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第四章 穏やかな日常?
57.重賀 愛波
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「愛波ってのは俺の妹、2つ下の妹の名前だ」
「妹さん、いたんだ」
「あぁ、今はとある病院で寝たきりだがな」
そこで俺は一度言葉を切ってふぅ、と小さく息を吐きだした。
「俺達兄妹はとある施設で育った。そしてそこで隼人と出会った」
「施設……」
「両親が探索者でな。ある日ダンジョンに挑戦し、死んだ。完全な脳死状態で、両親の体は切り刻まれてどこの誰かも分からない、臓器移植待ちの患者に行き渡った。よくある話だよ」
親が探索者で、想い敵わず無念に散り重篤なデスペナルティを受ける人は多い。
脳死と判断された探索者は、探索証の裏面にある臓器提供意思表示欄にチェックがある場合、使える臓器は全て取り除かれる。
そしてその探索者の子供達は親を失い住む場所を失う。
親を失った子供達の行く末は親戚筋か、ダンジョン被災未成年者保護施設のどちらかだ。
児童相談所とはまた違う所なのだが、探索者の子供限定の孤児院と言った所だ。
俺と愛波が施設に入ったのは俺が3つ、愛波が1つの頃だった。
物心付いた頃には隼人と仲良くなって、3人でよく遊んでいた。
そして俺が14歳の頃にそれは起きた。
3人で渋谷へ遊びに行った際、渋谷マルキューダンジョンにて大規模なDBBが発生。
俺達はそれに巻き込まれた。
ただ逃げまどい大人の影に隠れることしか出来ず、しかも混乱の中で俺達と隼人ははぐれてしまっていた。
その時にブラックサレナを持って来ていたら、結果は変わっていたのかもしれない。
そしてモンスターと探索者、一般人が入り乱れる中で奴はいた。
戦っている探索者の背後に近付き、モンスターに合わせるように攻撃を放ち、命を奪っていた。
「ひどい……」
「あぁ、卑怯極まりない奴だ」
だが奴は――手あたり次第にPKしていたわけじゃない。
周囲を観察し、好みの探索者や一般人を狙っていた。
乱戦の中で俺は奴を見失い、しばらくした後に――。
『おやおや……こんな所にいたら危ないですよぉ? サクっと刈られてしまう』
『だめぇっ! おにいちゃん!』
背後からそう声が聞こえ、俺は横に突き飛ばされた。
突き飛ばされながらも俺の視線は、眼鏡をかけた痩せぎすの男が、三又の槍で妹の胸を貫いている光景を捕らえていた。
『愛波ぃ!』
『おやおや……感動的ですねぇ。ですが、ワガハイの目的はチミではなく、このお嬢ちゃんだ。よってチミが気に病む事は無いよ?』
『てんめぇええ!』
愛波を穂先に貫いたまま下卑た笑みを浮かべる男に、俺は殴り掛かっていた。
『おやおやおや、チミもそこそこ強いみたいだけれどねぇ? ワガハイには敵わないサ』
『っがふっ』
渾身の拳はあっさりと躱され、男の持つ武器の柄が俺の顎を打ちあげた後腹に減り込み、俺はそのまま地面に転がった。
無様に転がる俺を見下しながら男は続けた。
『しかしながらチミ、見所があるね? 頑張って強くなりたまえ。ではワガハイはこれにて失礼するよ』
『ま、て……がはっ……!』
探索者達の怒号と、モンスターの咆哮が交差しあう中、男は踵を返し一瞬で姿を消した。
ぐらぐらと揺れる視界の中で俺は、動かない愛波の横へと這いずって行った。
1秒1秒が長く感じ、やっとの思いで愛波の手を握りしめた俺は、そのまま意識を失った。
次に意識を取り戻したのは病院のベッドだった。
隣には愛波が寝かされており、ベッドの側には隼人が座りながら眠っていた。
検査の結果、愛波はごく稀に起きる時間固定者という状態に変化してしまっていた。
大した怪我でもなかった俺はすぐに退院したが、愛波は特別保護観察対象として、国の施設へ入る事になった。
その施設は公にはされておらず、時間固定者のみが保護されている場所であり、固定対象研究所と呼ばれている。
「時間固定者に関する情報や研究所については国家機密だ。絶対に口外しないと約束してくれ」
そう言って俺は祈の目をじっと見つめた。
祈は何故かボロ泣きなのに顔を赤くして、うんうんと首を縦に振った。
「これが愛波の顛末さ」
「そう、だったんだね。ありがとう、話してくれて」
「いいんだ。むしろ聞いてくれてありがとう。国家機密をこうもペラペラと話す時が来るとは思わなかったよ」
「私もそんな大事だなんて、予想もしてなかったよ」
「今度一緒に――隼人と3人で、お見舞いに来てくれないか?」
「ふぇあ!? いきなり!? それってつまりそういう事!?」
祈は涙を拭いながらも、急にテンションが上がったようで驚きながら激しく首を縦に振ったのだった。
「妹さん、いたんだ」
「あぁ、今はとある病院で寝たきりだがな」
そこで俺は一度言葉を切ってふぅ、と小さく息を吐きだした。
「俺達兄妹はとある施設で育った。そしてそこで隼人と出会った」
「施設……」
「両親が探索者でな。ある日ダンジョンに挑戦し、死んだ。完全な脳死状態で、両親の体は切り刻まれてどこの誰かも分からない、臓器移植待ちの患者に行き渡った。よくある話だよ」
親が探索者で、想い敵わず無念に散り重篤なデスペナルティを受ける人は多い。
脳死と判断された探索者は、探索証の裏面にある臓器提供意思表示欄にチェックがある場合、使える臓器は全て取り除かれる。
そしてその探索者の子供達は親を失い住む場所を失う。
親を失った子供達の行く末は親戚筋か、ダンジョン被災未成年者保護施設のどちらかだ。
児童相談所とはまた違う所なのだが、探索者の子供限定の孤児院と言った所だ。
俺と愛波が施設に入ったのは俺が3つ、愛波が1つの頃だった。
物心付いた頃には隼人と仲良くなって、3人でよく遊んでいた。
そして俺が14歳の頃にそれは起きた。
3人で渋谷へ遊びに行った際、渋谷マルキューダンジョンにて大規模なDBBが発生。
俺達はそれに巻き込まれた。
ただ逃げまどい大人の影に隠れることしか出来ず、しかも混乱の中で俺達と隼人ははぐれてしまっていた。
その時にブラックサレナを持って来ていたら、結果は変わっていたのかもしれない。
そしてモンスターと探索者、一般人が入り乱れる中で奴はいた。
戦っている探索者の背後に近付き、モンスターに合わせるように攻撃を放ち、命を奪っていた。
「ひどい……」
「あぁ、卑怯極まりない奴だ」
だが奴は――手あたり次第にPKしていたわけじゃない。
周囲を観察し、好みの探索者や一般人を狙っていた。
乱戦の中で俺は奴を見失い、しばらくした後に――。
『おやおや……こんな所にいたら危ないですよぉ? サクっと刈られてしまう』
『だめぇっ! おにいちゃん!』
背後からそう声が聞こえ、俺は横に突き飛ばされた。
突き飛ばされながらも俺の視線は、眼鏡をかけた痩せぎすの男が、三又の槍で妹の胸を貫いている光景を捕らえていた。
『愛波ぃ!』
『おやおや……感動的ですねぇ。ですが、ワガハイの目的はチミではなく、このお嬢ちゃんだ。よってチミが気に病む事は無いよ?』
『てんめぇええ!』
愛波を穂先に貫いたまま下卑た笑みを浮かべる男に、俺は殴り掛かっていた。
『おやおやおや、チミもそこそこ強いみたいだけれどねぇ? ワガハイには敵わないサ』
『っがふっ』
渾身の拳はあっさりと躱され、男の持つ武器の柄が俺の顎を打ちあげた後腹に減り込み、俺はそのまま地面に転がった。
無様に転がる俺を見下しながら男は続けた。
『しかしながらチミ、見所があるね? 頑張って強くなりたまえ。ではワガハイはこれにて失礼するよ』
『ま、て……がはっ……!』
探索者達の怒号と、モンスターの咆哮が交差しあう中、男は踵を返し一瞬で姿を消した。
ぐらぐらと揺れる視界の中で俺は、動かない愛波の横へと這いずって行った。
1秒1秒が長く感じ、やっとの思いで愛波の手を握りしめた俺は、そのまま意識を失った。
次に意識を取り戻したのは病院のベッドだった。
隣には愛波が寝かされており、ベッドの側には隼人が座りながら眠っていた。
検査の結果、愛波はごく稀に起きる時間固定者という状態に変化してしまっていた。
大した怪我でもなかった俺はすぐに退院したが、愛波は特別保護観察対象として、国の施設へ入る事になった。
その施設は公にはされておらず、時間固定者のみが保護されている場所であり、固定対象研究所と呼ばれている。
「時間固定者に関する情報や研究所については国家機密だ。絶対に口外しないと約束してくれ」
そう言って俺は祈の目をじっと見つめた。
祈は何故かボロ泣きなのに顔を赤くして、うんうんと首を縦に振った。
「これが愛波の顛末さ」
「そう、だったんだね。ありがとう、話してくれて」
「いいんだ。むしろ聞いてくれてありがとう。国家機密をこうもペラペラと話す時が来るとは思わなかったよ」
「私もそんな大事だなんて、予想もしてなかったよ」
「今度一緒に――隼人と3人で、お見舞いに来てくれないか?」
「ふぇあ!? いきなり!? それってつまりそういう事!?」
祈は涙を拭いながらも、急にテンションが上がったようで驚きながら激しく首を縦に振ったのだった。
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