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第一章 始まりのハジマリ
18.佐藤祈の場合
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私、佐藤祈17歳は恋愛経験が無い。
そりゃあ告白やデートのお誘いは何度もあったけれど、私が自分から好きになった相手というのがいないのだ。
初恋とは違う、明確な恋の意識が――いわゆる胸キュンやドキドキが皆無だった。
だから今回はそれが大きな跳ね返りとして私を苛んでいる。
苛んでいると言っても、幸せなことなのだが。
「こんばんは、おかずを作り過ぎてしまったので……いや違うか、この前は壁を蹴ってしまってごめんなさい、お詫びにこれを……うん、これでいいかな?」
今私は手にお鍋を持って、お隣さんの部屋の前に突っ立っている。
お鍋の中には私特製のスタミナカレー! カレーは何でも解決するって死んだじっちゃんが言っていた。
それに私のカレーは美味しいと評判なのである。
もしお隣さんがヴォイドさんだったらどーしよう、とあれやこれや考えているうちに目の前の扉が勝手に開いた。
「……はぇ……?」
「何、してるんスか」
お風呂上りなのだろうか、上気した頬に濡れた髪、首にタオルをかけたお隣さんが怪しげな目付きで私を見ていた。
その姿が妙にえっちで私は思わず顔をそむけてしまった。
「はぁっ!? あ、ああの! アレです! けべ!」
「すけべ?! いきなりの悪口!?」
はああやっちゃった! しょっぱな噛んじゃうなんて!
「か、かべ! 壁をこの前蹴っちゃって! そのおわびでごめんなさいなんですけどカレー食べませんか!」
「カレー……っすか。てかおねーさんどっかで見た事……」
「はひゃ! ど、どーでしょう?」
お隣さんが私の顔を覗き込もうとちょっと屈み、シャンプーの匂いがふわりと香った。
「あぁ、あの時の……ってはぁ!? な、何であんたがここにいるんだ!?」
「あの時の……? まさかやっぱり!」
「あっ、いや……何でもないッス」
急に顔を背けたお隣さん。
やけに顔を見せたがらないこの仕草はズバリ! 見られるのがまずいと言う事!
「ヴォイドさんですよね!? PKKキラーの! 私を助けてくれたヴォイドさん!」
「ち、違います……人違いです。それにキラーが1つ多いです。プレイヤーキラーキラーキラーになってますよ」
「そうでした! すみませんボイドさん」
「違う、ボイドではなくヴォイドだ。ヴォ・イ・ド」
「ほらやっぱりいいい! ヴォイドさん! 会いたかった!」
あの恐怖の淵から
「いやちょ! 待ってくれ! ていうか何で大人気アイドルのアンタが俺の家の前でカレーなんて持ってる!?」
「そ、それはその……さっきも言ったじゃないですか。壁蹴っちゃって不快な思いさせちゃったかなって思って、それでお詫びにこれを……でも緊張しちゃってまごついてたら扉が勝手に開いてヴォイドさんがこんばんはで……」
ふえええどうしよう! 緊張して早口になっちゃうよおお!
私今絶対顔赤いよね!? やっぱり本人だったんだ! 生ヴォイドさんだ!
「そりゃ家の前でずっとぶつぶつ言ってれば気にもなる……」
「え!? 私声出してましたか!?」
「そっすね……内容は聞こえませんでしたけど、最初は電話してんのかなって思った……」
「ごめんなさい……」
うわー……やっちゃった、絶対変な女だって思われたよ……。
「ガチっすか?」
「え? 何がです?」
「ほらその、お隣さんって話」
「本当です」
「えぇ……でも、えっと佐藤さんはアイドルで配信のお金とか素材とか色々、収入あるんじゃないですか?」
「あぁ、それはちょっと色々あって」
「そっすか。まぁそれは俺もなんスけど、あはは」
「お互い様ですね! 運命ですね! 大好きです! 今度一緒にダンジョン行きましょう!」
「え?」
「いやあああ違うんです違うんです!」
本当に何言ってるんだ私! 落ち着いて私! ほらヴォイドさんのあの冷ややかな目を見て!
「あはは! 暑いですねー!」
「そっすか?」
「はい! 暑いので私はこれで! カレー全部どうぞ! では!」
私はそう言って無理やりお鍋をヴォイドさんに押し付け、さっさと部屋に戻って行った。
そりゃあ告白やデートのお誘いは何度もあったけれど、私が自分から好きになった相手というのがいないのだ。
初恋とは違う、明確な恋の意識が――いわゆる胸キュンやドキドキが皆無だった。
だから今回はそれが大きな跳ね返りとして私を苛んでいる。
苛んでいると言っても、幸せなことなのだが。
「こんばんは、おかずを作り過ぎてしまったので……いや違うか、この前は壁を蹴ってしまってごめんなさい、お詫びにこれを……うん、これでいいかな?」
今私は手にお鍋を持って、お隣さんの部屋の前に突っ立っている。
お鍋の中には私特製のスタミナカレー! カレーは何でも解決するって死んだじっちゃんが言っていた。
それに私のカレーは美味しいと評判なのである。
もしお隣さんがヴォイドさんだったらどーしよう、とあれやこれや考えているうちに目の前の扉が勝手に開いた。
「……はぇ……?」
「何、してるんスか」
お風呂上りなのだろうか、上気した頬に濡れた髪、首にタオルをかけたお隣さんが怪しげな目付きで私を見ていた。
その姿が妙にえっちで私は思わず顔をそむけてしまった。
「はぁっ!? あ、ああの! アレです! けべ!」
「すけべ?! いきなりの悪口!?」
はああやっちゃった! しょっぱな噛んじゃうなんて!
「か、かべ! 壁をこの前蹴っちゃって! そのおわびでごめんなさいなんですけどカレー食べませんか!」
「カレー……っすか。てかおねーさんどっかで見た事……」
「はひゃ! ど、どーでしょう?」
お隣さんが私の顔を覗き込もうとちょっと屈み、シャンプーの匂いがふわりと香った。
「あぁ、あの時の……ってはぁ!? な、何であんたがここにいるんだ!?」
「あの時の……? まさかやっぱり!」
「あっ、いや……何でもないッス」
急に顔を背けたお隣さん。
やけに顔を見せたがらないこの仕草はズバリ! 見られるのがまずいと言う事!
「ヴォイドさんですよね!? PKKキラーの! 私を助けてくれたヴォイドさん!」
「ち、違います……人違いです。それにキラーが1つ多いです。プレイヤーキラーキラーキラーになってますよ」
「そうでした! すみませんボイドさん」
「違う、ボイドではなくヴォイドだ。ヴォ・イ・ド」
「ほらやっぱりいいい! ヴォイドさん! 会いたかった!」
あの恐怖の淵から
「いやちょ! 待ってくれ! ていうか何で大人気アイドルのアンタが俺の家の前でカレーなんて持ってる!?」
「そ、それはその……さっきも言ったじゃないですか。壁蹴っちゃって不快な思いさせちゃったかなって思って、それでお詫びにこれを……でも緊張しちゃってまごついてたら扉が勝手に開いてヴォイドさんがこんばんはで……」
ふえええどうしよう! 緊張して早口になっちゃうよおお!
私今絶対顔赤いよね!? やっぱり本人だったんだ! 生ヴォイドさんだ!
「そりゃ家の前でずっとぶつぶつ言ってれば気にもなる……」
「え!? 私声出してましたか!?」
「そっすね……内容は聞こえませんでしたけど、最初は電話してんのかなって思った……」
「ごめんなさい……」
うわー……やっちゃった、絶対変な女だって思われたよ……。
「ガチっすか?」
「え? 何がです?」
「ほらその、お隣さんって話」
「本当です」
「えぇ……でも、えっと佐藤さんはアイドルで配信のお金とか素材とか色々、収入あるんじゃないですか?」
「あぁ、それはちょっと色々あって」
「そっすか。まぁそれは俺もなんスけど、あはは」
「お互い様ですね! 運命ですね! 大好きです! 今度一緒にダンジョン行きましょう!」
「え?」
「いやあああ違うんです違うんです!」
本当に何言ってるんだ私! 落ち着いて私! ほらヴォイドさんのあの冷ややかな目を見て!
「あはは! 暑いですねー!」
「そっすか?」
「はい! 暑いので私はこれで! カレー全部どうぞ! では!」
私はそう言って無理やりお鍋をヴォイドさんに押し付け、さっさと部屋に戻って行った。
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