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第三章 波乱
38.お迎え
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「コノミ、これ……」
私は目の前で倒れて痙攣している男達を指差す。
「大丈夫だ。死んではいない」
コノミはそう言うと、手に握られた棒状の物を差し出した。
「これは?」
「これは……ちょっと特殊な特殊警棒だ」
「特殊な特殊……? 特殊よりも特殊って事?」
「あぁ、そうだこの特殊な特殊警棒は特殊な素材を使って特殊に――ってゲシュタルト崩壊しそうだから警棒で良い。これは隼人に作って貰った自己防衛用のものだ」
「へぇ! ってどうしてそんな物を……?」
「……分かるだろ。俺はPKKだ。俺を恨んでいる奴らは大勢いる」
「でも! それって逆恨みじゃ」
「逆恨みでも何でも、俺には敵が多いんだ。とは言っても使ったのは今日が初めてだが――最大出力300万ボルトらしいが凄まじいな」
「ぴぇっ!? そそそそれって絶対……」
「最大出力でやるかよ……今のは200万ボルトくらいだ。それにスタンガンでは人は死なないらしいぞ?」
「そうなんだ……でも凄かった。バチバチバチ! って」
「確かにな。俺もちょっとびっくりしたよ」
そう言ってコノミは警棒をベルトのホルスターに収め、小さく笑った。
「ちょっと待っててくれ。もう大丈夫だとは思うが念の為だ」
コノミは男の一人の襟首を掴み、さらに裏道の奥へと入っていった。
「もう、大丈夫だから」
「うぅ……ぐすっ……」
瑠璃ちゃんは小刻みに震えながら泣いていた。
そりゃそうだ……目の前で翆ちゃんが拉致され、不安でたまらない所に尾行までいたなんて。
コノミが気付かなければ、私とコノミの家があいつらにバレる所だった。
そう考えると背筋が凍りそうになる。
けど、今ここで私が弱気になっちゃだめだ。
少しでも瑠璃ちゃんを元気付けてあげるんだ。
「瑠璃ちゃん。きっと大丈夫。だって私達にはコーチや隼人さんがいる。絶対に何とかしてくれるよ」
「うん……うん……」
「よしよし、怖い思いさせて、本当にごめん」
「だい、ひっく、だいじょうぶ、だよ。瑠璃、強くなった、から……へいき。コーチを信じ、るよ」
震えながらもしゃくりながらも、瑠璃ちゃんはそう言って私の手を強く握った。
そして私は何も言わず、瑠璃ちゃんをめいいっぱい抱きしめた。
「待たせたな」
しばらくすると、コノミが男を引き摺って戻ってきた。
男の顔面は――一言で表すならひどいもんだった。
コノミが何をしたのか分からないけれど、きっと顔面の原型をとどめないほどに、警棒でぶん殴ったのだろう。
血と鼻水と涙と涎で、男の顔はぐちゃぐちゃだった。
「どうやら尾行はこいつらだけだ。瑠璃ちゃんが祈に連絡を取って合流するだろうと踏んで、居場所を特定するつもりだったようだ」
「やっぱり……」
「アイドルだから祈の家を押さえれば……一儲け出来ると考えたらしい。下種共が」
「それってもしかして――」
「変態、クソのクソだ。瑠璃の操は、安くない」
もしそうなっていた場合を考えると、本当にゾッとした。
あの、あの悪夢のような出来事の続きがあったのかもしれないと思うと怖気が走る。
「隼人にも連絡を取った。もうすぐ現着するとさ」
「隼人さんにも?」
「ああ。一応念の為に家には帰らない。そのまま隼人の家に行く」
「おお。金持ちの、家……タワマン……」
「瑠璃、ターマン初めて……どきどき」
「ふっ……現金なもんだな。いや――強くなった、と言うべきだな」
「当たり前だぁ! 私達の修行は身も心もストロング!」
「おー」
「ふん、良い事だ――っと、どうやら迎えが来たようだ」
鼻で笑うコノミの視線の先を見ると、一台のヘリコプターが音を立ててこちらに飛んでくるところだった。
私は目の前で倒れて痙攣している男達を指差す。
「大丈夫だ。死んではいない」
コノミはそう言うと、手に握られた棒状の物を差し出した。
「これは?」
「これは……ちょっと特殊な特殊警棒だ」
「特殊な特殊……? 特殊よりも特殊って事?」
「あぁ、そうだこの特殊な特殊警棒は特殊な素材を使って特殊に――ってゲシュタルト崩壊しそうだから警棒で良い。これは隼人に作って貰った自己防衛用のものだ」
「へぇ! ってどうしてそんな物を……?」
「……分かるだろ。俺はPKKだ。俺を恨んでいる奴らは大勢いる」
「でも! それって逆恨みじゃ」
「逆恨みでも何でも、俺には敵が多いんだ。とは言っても使ったのは今日が初めてだが――最大出力300万ボルトらしいが凄まじいな」
「ぴぇっ!? そそそそれって絶対……」
「最大出力でやるかよ……今のは200万ボルトくらいだ。それにスタンガンでは人は死なないらしいぞ?」
「そうなんだ……でも凄かった。バチバチバチ! って」
「確かにな。俺もちょっとびっくりしたよ」
そう言ってコノミは警棒をベルトのホルスターに収め、小さく笑った。
「ちょっと待っててくれ。もう大丈夫だとは思うが念の為だ」
コノミは男の一人の襟首を掴み、さらに裏道の奥へと入っていった。
「もう、大丈夫だから」
「うぅ……ぐすっ……」
瑠璃ちゃんは小刻みに震えながら泣いていた。
そりゃそうだ……目の前で翆ちゃんが拉致され、不安でたまらない所に尾行までいたなんて。
コノミが気付かなければ、私とコノミの家があいつらにバレる所だった。
そう考えると背筋が凍りそうになる。
けど、今ここで私が弱気になっちゃだめだ。
少しでも瑠璃ちゃんを元気付けてあげるんだ。
「瑠璃ちゃん。きっと大丈夫。だって私達にはコーチや隼人さんがいる。絶対に何とかしてくれるよ」
「うん……うん……」
「よしよし、怖い思いさせて、本当にごめん」
「だい、ひっく、だいじょうぶ、だよ。瑠璃、強くなった、から……へいき。コーチを信じ、るよ」
震えながらもしゃくりながらも、瑠璃ちゃんはそう言って私の手を強く握った。
そして私は何も言わず、瑠璃ちゃんをめいいっぱい抱きしめた。
「待たせたな」
しばらくすると、コノミが男を引き摺って戻ってきた。
男の顔面は――一言で表すならひどいもんだった。
コノミが何をしたのか分からないけれど、きっと顔面の原型をとどめないほどに、警棒でぶん殴ったのだろう。
血と鼻水と涙と涎で、男の顔はぐちゃぐちゃだった。
「どうやら尾行はこいつらだけだ。瑠璃ちゃんが祈に連絡を取って合流するだろうと踏んで、居場所を特定するつもりだったようだ」
「やっぱり……」
「アイドルだから祈の家を押さえれば……一儲け出来ると考えたらしい。下種共が」
「それってもしかして――」
「変態、クソのクソだ。瑠璃の操は、安くない」
もしそうなっていた場合を考えると、本当にゾッとした。
あの、あの悪夢のような出来事の続きがあったのかもしれないと思うと怖気が走る。
「隼人にも連絡を取った。もうすぐ現着するとさ」
「隼人さんにも?」
「ああ。一応念の為に家には帰らない。そのまま隼人の家に行く」
「おお。金持ちの、家……タワマン……」
「瑠璃、ターマン初めて……どきどき」
「ふっ……現金なもんだな。いや――強くなった、と言うべきだな」
「当たり前だぁ! 私達の修行は身も心もストロング!」
「おー」
「ふん、良い事だ――っと、どうやら迎えが来たようだ」
鼻で笑うコノミの視線の先を見ると、一台のヘリコプターが音を立ててこちらに飛んでくるところだった。
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