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第三章 波乱

55.後日談

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 後日、数十万人からの抗議が政府へと寄せられた。

 動画サイトでも沢山のユーザーが切り抜き動画をアップしており、保科の言い放った独善的な言葉や特殊部隊の存在などが徹底的に叩かれていた。



 中には翆ちゃんを拉致したPK集団を擁護するような輩もおり、ネットは大いに荒れていた。

 結局ダンジョン環境省には家宅捜索が入り、保科は書類送検された。



 この事件はテレビでも1週間ほど大々的に報道されていたが、ある日を境にぱったりと報道されなくなった。

 ネットではどこかの圧力だろうという話だったが、おおむね間違いないだろう。



 ダンジョン環境省は首のすげ替えで新たな大臣が任命された。
 

「いやぁ、大変だったねぇ」



「そうだな。当の本人達は喜んでいるが」



 翆ちゃんを拉致したPK集団はボスであるケイちゃん――足田啓介が自首をし、メンバーのそれぞれが傷害や恐喝など様々な罪で逮捕される事となった。



「えぇ? そりゃ喜ぶよ~! だって翆が主演の映画みたいだったもん~!」



「瑠璃、コーチがあそこまでやる男とは、思っていなかった。惚れた」



「ふぇ!? だっだめだよ瑠璃ちゃん! コノミは――」



 平凡Dガールズの面々はといえば、事件から2週間ほど隼人の家に匿ってもらっていた。



 彼女達については様々な意見や討論がネット上で飛び交っていたけれど、メンバー3人中2人が事件に巻き込まれたというキャッチーすぎる話題性もあって平凡Dガールズの公式チャンネルの登録者数は激増した。



 隼人の家で巣ごもりしている様子を、メンバー限定配信で公開した所、投げ銭が飛びに飛び、平凡Dガールズ結成以来最高額を達成した。

 なんて事もあった。



 翆ちゃんいわく、俺の地獄トレーニングのおかげでメンタルも安定しているのだそうで。

 誘拐された時の事を、配信中に自慢げに話したりSNSにネタとして投稿したりと、平凡らしからぬ今の流れを大いに楽しんでいるようだった。



 瑠璃ちゃんはそれに対し、心配して損した、とむくれていたが、心の片隅でどうにかなるだろう、と思っていたようだ。



 祈はといえば、事件以降やたらとPK被害者の事を細かく聞いてきたり、被害者の会のホームページをチェックしたり、様々なSNSを巡回しては俺と関わりのありそうな人(若い女性)にコンタクトを取ったりと、よくわからない行動を取り始めた。



 本人曰く、今回の事件でPK達が抱える闇や、被害がリアルサイドにまで及ぶ危険性を深く落とし込み、それによって被害者達のメンタルケアや被害防止に努められる。



 みたいな纏まりのない話をされた。

 だがまぁ、実際の所、祈は本当に被害者達に寄り添って話を聞き、しっかりとケアをしている様子が何度も見られた。

 

 勿論家からは出られないので、ビデオ通話などを通じてだが。



「全く、図太いと言うか逞しいと言うか」



「成長したと言ってよね! えへん!」



「そうだな、成長したと思う。心も体もな」



「ふぁ!? や、やだなぁもう! コノミったら気が早いんだからぁ!」



「……は?」



 かくいう俺も、何だかんだでダンジョンには行かず、祈達と一緒に隼人の家にいたりする。

 何かがあったというわけではないのだけれど、まぁ、ぶっちゃけビビッていた。

 何しろ国家権力に追われたようなものだ。



 悪い事はしていないのに、何故か追われる犯罪者のような心持だったのだから。

 外に出ると言えば、マンション敷地内の庭園エリアくらいのものだ。



 居場所を特定されるのを防ぐために、配信する時も海外のサーバーを経由したりと色々やったおかげで、未だにこの場所は特定されていない。



 外部からのアクションと言えば、せいぜい俺のチャンネルにダイレクトメールが来るくらいだった。

 内容としては対モンスター戦をしてくれだの、ブラックサレナの特集をして欲しいだのという、動画のネタ要望が多かった。



 気になるチャンネル登録者数と言えば、現在520万人と言うちょっと良く分からない事態になってしまっている。

 物珍しさで登録した人もいるだろうが、520万人という数字は存外嬉しいものだ。



 翆ちゃん奪還作戦【ワルプルギスの狂宴】の配信動画はアーカイブに保存しているが、隼人がそれをいくつも分割して編集し、忙しい人の為のワルプルギス、とか、翆ちゃん救出シーンのみとかの切り抜き動画を作ってくれた。



 そのおかげで再生数はかなり伸び、これなら収益化もすぐだなと、隼人は悪い笑みを浮かべていた。

 アイツはただでさえ、色々な方面に手を出してがっぽり稼いでいるのに、さらに収入を増やそうとしている。



 勿論収益化になった場合の取り分は俺が8の隼人が2という事で折り合いはついている。

 

「そ、れ、で~コノミ! あの話は考えてくれた?」



 ラフな部屋着にシンプルなヘアバンドをした祈が、ぐぐっと顔を近付けてそんな事を言ってきた。

 部屋着は三人が通販で買ったジェラールピッケという、女子に人気のブランドだった。



 当然お金は隼人持ちである。



 隼人がジェラールピッケ側に連絡を取り、祈達が着用する事を伝えると、なんとびっくり、未発表の新作部屋着を無償で提供してもらえる事になったらしい。



 そして今度、平凡Dガールズとのコラボ商品の開発までも取り付けてきやがった、

 本当にアイツは口が上手いと言うか、芸達者というか、よくやるよ。



「ん? あぁ……コラボ動画を出したいんだったな」



「そうだよぉ! 私とコノミの共同チャンネル!」



「はぁ!? 何のことだ!?」



「あ、間違えた」



「どこをどう間違えるんだよ……」



「てへぺろりんちょ」



 祈は謝罪のしの字も入っていなそうな謝罪を言いつつ、朗らかに笑っていた。
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