくる」
この場から離れたくなった俺は、サーヴァント――テイマーが使役しているモンスター――に食事をあげるためにも、席を立つ。
「雑魚犬に食わせる飯代があるなら酒代に回してぇなぁ! モンスターなんだから二日三日食わないでも生きてけるだろ?」
「ダウンズさん!」
モニカが抗議の声を上げる。
「いいよモニカ。行ってくる」
「アダムさん……」
馬鹿笑いをしているダウンズをさりげなく睨みつけた俺は、心配そうな表情のモニカを横目に、酒場を出て裏手にある厩へと向かった。
酒場は俺達が今日泊まる宿の一階に併設されており、ふと見上げれば明かりのついた二つの部屋が目に留まる。
明かりのついた部屋は、それぞれモニカ達女性陣とバルザックら男性陣の部屋なのだが、どうせ明かりを消してこなかったんだろう。
俺の部屋は男性陣の部屋の隣、一人部屋だ。
ダウンズが俺との相部屋がどうしても嫌だとゴネるので、仕方なしにこうなっている。
今日は部屋が割り振られているけど、厩があてがわれる事もしばしばあった。
まぁ干し草の上でメイ達に囲まれて寝るのも悪くないし、俺的にはあまり気にしていない。
「オンオン!」
「あぁ、はいはい」
俺の気配を察したのか、サーヴァントのメイの吠える声が厩から聞こえてきた。
厩に入り、サーヴァントにあてがわれた区画に入ると、三匹の黒い犬型モンスターが尻尾を振りながら迎えてくれた。
「お腹空いたろ? 食事だよ」
「「「オン! オンオンオン!!」」」
「慌てるなって、すぐあげるから……わっぷ、顔を舐められたらご飯あげられないだろ」
この三匹は俺が冒険者の初期にテイムしたワイルドブラックドッグで、メイ、ルクス、トリムという名前だ。
ラディウスに入った当初から、餌代がかかるからサーヴァントは増やすなと言われていたので、俺の相棒はずっとこいつらだけだった。
おかげでたっぷりの愛情を注げたし、意思疎通もしっかり出来るようになったし、三匹ともA級に近い強さに育ってくれたし、それはそれで良かったと思ってる。
量より質、ってやつだ。
「アダムさん」
「モニカ……なんでここに?」
唐突に背後から届いた声に振り返ると、微笑みを浮かべたモニカがそこに立っていた。
「その、なんとなく、かな。ワンちゃん触ってもいい?」
「いいけど……その綺麗な服が汚れちゃうよ」
「大丈夫よ。これはどのみち後で洗濯に出すもの」
「そっか」
「はい」
「お前らシャンとしろよ? 聖女様に撫でてもらえるんだ。光栄に思えよ」
「アウゥ? ワンッ!」
「あはは! ダメだ分かってないや」
「ふふ、いくらテイマーでも通じる時と通じない時があるのね? 戦闘中はいつもコンビネーション抜群なのに」
「え……?」
意外な一言に、俺の視線は、モニカの横顔に無意識に釘付けになってしまう。
モニカはそんな事を言いながら俺の横に座り込み、ルクスの頭を優しく撫でている。
「ワンちゃん達、いつも頑張ってくれてありがと。みんないい子ね」
モニカは回復と補助役を一手に引き受けてて、戦闘中は俺なんかよりも数倍忙しいはずなのに……
「どうしたの? 私の顔に何か付いてるかな?」
「あっ! いやごめんそのいや、なんでもない……」
驚きのあまり、彼女から指摘されるまで、見つめたままになっている事に全く気付かなかった。
モニカの横顔は慈愛に溢れたもので、聖女だと言われて疑う者などいないだろう。
戦闘では足手まといで雑用係の俺にすら、こんなに優しく接してくれるのだから。
「ふふ、おかしな人。ちゃんと見てますよ? パーティメンバー全員を見るのが、私のお仕事ですからね」
「でも俺は……」
「だから、その……」
「なんだ?」
モニカは優しさを湛えた瞳をすっと伏せ、ルクスの頭を撫でながら衝撃的な言葉を口にした。
「アダムさんはこのパーティから抜けるべきよ」
「……っ!」
ラディウスの良心だと思っていたモニカから放たれた一言に、思わず俺は唇を噛んで下を向く。
「ここは、ラディウスは貴方がいるべき場所じゃないわ。貴方ならもっと、もっと違う活躍が出来るはずなのに……」
「変なフォローはやめてくれ」
「フォローなんかじゃない! 私は貴方の事を考えて言っているのよ! ダウンズさんもバルザックさんも、リンさんもジェニスさんも、貴方とこの子達をちゃんと評価してないのは貴方自身も分かっているはず。このまま不当に扱われ続けていいの?」
「不当なんかじゃない、事実俺は……バルザックみたいに剣術がうまいわけでもない、ダウンズのようにガチガチの重装でモンスターの攻撃を受け止められるわけじゃない、リンみたいにオリジナルの魔法を編み出せる才能もない、ジェニスのような弓の技術があるわけでもない」
メンバーとの力量の差は明確で、自分で言って悲しくなる。
「どうして自分を認めてあげないの?」
「認めてるよ。お荷物だってのは十分認めてる」
「はぁ……今は何を言っても無駄みたいね」
「きゅぅん……」
「俺は、抜けないよ」
「そう。でも、貴方は決してお荷物なんかじゃないって事、別の生き方があるって事、これだけは覚えていて欲しいの。でないと、いつか大変な事になる気がする」
「忠言ありがとう」
「私は戻るわね。次はいよいよS級ダンジョン、頑張りましょう」
「あぁ」
そのままモニカは去っていき、厩には俯く俺と、心配そうに体を擦り寄せてくるメイ達だけが残された。
「とうとう来たな」
「来ちまったなバルザックさん」
「ここがS級ダンジョン……“葬滅の大墳墓”」
「禍々しいオーラがひしひしと伝わってくるわ……」
「気合、入れていこう」
葬滅の大墳墓は地上一層、地下十五層まであるとされる遺跡型S級ダンジョン。
地上一層から地下五層まではA級パーティでも到達出来る程度だが、六層からは難易度が跳ね上がる。地下では五層ごとにボスが待ち受けていて、最下層とされる十五層まで辿り着けた冒険者パーティはごく僅か、というダンジョンだ。
バルザックらは気合を入れ、フォーメーションなどの確認や下準備を行っている。もちろん、そのフォーメーションや作戦に俺の事は含まれていない。いつからか、そうなっていた。
「おいアダム! 分かってるとは思うが、ヘマしたらただじゃおかねぇからな!」
何を思ったのか、少し離れて荷物の確認をしていた俺の所にダウンズがやってきて、意味もなく蹴りを入れたり、頬を叩いたりしてくる。
「いった……分かってるよ」
「ウォウウォウ!!」
「オン!」
「ワォウ!」
「おーおー、犬っころ共も、いざとなったらちゃんと身代わりになって死ねよ?」
俺を馬鹿にするのはまだいいけど、いつも頑張ってくれているメイ達にこんな事を言うのは、さすがに許せない。
「なんだと! 取り消せダウンズ!」
「「「ガルルル……」」」
「あ? やんのか? 犬っころの力を借りなきゃ何も出来ないへっぽこテイマーが俺様とやろうってのか? 来いよ、ボコボコにしてやっから」
「く……!」
「オラ、どうした?」
握りしめた拳がギリギリと音を鳴らすが、ぐっとこらえる。
ここで俺が殴り掛かった所で、ダウンズの言う通り手も足も出ず俺が一方的に殴られて終わりだ。
これからダンジョンに入るというのに、そんな事をしても無意味。
でも何かがおかしい。
いつも馬鹿にしてくるダウンズだが、ここまでの暴言を吐く事はなかったし、煽るように蹴ったりおちょくるように頬を叩いたりしてくるなんて事もなかった。
「よし行くぞ! 地下五層まで一気に進む!」
俺とメイ、ルクス、トリムで先行し、徘徊しているモンスターやトラップなどを見つけては、後方のバルザック達に指示を飛ばしていく。
俺達の目的は五層から下になるので、地上層から地下五層までのフロアは寄り道をせず、真っすぐ先へ進む。
俺とルクス、トリムは、メンバー全員分の荷物を背負ったままでだ。
戦闘になれば、唯一荷物を持たせていないメイを参戦させる。
俺は……戦う術がないので、後方にて索敵したりアイテムを使って補助したりしている。
「アォォーーン!」
「く! アダム! 犬を黙らせられないのか! 声を聞いてモンスターが寄ってくるだろう!」
「そんな事言ったって……」
戦いの中、威嚇や敵の注意をこちらに引き付ける、いわゆるヘイト調整でメイが大声を発する事がある。けど、それは戦闘に必要な行為なのだと以前に説明している。
覚えていない、というより俺の言葉なんて届いていないのかもしれないが。
「ほら見ろ! おかわりが来やがった!」
「アダム、あの子に言って、声を出さないでって」
「わ、分かったよ。メイ、声は出すな!」
「クゥーン……」
魔法で迎撃していたリンからも言われてしまえば従うしかない。
しょんぼりしながら戦うメイを見ていると、本来の戦い方が出来ず、実力が出せていないのが分かる。
ここ最近はずっとこうだし、そのせいでメイ達サーヴァントがダメージを負う事も増えてきている。
すると、治療費がもったいないだのと難癖をつけられ、かと言って手を抜いても怒鳴られるという八方塞がりな状態だった。
五層までは強力なトラップもそこまでなく、モンスターも大して苦戦せずに倒していけた。
もちろん文句は散々言われたけれど。
「五層のボスはサイクロップス三体。大した事なかったな」
「バルザックさんの剣にかかれば、あんなデカいだけの一つ目なんて、余裕ですよ!」
「モニカも私も、魔力にはかなり余裕があるから、この調子でいきたい」
「前のダンジョンで手に入れたこの魔法弓、凄い威力でチョー楽しい」
ダンジョン攻略は順調に進み、第五層のボスも難なく倒した俺達は、第十層のボスフロアの前で一息ついていた。
話に聞いていた通り、第六層からはモンスターの数も多くなり、苛烈な戦闘が増えてきた。
トラップが三重になっている所もあって、先行している俺からすればかなり神経をすり減らす行程だし、メイやルクス、トリムにも対応の限界というものがある。
ある程度俺が敵を散らしても、そんな事で脅威が収まるほど生易しいダンジョンではない――なのに……
「おいアダムよぉ。てめぇ舐めてんのか? 先行させてやってんのになんで俺達の負担が増えるんだよ」
「高難度なんだから、もっとしっかりやってくれ」
「私の矢だって無限じゃないんだ。分かるでしょ?」
「アダム、ちょっとサボりすぎ」
バルザック、ジェニス、リンと俺への不満を次々に口にしていく。
「私に手伝える事があれば言ってくださいね? 取りこぼしがあれば……その」
「……ごめんよ」
皆言いたい放題ではあるが、モニカだけは少し気遣ってくれているようだ。
このS級ダンジョンでも通用するくらい、俺が強ければ、俺がもっとテイマーとして皆に追い付けるくらいの力があれば、こんな事は言われていないんだろう。
悔しいが、やはり俺の実力は皆には遠く及ばないんだ。
「よし。それじゃあ行くぞ! ここもサクッと片付けて、目指すは最下層だ!」
バルザック達は円陣を組み、気合を入れてボスフロアへと足を踏み入れていく。
俺? 俺が円陣に入れるわけ、ないだろ。
「待て……何か変だ。リン、情報では十層のボスは」
「ジェネラルオークとその側近、のはず」
「でも、あのボスは……ギガンテス……」
「しかも二体もいるじゃない。やばくない?」
「へっ! ギガンテスだろうがジェネラルなんとかだろうが余裕だぜ!」
ボス戦という事で、一番最後にフロアに足を踏み入れた俺にそんな会話が聞こえてきた。俺からすれば、あーそうなんだーくらいにしか思わない。なぜなら、ボス戦の情報なんて一つも教えてもらってないからだ。
体長二メートルを軽く超える巨躯に大木のような太い腕、硬質化し所々隆起した体表は頑強な鎧を彷彿させる。
ギルドの討伐ランクで言えば、確実にS級に入る部類だった。
モンスターの等級と冒険者の等級は比例している。
S級冒険者が一対一で撃破出来るモンスターがS級、A級一人ならA級一体という具合だ。
また、パーティの等級も同様に、S級パーティ一つで撃破出来るモンスターがS級である。
しかし、S級の冒険者・パーティは非常に数が少なく、この王国にも十人程度しかいない。
だが困った事に世界にはS級以上のモンスターが数多く存在する。そういったモンスターはSS級、SSS級と呼ばれ、S級冒険者を軸として十人から数十人規模のレイドを組んで対応する。
でも、こっちだってS級パーティ、実力者揃いなんだ。
そう、この時まで俺はそう思っていた。
「ギャオオオオォォォオオ!!」
「始まった! やるしかない!」
「いっくぜオラアアア!!」
「いけ! メイ! ルクス! トリム! 全力だ!」
「「「アォオオオオン!!」」」
ギガンテス二体の目が赤く光り、手にした棘付きの棍棒を振り回して、二手に分かれたバルザックとダウンズそれぞれに突進してくる。
リンとジェニスは初手から全力で攻撃し、モニカも全身全霊で守護と回復に専念、メイ達も勇猛果敢にギガンテスへと突っ込んでいった。
「いけるぞ!」
戦闘開始から数分、確かな手ごたえを感じたのであろうバルザックが叫んだ。
パーティの誰もが自分達の力を再度認め、勝利を予感したその瞬間だった。
「ギャイン!」
フロアを走り回り、ギガンテスの注意を引きつけていたルクスが、何もない空間で突然吹き飛んだ。
「は?」
ルクスが吹き飛ばされる所を目の当たりにしたバルザックが、緊迫した場に似合わない気の抜けた声を発し、その顔がみるみるうちに蒼白になっていった。
そして――叫んだ。
「逃げろおおおおおおおお!!」
バルザックがギガンテスの腕を渾身の力で押し返し、すぐさま踵を返して走り出した。少し遅れて、同じように顔面蒼白のダウンズが続く。
「グルルル……」
「ガウゥ……」
「ガウガウッ!」
「っひ! 三匹とも退却だ! ひけ! 勝てる相手じゃない!」
「何よ……何よあれ、あんなの聞いてないわよぉ!」
フロアの奥から聞こえる、シュルシュルカサカサという音と、周囲の空間を這い回るような気配。
ズシン、ズシン、と聞こえるのは、奥から新たに現れた二体のギガンテスの足音。
しかしルクスを吹き飛ばしたのはギガンテスではなく――
「センチピードリッパー……推定、SS級……」
「オーラに呑まれるな! みんな走るんだ!」
カタカタと小さく震えながら敵の名前を呟いたリンは、バルザックに手を引かれ、そのまま全力で駆け出した。
そう――奥から現れたのは、本来であればA級の冒険者数十人でかからなければ倒せないほどの大物、SS級モンスターのセンチピードリッパーだった。
十メートルはゆうに超えるムカデのような巨体が、フロア中央まで進んでくる。
無数の蠢く脚は全てが鋼の剣のように鋭く、よく切れる。
頭部近くにはより発達した足が十数本伸びて、俺達を切り裂こうとしている。
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