33 / 58
第二章 コーチング開始
33.スターライトオーバービュー
しおりを挟む
帰り道、一人空を見上げて溜息を吐いた。
その日の夜は満月がとても綺麗で、関東圏だというのに頭上には満点の星が煌めいていた。
ダンジョンが世界に生まれ落ち、エーテルが大気に満ちた際空気中の有害物質が全て浄化された。
そのおかげで排気ガスや光化学スモッグなどの影響を受けなくなった空は、山奥の秘境の空のように澄み渡って美しくなった。
しかし、空が美しくなろうとも人の心は歪み続けていた。
人々がダンジョンに潜り、力及ばず死ぬ。
デスペナルティを貰い、人格が歪み倫理観や理性と言うものを失う人は多い。
そういった人達は自己を抑制する事が出来ず、ありとあらゆる犯罪行為に走り、そして捕まり刑務所へ送られる。
ダンジョンが発生してから現在までで、新しく作られた刑務所は10に近い。
ダンジョンによってもたらされる利益が光だとすれば、デスペナルティによってもたらされる混乱は闇の側面ともいえるだろう。
「星、綺麗ですね」
「あぁ。嫌な事も忘れそうなくらいに――ってんなぁっ!? 佐藤さん!?」
気付けば隣に佐藤さんが立っており、同じように空を見上げていた。
街頭と星明りに照らされた佐藤さんの横顔は、文句なしに美少女だった。
「なぜここにいる」
「なぜって……お隣さんですから」
そう言って微笑む横顔に、思いがけず胸が高鳴る。
そもそも美少女どころか、女性に対しての免疫も高い方じゃあない俺に、佐藤さんと微笑ましく仲良くするなんていうのは難易度の高すぎるミッションだ。
「もうすぐ冬ですね」
「あぁ。少し肌寒い」
季節は巡り、運命も巡る。
巡る運命の中で奇跡的な邂逅を遂げ、互いに想い合った男女がぬくもりを共有し、さらなる愛を育む聖なる日がもうすぐ近付いてくる。
12月24日、度し難い日だ。
何が聖なるクリスマスだ。
性なるクリスマスの間違いだろってんだちくしょうめ。
24日に予定がない事がそんなに駄目な事なんですか? どうなんですか?
24日の予定ですか? 残念ながらあります~ダンジョンに行くので忙しいんです~。
「チッ」
「舌打ち!? え!? 私何かしました!?」
「あぁ、違うんだ。ちょっと思う事があってな」
視線を空から外し、ゆっくりと歩き出す。
その後ろを佐藤さんがちょこちょこと付いてきた。
ここから我が城まで二人きり……どうにも落ち着かない。
「顔怖いですよ?」
「気にするな。それよりほかの二人はいいのか?」
「翆ちゃんと瑠璃ちゃんですか? はい。あの二人は別方向なので」
「そうか」
「はい、そうです。ふふっ」
指を手元に当て、小さくクスクスと笑う姿はとても絵になっている。
「何かおかしい事でも?」
「いえ、ヴォイドさんにコーチングしてもらい始めて、やっと一緒に帰れたなぁって」
「それもそうだな」
「ヴォイドさん、終わったらいつもすぐどこかに行っちゃうから……」
「俺は色々と忙しいのだ」
「そうですね。ねぇヴォイドさん」
「何だ」
「私が言ったあの約束覚えてますか?」
「……すまんが覚えていない」
「やっぱり。ダンジョンで助けてもらったあの日、私が絶対お助けしますっていうお約束です。忘れないで下さいね」
「……あぁ、覚えておくよ」
いつの間にか隣を歩く佐藤さんの横顔は、なぜか幸せそうに見えた。
他愛もない世間話に華を咲かせてのんびりと歩く。
久しく忘れていた、人と過ごすゆったりとした時間は俺に何かを思い起こさせてくれるようだった。
『お兄ちゃん! 早く早くー!』
「愛波……」
俺は無意識にその名を呼んでいた。
「え?」
「あぁ、いや、ごめん。何でもない」
「……そうですか? あ、もう着いちゃいましたね。それじゃあ、また」
「ああ、おやすみ」
気付けばアパートの目の前まで来ており、佐藤さんはぺこりとお辞儀をして自分の部屋に戻って行った。
その日の夜は満月がとても綺麗で、関東圏だというのに頭上には満点の星が煌めいていた。
ダンジョンが世界に生まれ落ち、エーテルが大気に満ちた際空気中の有害物質が全て浄化された。
そのおかげで排気ガスや光化学スモッグなどの影響を受けなくなった空は、山奥の秘境の空のように澄み渡って美しくなった。
しかし、空が美しくなろうとも人の心は歪み続けていた。
人々がダンジョンに潜り、力及ばず死ぬ。
デスペナルティを貰い、人格が歪み倫理観や理性と言うものを失う人は多い。
そういった人達は自己を抑制する事が出来ず、ありとあらゆる犯罪行為に走り、そして捕まり刑務所へ送られる。
ダンジョンが発生してから現在までで、新しく作られた刑務所は10に近い。
ダンジョンによってもたらされる利益が光だとすれば、デスペナルティによってもたらされる混乱は闇の側面ともいえるだろう。
「星、綺麗ですね」
「あぁ。嫌な事も忘れそうなくらいに――ってんなぁっ!? 佐藤さん!?」
気付けば隣に佐藤さんが立っており、同じように空を見上げていた。
街頭と星明りに照らされた佐藤さんの横顔は、文句なしに美少女だった。
「なぜここにいる」
「なぜって……お隣さんですから」
そう言って微笑む横顔に、思いがけず胸が高鳴る。
そもそも美少女どころか、女性に対しての免疫も高い方じゃあない俺に、佐藤さんと微笑ましく仲良くするなんていうのは難易度の高すぎるミッションだ。
「もうすぐ冬ですね」
「あぁ。少し肌寒い」
季節は巡り、運命も巡る。
巡る運命の中で奇跡的な邂逅を遂げ、互いに想い合った男女がぬくもりを共有し、さらなる愛を育む聖なる日がもうすぐ近付いてくる。
12月24日、度し難い日だ。
何が聖なるクリスマスだ。
性なるクリスマスの間違いだろってんだちくしょうめ。
24日に予定がない事がそんなに駄目な事なんですか? どうなんですか?
24日の予定ですか? 残念ながらあります~ダンジョンに行くので忙しいんです~。
「チッ」
「舌打ち!? え!? 私何かしました!?」
「あぁ、違うんだ。ちょっと思う事があってな」
視線を空から外し、ゆっくりと歩き出す。
その後ろを佐藤さんがちょこちょこと付いてきた。
ここから我が城まで二人きり……どうにも落ち着かない。
「顔怖いですよ?」
「気にするな。それよりほかの二人はいいのか?」
「翆ちゃんと瑠璃ちゃんですか? はい。あの二人は別方向なので」
「そうか」
「はい、そうです。ふふっ」
指を手元に当て、小さくクスクスと笑う姿はとても絵になっている。
「何かおかしい事でも?」
「いえ、ヴォイドさんにコーチングしてもらい始めて、やっと一緒に帰れたなぁって」
「それもそうだな」
「ヴォイドさん、終わったらいつもすぐどこかに行っちゃうから……」
「俺は色々と忙しいのだ」
「そうですね。ねぇヴォイドさん」
「何だ」
「私が言ったあの約束覚えてますか?」
「……すまんが覚えていない」
「やっぱり。ダンジョンで助けてもらったあの日、私が絶対お助けしますっていうお約束です。忘れないで下さいね」
「……あぁ、覚えておくよ」
いつの間にか隣を歩く佐藤さんの横顔は、なぜか幸せそうに見えた。
他愛もない世間話に華を咲かせてのんびりと歩く。
久しく忘れていた、人と過ごすゆったりとした時間は俺に何かを思い起こさせてくれるようだった。
『お兄ちゃん! 早く早くー!』
「愛波……」
俺は無意識にその名を呼んでいた。
「え?」
「あぁ、いや、ごめん。何でもない」
「……そうですか? あ、もう着いちゃいましたね。それじゃあ、また」
「ああ、おやすみ」
気付けばアパートの目の前まで来ており、佐藤さんはぺこりとお辞儀をして自分の部屋に戻って行った。
13
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる