上 下
30 / 58
第二章 コーチング開始

30.ダンジョン環境省

しおりを挟む
 ダンジョンが発生し始めてから新たに設立された部署や省庁は多く、その中の一つであるダンジョン環境省。

 ダンジョンの統計から発生地域、探索者に関しての諸々など業務は多岐に渡る。



「この男は何だ? なぜダンジョン内で銃を撃っている? 銃刀法違反じゃあないのか!」



 会議室に映し出された男を見て、ダンジョン環境大臣である保科雄三ほしなゆうぞうは忌々しそうに言った。



「目下調査中ではありますが――彼はジャッジメントと呼ばれ、ネットではかなりの人気人物となっています。ネットでの推論によると彼の銃は恐らくジョブスフィアによってもたらされたと言われており、スキルやレベル、素顔や名前も未だ不明です」



 職員の1人が調査書を読み上げるが、保科の顔は変わらなかった。



「何がジャッジメントだふざけおって! そんな物があるならなぜ国へ献上しない! あの銃があればより良い調査が進められるじゃあないか!」

「はい。ですので目下――」

「調査中なのはもう聞き飽きた! さっさとあのガキを連れて来い! 銃刀法違反でしょっぴけ! 警察は無能か!」

「――はい。かしこまりました」



 職員は書類に目線を落とし、黙って作業を始めた。

 他の職員も調査報告書を読んでは保科が怒号をあげる。

 これが毎日繰り返されている会議の様子だった。



 コノミが祈の動画に映りバズってしまった事で、ダンジョン環境省の目に留まってしまったのは事実だが、未だ彼の情報を得られずにいた。 

 それが保科には気にくわなかった。



 ダンジョン内での銃火器使用、警察も軍も世界中の保安部隊も使用出来ずにいた武器。

 人類の力の象徴たる銃が、誰でもなくあんな子供にのみ使用が許されるなど許されるわけがない。



 保科はそう考え、苛立っていた。

 あの子供をどうにかして見つけ、適当な理由を付けて拘束、そして銃を奪う。

 そうすれば世界に先んじる事が出来る。



 アメリカもイギリスも中国も、どの国も無しえなかった事を日本が成し遂げる。

 その功績によって自分の地位もさらに向上する。

 保科は脳内に描かれる理想と、それを妨げている無能な部下達に辟易していた。



「チッ……! 無能な探索者共め。所詮底辺の奴らなんだ、少しは国の為になる事をしろって」



 会議を終えた保科は不機嫌な態度を隠そうともせずに、会議室から出て行った。

 残された職員達は一様に溜息を吐き、ぐっと背を伸ばした。

 

「何が底辺で無能だよ。無能はお前だっつの」

「銃刀法違反とか言ってたけどさ? だったら探索者全員アウトじゃんね。剣とか槍とか持ってるんだからよ」

「わかる。ダンジョン発生前から官僚だったからな、機能が落ちた脳味噌じゃあ現状を理解しきれないんだろ」

「言えてる。今じゃダンジョンで世界が回ってるし、なんなら探索者がいるからここまで経済も回復したまであるのに」

「噂じゃスキルとか魔法とか、そういうのも信じてないみたいだぜ?」

「さすがにそれは嘘だろ?」

「だといいんだけどな。さっきのだってどうせCGかトリックだって思ってんだろうさ」

「は~マジかよ。さっさと誰か変わってくれないかな? もっと柔軟な思考で現状をしっかり理解してる奴」

「それを言ったら結構な人が候補にあがるって」

「違いない! あっはっは!」



 古き鬼が去った会議室には先ほどとは打って変わって明るい朗らかな笑い声が響いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...