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第二章 コーチング開始
28.コーチング開始
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「ひ……ひぁ……お花畑が……見える……これで38回目……常連だ……へひひ」
「私~もうお嫁に行けない~」
「瑠璃……10回は、死んだ、でも生きてる……生きてるって素晴らしい」
ヒルズダンジョンに入って約3時間、100層のモンスターを狩りつくしたら下層に降りてまた殲滅、それを繰り返していった結果。
平凡Dガールズは全員目から色が無くなり、真っ白に燃え尽きていた。
どうやら三人共満足してくれたみたいだ。
首にナイフを押し当てられているような、死と隣り合わせの緊迫感。
ヒリヒリと命が焦がされていくあの感じが、探索者を強くするのだ。
三人にはPTSDにならないよう、精神汚染防止の為に状態異常防止のポーションを事前に飲ませてある。
死を恐れるのは生物として当たり前の事だけれど、恐怖に負けて及び腰になってもそれは死を意味する。
死を恐怖しながらもそれを捻じ伏せ、力強く全身全霊で前に進んだ者が強者となるのだ。
世界の序列に名を刻む者達は、常にそうやって必死に生にしがみ付いてきた者達なのだ。
「なぁコノよ」
「何ですか? 剛三郎さん」
「こりゃちょっとやり過ぎたかもしれんな」
「大丈夫ですよ。佐藤さん、レベルは今いくつになってる?」
「あぁ……へあ……ひぇっと……ほぉあ!?」
佐藤さんは自分のステータスを確認して驚いているようだ。
高橋さんと田中さんも、それぞれ無言だが目を丸くして驚いているのが分かった。
「私、700まで上がってるってマ?」
「私は~698だ~」
「瑠璃、712」
「いい感じだ。よく頑張ったな」
驚く三人にねぎらいの言葉をかける。
すると安心したのか、三人ともふにゃふにゃと力が抜け、その場に横になってしまった。
「ヴォイドさん……すき……」
「えへへ~走馬灯を何回も見た甲斐があったよ~」
「瑠璃、強くなった。ふんす」
「もう時間も遅いし、今日はこれでお終いにしよう。平均700もあれば上級の中難易度くらいは行けるはずだ。俺が出来るアドバイスも……アドバイスなのかは分からないけれど、これくらいだ」
「あ、あの……ヴォイド、さん」
「なんだ?」
引き上げようとした所、佐藤さんが口を開いた。
顔には疲労の色が濃く、今日はもう止めておいたほうがいいと思うのだけれど。
「次も……というより、これからもよろしくお願いします、コーチ」
「……コーチ?」
佐藤さんはよろよろと立ち上がり、覚悟の炎が灯った瞳で俺の目を射抜いている。
「はい。決して楽な道じゃないのは分かってます。でも、私達強くなりたい、誉められたルートではないけれど……もっと強くなってより良いライブを、配信をファンの皆に届けたいんです! お願いしますコーチ! 私達を高みへ連れて行ってください!」
「……俺でいいのか?」
「はい! コーチがいいです!」
「やる事えげつないけど~一番効率的だものね~」
「瑠璃しんどいけど、頑張るよ」
「なっはっは! アオハルだなぁ!
冷静な顔をして三人を見詰めてはいるけれど、俺の心中は狼狽していた。
俺的には問題ないのだけれど、一応俺はPKKとして活動している、いわばダンジョンの闇側の人間である。
そんな俺とこれからも関わっていくとなると、危ない橋を渡る事になるかもしれない。
三人は大人気アイドルであり、キラキラと輝く陽の者達。
陰と陽は決して交わる事の無い世の理なのだ。
しかし――。
「お願いします!」
「……ふん。甘くはない、それに俺のような闇の人間と関わる事がいかに危険か……」
「構いません! お願いします!」
真っすぐに見つめるその視線に、俺は打ち勝つことが出来なかった。
「……いいだろう。俺がお前らのコーチになってやろう!」
こうしてなし崩し的に、俺はアイドル三人組のコーチをする事になったのだった。
「私~もうお嫁に行けない~」
「瑠璃……10回は、死んだ、でも生きてる……生きてるって素晴らしい」
ヒルズダンジョンに入って約3時間、100層のモンスターを狩りつくしたら下層に降りてまた殲滅、それを繰り返していった結果。
平凡Dガールズは全員目から色が無くなり、真っ白に燃え尽きていた。
どうやら三人共満足してくれたみたいだ。
首にナイフを押し当てられているような、死と隣り合わせの緊迫感。
ヒリヒリと命が焦がされていくあの感じが、探索者を強くするのだ。
三人にはPTSDにならないよう、精神汚染防止の為に状態異常防止のポーションを事前に飲ませてある。
死を恐れるのは生物として当たり前の事だけれど、恐怖に負けて及び腰になってもそれは死を意味する。
死を恐怖しながらもそれを捻じ伏せ、力強く全身全霊で前に進んだ者が強者となるのだ。
世界の序列に名を刻む者達は、常にそうやって必死に生にしがみ付いてきた者達なのだ。
「なぁコノよ」
「何ですか? 剛三郎さん」
「こりゃちょっとやり過ぎたかもしれんな」
「大丈夫ですよ。佐藤さん、レベルは今いくつになってる?」
「あぁ……へあ……ひぇっと……ほぉあ!?」
佐藤さんは自分のステータスを確認して驚いているようだ。
高橋さんと田中さんも、それぞれ無言だが目を丸くして驚いているのが分かった。
「私、700まで上がってるってマ?」
「私は~698だ~」
「瑠璃、712」
「いい感じだ。よく頑張ったな」
驚く三人にねぎらいの言葉をかける。
すると安心したのか、三人ともふにゃふにゃと力が抜け、その場に横になってしまった。
「ヴォイドさん……すき……」
「えへへ~走馬灯を何回も見た甲斐があったよ~」
「瑠璃、強くなった。ふんす」
「もう時間も遅いし、今日はこれでお終いにしよう。平均700もあれば上級の中難易度くらいは行けるはずだ。俺が出来るアドバイスも……アドバイスなのかは分からないけれど、これくらいだ」
「あ、あの……ヴォイド、さん」
「なんだ?」
引き上げようとした所、佐藤さんが口を開いた。
顔には疲労の色が濃く、今日はもう止めておいたほうがいいと思うのだけれど。
「次も……というより、これからもよろしくお願いします、コーチ」
「……コーチ?」
佐藤さんはよろよろと立ち上がり、覚悟の炎が灯った瞳で俺の目を射抜いている。
「はい。決して楽な道じゃないのは分かってます。でも、私達強くなりたい、誉められたルートではないけれど……もっと強くなってより良いライブを、配信をファンの皆に届けたいんです! お願いしますコーチ! 私達を高みへ連れて行ってください!」
「……俺でいいのか?」
「はい! コーチがいいです!」
「やる事えげつないけど~一番効率的だものね~」
「瑠璃しんどいけど、頑張るよ」
「なっはっは! アオハルだなぁ!
冷静な顔をして三人を見詰めてはいるけれど、俺の心中は狼狽していた。
俺的には問題ないのだけれど、一応俺はPKKとして活動している、いわばダンジョンの闇側の人間である。
そんな俺とこれからも関わっていくとなると、危ない橋を渡る事になるかもしれない。
三人は大人気アイドルであり、キラキラと輝く陽の者達。
陰と陽は決して交わる事の無い世の理なのだ。
しかし――。
「お願いします!」
「……ふん。甘くはない、それに俺のような闇の人間と関わる事がいかに危険か……」
「構いません! お願いします!」
真っすぐに見つめるその視線に、俺は打ち勝つことが出来なかった。
「……いいだろう。俺がお前らのコーチになってやろう!」
こうしてなし崩し的に、俺はアイドル三人組のコーチをする事になったのだった。
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