上 下
56 / 58
第四章 穏やかな日常?

56.コラボの話

しおりを挟む
「コラボねぇ」

 

 目の前で愛くるしい笑顔を浮かべている祈を見つつ、ほうじ茶をぐびりと一口頂く。



「なぜ翆ちゃんがジャッジメントをコーチと呼んでいたのか! という考察動画も沢山出てるし、もう隠しておく必要性ある?」



「むう」



 そう。

 生配信中に翆ちゃんが俺の事をコーチと呼んでしまったおかげで、俺ことジャッジメントと祈達3人との繋がりが明るみになってしまった。



 本人達はあまり気にしていないのだけれど、こちらとしてはかなり気がかりな所ではあるのだ。

 なにしろ俺には敵が多く、尚且つ今は政府にも目を付けられている状態だ。



 その状態で、俺達の関係を大っぴらにしたら(もうなっているのだが)また翆ちゃんの時のように、事件に巻き込まれてしまうのではないか? と考えているのだ。



「また難しい顔してる」



 笑顔だった祈が頬を膨らまして口を尖らせた。

 もちろん今の考えは3人に話しているのだけれど――。



「気にする必要ないって言ってるでしょう?」



「だが……」



「これが私達の選んだ道なの。PKKの側に着くって事がどういう事なのか、分かっているつもりよ。まさか国まで出しゃばってくるとはちょっと予想外だったけどね」



 そう言って祈は舌をぺろりと出しておどけてみせた。



「それでも私達は強くなる事を選び、コノミはしっかりと導いてくれた。固有スキルだって3人とも無事にゲット出来た。だからはいさようなら、なんてすると思うの?」



「いや……君達がそういうタイプの人間じゃあない事は知ってるよ。これは俺の問題――ビビってるんだ。また大切な人を失うんじゃあないかって、そう思ってる」



「コノミ……」



 過去の事件で俺の妹である愛波の笑顔と、愛波が散った時の苦悶の表情が脳裏に浮かび、俺は思わず湯飲みを強く握りしめた。

 今までは俺と隼人だけで生きてきた。



 しかし今は祈、瑠璃ちゃん、翆ちゃんという大事な仲間が出来てしまった。

 自分でもなぜ、アドバイスやコーチングをしようなんて気になったのか、今じゃ分からない。



 ただ、少しだけ一人が寂しくなって、疲れていたのかもしれない。

 隼人もそうだ。

 俺はダンジョンでただ銃をバンバン撃ってりゃいいけれど、隼人は科学や技術で戦っている。



 その相手はPKやモンスターではなく、大人や企業だ。

 きっと俺以上に精神を摩耗してきたはずだ。

 飄々として掴み所の無い男だが、それでも隼人だって人間で、俺と同じ17歳の子供なのだ。



 だからこそ、3人を受け入れるよう俺を誘導したのではないだろうか。

 と、うだうだ考え続けてはや数日である。

 

「コノミ、聞きたい事あるんだけど、いい?」



「何だ?」



 祈はコホンと小さく咳ばらいをし、俺の正面に正座をしてかしこまった。



「あのさ。まなみ、って誰?」



「あぁ、その話か」



「ま、まさかも、元か――元カノさんとか?」



 じっと俺を見る祈の瞳が少し潤んでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか。



「元カノ? あはは……違うよ。そんなんじゃあない。だが、少し長くなるが」



「違うの!? そ、そっかぁ! あは! あはは! 長くなってもいいよ? 聞かせて、その人のお話」



 急に元気になった祈を見て、勝手に口角が上がる。

 本当にこの子は朗らかで元気で、喜怒哀楽がはっきりした、気立ての良い美少女だ。



「……じゃあ、話そうか。俺と愛波と隼人の物語を」



 そう言って俺はほうじ茶の残りをすすり、横目で時計を見た。

 時刻は22:30、気付けば翆ちゃんや瑠璃ちゃんの声も聞こえず、秒針の音が静かに時を刻んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...