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第三章 波乱

47.俺、参上!

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 闇夜の静寂を切り裂く轟音に、倉庫の中からバラバラと人が湧き出てきた。

 それぞれが手に懐中電灯を持ち、四方八方を照らしているが、俺はそんな所にはいないぞ愚か者め。



『コノミン。敵の数が違う。見えてるだけで30人は越えてる』



「そうか。だが問題ない。全て叩き潰すのみだ」



 インカムから響く隼人の声は実に冷静で、だが長年連れ添った親友だから分かる。

 隼人はこの状況を楽しんでいる。

 冷静な声の裏に隠された高揚感が頼もしい。



 俺が今投げたのはダンジョンで使うグレネード型のアイテム。

 大きな音が鳴り、モンスターを怯ませる為に使用する物だ。



 それを隼人が改造し、まるで爆発したような音と衝撃を発生させるアイテムとなった。

 爆発で吹き飛んだアイテムの外殻も、もし破片が当たっても怪我をしない非殺傷の物を使用している。


 ちょっと弾力の強いゴムみたいなもので、まぁ破片が当たったら悶絶する――箪笥の角に小指を強打したときの痛み程度だ。

 間違っても死人を出すような事があってはならないからな。


 そして隼人は少し離れた所でドローンの操縦をしている。

 倉庫の近くに無音で滞空しているのがそれだ。


 ドローンに搭載されたサーモグラフィカメラで、倉庫内の人数を確認してもらったというわけだ。

 このドローンもダンジョン素材を使った特殊な物で、モーター音やプロペラの音が一切ない、という意味の分からない性能をしている。


 俺のユニークアイテムが武器チートだとするなら、隼人は科学チートになる。

 今回は隼人が作り上げたアイテムや装備でがっちり固めているのだが、今回はその性能の実戦データ収集も隼人の中ではあるのだろう。


 性能試験で高性能なのは証明済みなのだけれどな。

 今やダンジョン産の素材はあらゆるテクノロジーに流用されており、仮にダンジョンがある日突然無くなってしまったとしたら文明は衰退し、探索者やそれに関わる商売はのきなみ消え大恐慌に陥ってしまうだろう。


『ん? 倉庫の中でお姫様抱っこされて移動する人影が見える――外に出た』



「あぁ、こちらでも目視した。翆ちゃんだ」



 俺が音グレネードを投げた扉とは別の所から、大柄な男が翆ちゃんを抱きかかえて逃走しているのが見えた。

 俺が付けているヘッドギアには、暗視機能も搭載されており、バイザーを通して暗闇を真昼のように見る事が出来る。



しかもドローンが映している映像を、バイザーにリアルタイムで投影する事も可能なもの。

 これ、売ったらいくらになるんだろうか。



「ジーニアスよ、翆ちゃんを追ってくれ。俺はゴミ掃除に入る」



『任せといてー! いっくぞー! ダークサイレンス号!』



 倉庫の近くに滞空していたドローンが上昇し、翆ちゃんを追っていくのを確認した後、俺は大きな声を上げた。



「ダーーーッハッハッハッハァ! 地べたを這いまわり、善良無垢な少女を攫うゴミ虫共よ! どこを探している! 俺は! ここにいる!」



 盛大に啖呵を切ると、懐中電灯の光が一斉にこちらを向いた。

 そして俺はそのまま、クレーンの上から飛び降りたのだった。



 高さは10メートルほどはあるだろうか。

 だがしかし、この俺に高さなどなんら問題ではない。



 クレーンに取り付けた、降下用の極細ワイヤーが俺をしっかりと支えてくれているからな!

 キュルルル、とワイヤーの駆動音が鳴り、俺はゆっくりと地面に降り立った。

 その様子をしっかりと見ていた敵達は、信じられない物を見るような目をしていた。



「どうした? 貴様らは俺が目的なのだろう? お望み通り来てやったわけだが――まさかビビッてんじゃないだろうなぁ?」



 誰も声を上げる様子もなく、俺が一歩踏み出す度に敵も一歩後ろに下がる。

 

「い、一体どうなってんだ……!」



「あの高さから飛び降りて……う、浮いてたぞ」



「馬鹿野郎! なんかのトリックに決まってる! 手品師がよくやってんだろ! ワイヤーかなんかで吊ってたに決まってる!」



 ほう、目ざとい者がいたものだ。

 しかしそれが分かった所でどうという事も無い。

 現にそう言った男も鉄パイプを手にはしているが、向かってくる気配がない。



「どうしたどうした? 人数揃えた所でこの俺に勝てるとでも思っていたのか? 俺がダンジョンで貴様らPK共に、散々死の恐怖を植え付けてやったのを忘れたか?」



 言葉の節目節目で一歩ずつ前に進み、出来る限りの威圧感を出しつつさらに言葉を紡ぐ。



「貴様らの頭を打ちぬいたのは誰だ? 貴様らの体をハチの巣にしたのは誰だ?」



「ひ……!」



「貴様ら、俺の大事な仲間に手を出して――ただで済むとは思っていないだろうな!」



「くぅ……!」



「俺の名前を言ってみろ! ゴミ虫共が!」



「クソがああああ! イキってんじゃねぇぞクソガキが!」



 緊張感に耐えられ無かったのか、男の1人が手にしたバールを思い切り振り上げ、俺の横っ腹を殴りつけた。
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