上 下
18 / 58
第一章 始まりのハジマリ

18.佐藤祈の場合

しおりを挟む
 私、佐藤祈17歳は恋愛経験が無い。

 そりゃあ告白やデートのお誘いは何度もあったけれど、私が自分から好きになった相手というのがいないのだ。



 初恋とは違う、明確な恋の意識が――いわゆる胸キュンやドキドキが皆無だった。

 だから今回はそれが大きな跳ね返りとして私を苛んでいる。

 苛んでいると言っても、幸せなことなのだが。



「こんばんは、おかずを作り過ぎてしまったので……いや違うか、この前は壁を蹴ってしまってごめんなさい、お詫びにこれを……うん、これでいいかな?」



 今私は手にお鍋を持って、お隣さんの部屋の前に突っ立っている。

 お鍋の中には私特製のスタミナカレー! カレーは何でも解決するって死んだじっちゃんが言っていた。



 それに私のカレーは美味しいと評判なのである。

 もしお隣さんがヴォイドさんだったらどーしよう、とあれやこれや考えているうちに目の前の扉が勝手に開いた。



「……はぇ……?」

「何、してるんスか」



 お風呂上りなのだろうか、上気した頬に濡れた髪、首にタオルをかけたお隣さんが怪しげな目付きで私を見ていた。

 その姿が妙にえっちで私は思わず顔をそむけてしまった。



「はぁっ!? あ、ああの! アレです! けべ!」

「すけべ?! いきなりの悪口!?」



 はああやっちゃった! しょっぱな噛んじゃうなんて!



「か、かべ! 壁をこの前蹴っちゃって! そのおわびでごめんなさいなんですけどカレー食べませんか!」

「カレー……っすか。てかおねーさんどっかで見た事……」

「はひゃ! ど、どーでしょう?」



 お隣さんが私の顔を覗き込もうとちょっと屈み、シャンプーの匂いがふわりと香った。



「あぁ、あの時の……ってはぁ!? な、何であんたがここにいるんだ!?」

「あの時の……? まさかやっぱり!」

「あっ、いや……何でもないッス」

 急に顔を背けたお隣さん。
 やけに顔を見せたがらないこの仕草はズバリ! 見られるのがまずいと言う事! 


「ヴォイドさんですよね!? PKKキラーの! 私を助けてくれたヴォイドさん!」

「ち、違います……人違いです。それにキラーが1つ多いです。プレイヤーキラーキラーキラーになってますよ」

「そうでした! すみませんボイドさん」

「違う、ボイドではなくヴォイドだ。ヴォ・イ・ド」

「ほらやっぱりいいい! ヴォイドさん! 会いたかった!」

 あの恐怖の淵から

「いやちょ! 待ってくれ! ていうか何で大人気アイドルのアンタが俺の家の前でカレーなんて持ってる!?」

「そ、それはその……さっきも言ったじゃないですか。壁蹴っちゃって不快な思いさせちゃったかなって思って、それでお詫びにこれを……でも緊張しちゃってまごついてたら扉が勝手に開いてヴォイドさんがこんばんはで……」



 ふえええどうしよう! 緊張して早口になっちゃうよおお!

 私今絶対顔赤いよね!? やっぱり本人だったんだ! 生ヴォイドさんだ!



「そりゃ家の前でずっとぶつぶつ言ってれば気にもなる……」

「え!? 私声出してましたか!?」

「そっすね……内容は聞こえませんでしたけど、最初は電話してんのかなって思った……」

「ごめんなさい……」



 うわー……やっちゃった、絶対変な女だって思われたよ……。



「ガチっすか?」

「え? 何がです?」

「ほらその、お隣さんって話」

「本当です」

「えぇ……でも、えっと佐藤さんはアイドルで配信のお金とか素材とか色々、収入あるんじゃないですか?」

「あぁ、それはちょっと色々あって」

「そっすか。まぁそれは俺もなんスけど、あはは」

「お互い様ですね! 運命ですね! 大好きです! 今度一緒にダンジョン行きましょう!」

「え?」

「いやあああ違うんです違うんです!」



 本当に何言ってるんだ私! 落ち着いて私! ほらヴォイドさんのあの冷ややかな目を見て! 



「あはは! 暑いですねー!」

「そっすか?」

「はい! 暑いので私はこれで! カレー全部どうぞ! では!」



 私はそう言って無理やりお鍋をヴォイドさんに押し付け、さっさと部屋に戻って行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

処理中です...