57 / 58
第四章 穏やかな日常?
57.重賀 愛波
しおりを挟む
「愛波ってのは俺の妹、2つ下の妹の名前だ」
「妹さん、いたんだ」
「あぁ、今はとある病院で寝たきりだがな」
そこで俺は一度言葉を切ってふぅ、と小さく息を吐きだした。
「俺達兄妹はとある施設で育った。そしてそこで隼人と出会った」
「施設……」
「両親が探索者でな。ある日ダンジョンに挑戦し、死んだ。完全な脳死状態で、両親の体は切り刻まれてどこの誰かも分からない、臓器移植待ちの患者に行き渡った。よくある話だよ」
親が探索者で、想い敵わず無念に散り重篤なデスペナルティを受ける人は多い。
脳死と判断された探索者は、探索証の裏面にある臓器提供意思表示欄にチェックがある場合、使える臓器は全て取り除かれる。
そしてその探索者の子供達は親を失い住む場所を失う。
親を失った子供達の行く末は親戚筋か、ダンジョン被災未成年者保護施設のどちらかだ。
児童相談所とはまた違う所なのだが、探索者の子供限定の孤児院と言った所だ。
俺と愛波が施設に入ったのは俺が3つ、愛波が1つの頃だった。
物心付いた頃には隼人と仲良くなって、3人でよく遊んでいた。
そして俺が14歳の頃にそれは起きた。
3人で渋谷へ遊びに行った際、渋谷マルキューダンジョンにて大規模なDBBが発生。
俺達はそれに巻き込まれた。
ただ逃げまどい大人の影に隠れることしか出来ず、しかも混乱の中で俺達と隼人ははぐれてしまっていた。
その時にブラックサレナを持って来ていたら、結果は変わっていたのかもしれない。
そしてモンスターと探索者、一般人が入り乱れる中で奴はいた。
戦っている探索者の背後に近付き、モンスターに合わせるように攻撃を放ち、命を奪っていた。
「ひどい……」
「あぁ、卑怯極まりない奴だ」
だが奴は――手あたり次第にPKしていたわけじゃない。
周囲を観察し、好みの探索者や一般人を狙っていた。
乱戦の中で俺は奴を見失い、しばらくした後に――。
『おやおや……こんな所にいたら危ないですよぉ? サクっと刈られてしまう』
『だめぇっ! おにいちゃん!』
背後からそう声が聞こえ、俺は横に突き飛ばされた。
突き飛ばされながらも俺の視線は、眼鏡をかけた痩せぎすの男が、三又の槍で妹の胸を貫いている光景を捕らえていた。
『愛波ぃ!』
『おやおや……感動的ですねぇ。ですが、ワガハイの目的はチミではなく、このお嬢ちゃんだ。よってチミが気に病む事は無いよ?』
『てんめぇええ!』
愛波を穂先に貫いたまま下卑た笑みを浮かべる男に、俺は殴り掛かっていた。
『おやおやおや、チミもそこそこ強いみたいだけれどねぇ? ワガハイには敵わないサ』
『っがふっ』
渾身の拳はあっさりと躱され、男の持つ武器の柄が俺の顎を打ちあげた後腹に減り込み、俺はそのまま地面に転がった。
無様に転がる俺を見下しながら男は続けた。
『しかしながらチミ、見所があるね? 頑張って強くなりたまえ。ではワガハイはこれにて失礼するよ』
『ま、て……がはっ……!』
探索者達の怒号と、モンスターの咆哮が交差しあう中、男は踵を返し一瞬で姿を消した。
ぐらぐらと揺れる視界の中で俺は、動かない愛波の横へと這いずって行った。
1秒1秒が長く感じ、やっとの思いで愛波の手を握りしめた俺は、そのまま意識を失った。
次に意識を取り戻したのは病院のベッドだった。
隣には愛波が寝かされており、ベッドの側には隼人が座りながら眠っていた。
検査の結果、愛波はごく稀に起きる時間固定者という状態に変化してしまっていた。
大した怪我でもなかった俺はすぐに退院したが、愛波は特別保護観察対象として、国の施設へ入る事になった。
その施設は公にはされておらず、時間固定者のみが保護されている場所であり、固定対象研究所と呼ばれている。
「時間固定者に関する情報や研究所については国家機密だ。絶対に口外しないと約束してくれ」
そう言って俺は祈の目をじっと見つめた。
祈は何故かボロ泣きなのに顔を赤くして、うんうんと首を縦に振った。
「これが愛波の顛末さ」
「そう、だったんだね。ありがとう、話してくれて」
「いいんだ。むしろ聞いてくれてありがとう。国家機密をこうもペラペラと話す時が来るとは思わなかったよ」
「私もそんな大事だなんて、予想もしてなかったよ」
「今度一緒に――隼人と3人で、お見舞いに来てくれないか?」
「ふぇあ!? いきなり!? それってつまりそういう事!?」
祈は涙を拭いながらも、急にテンションが上がったようで驚きながら激しく首を縦に振ったのだった。
「妹さん、いたんだ」
「あぁ、今はとある病院で寝たきりだがな」
そこで俺は一度言葉を切ってふぅ、と小さく息を吐きだした。
「俺達兄妹はとある施設で育った。そしてそこで隼人と出会った」
「施設……」
「両親が探索者でな。ある日ダンジョンに挑戦し、死んだ。完全な脳死状態で、両親の体は切り刻まれてどこの誰かも分からない、臓器移植待ちの患者に行き渡った。よくある話だよ」
親が探索者で、想い敵わず無念に散り重篤なデスペナルティを受ける人は多い。
脳死と判断された探索者は、探索証の裏面にある臓器提供意思表示欄にチェックがある場合、使える臓器は全て取り除かれる。
そしてその探索者の子供達は親を失い住む場所を失う。
親を失った子供達の行く末は親戚筋か、ダンジョン被災未成年者保護施設のどちらかだ。
児童相談所とはまた違う所なのだが、探索者の子供限定の孤児院と言った所だ。
俺と愛波が施設に入ったのは俺が3つ、愛波が1つの頃だった。
物心付いた頃には隼人と仲良くなって、3人でよく遊んでいた。
そして俺が14歳の頃にそれは起きた。
3人で渋谷へ遊びに行った際、渋谷マルキューダンジョンにて大規模なDBBが発生。
俺達はそれに巻き込まれた。
ただ逃げまどい大人の影に隠れることしか出来ず、しかも混乱の中で俺達と隼人ははぐれてしまっていた。
その時にブラックサレナを持って来ていたら、結果は変わっていたのかもしれない。
そしてモンスターと探索者、一般人が入り乱れる中で奴はいた。
戦っている探索者の背後に近付き、モンスターに合わせるように攻撃を放ち、命を奪っていた。
「ひどい……」
「あぁ、卑怯極まりない奴だ」
だが奴は――手あたり次第にPKしていたわけじゃない。
周囲を観察し、好みの探索者や一般人を狙っていた。
乱戦の中で俺は奴を見失い、しばらくした後に――。
『おやおや……こんな所にいたら危ないですよぉ? サクっと刈られてしまう』
『だめぇっ! おにいちゃん!』
背後からそう声が聞こえ、俺は横に突き飛ばされた。
突き飛ばされながらも俺の視線は、眼鏡をかけた痩せぎすの男が、三又の槍で妹の胸を貫いている光景を捕らえていた。
『愛波ぃ!』
『おやおや……感動的ですねぇ。ですが、ワガハイの目的はチミではなく、このお嬢ちゃんだ。よってチミが気に病む事は無いよ?』
『てんめぇええ!』
愛波を穂先に貫いたまま下卑た笑みを浮かべる男に、俺は殴り掛かっていた。
『おやおやおや、チミもそこそこ強いみたいだけれどねぇ? ワガハイには敵わないサ』
『っがふっ』
渾身の拳はあっさりと躱され、男の持つ武器の柄が俺の顎を打ちあげた後腹に減り込み、俺はそのまま地面に転がった。
無様に転がる俺を見下しながら男は続けた。
『しかしながらチミ、見所があるね? 頑張って強くなりたまえ。ではワガハイはこれにて失礼するよ』
『ま、て……がはっ……!』
探索者達の怒号と、モンスターの咆哮が交差しあう中、男は踵を返し一瞬で姿を消した。
ぐらぐらと揺れる視界の中で俺は、動かない愛波の横へと這いずって行った。
1秒1秒が長く感じ、やっとの思いで愛波の手を握りしめた俺は、そのまま意識を失った。
次に意識を取り戻したのは病院のベッドだった。
隣には愛波が寝かされており、ベッドの側には隼人が座りながら眠っていた。
検査の結果、愛波はごく稀に起きる時間固定者という状態に変化してしまっていた。
大した怪我でもなかった俺はすぐに退院したが、愛波は特別保護観察対象として、国の施設へ入る事になった。
その施設は公にはされておらず、時間固定者のみが保護されている場所であり、固定対象研究所と呼ばれている。
「時間固定者に関する情報や研究所については国家機密だ。絶対に口外しないと約束してくれ」
そう言って俺は祈の目をじっと見つめた。
祈は何故かボロ泣きなのに顔を赤くして、うんうんと首を縦に振った。
「これが愛波の顛末さ」
「そう、だったんだね。ありがとう、話してくれて」
「いいんだ。むしろ聞いてくれてありがとう。国家機密をこうもペラペラと話す時が来るとは思わなかったよ」
「私もそんな大事だなんて、予想もしてなかったよ」
「今度一緒に――隼人と3人で、お見舞いに来てくれないか?」
「ふぇあ!? いきなり!? それってつまりそういう事!?」
祈は涙を拭いながらも、急にテンションが上がったようで驚きながら激しく首を縦に振ったのだった。
15
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで
あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる