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第一章 始まりのハジマリ

8.いつもとは違う日常

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「ハァーーーっハッハッハ! 弱い! 弱すぎるぞクソムシ共が!」


 ダンジョンに木霊する俺の声、そして累々と転がる瀕死のPK共。

 
「て、てめぇ……動画の……ジャッジメントか……」


「知るかよ。つーかお前らに質問する権利なんてないのよ。そこんとこヨロシク」


 パパパパァン、と連続した発砲音、そして光の粒子に還るPK共。

 ンハァア……気持ちいい……!


「ありがとうございます、ジャッジメントさん」


「違う! 俺はジャッジメントじゃない! 俺はヴォイドプレデター! ケルヌンノスの血脈を受け継ぎし冥府の狩人だっ!」


「そ、そうなんですね。ありがとうございますボイドさん」


「ボイドではない。ヴォ・イ・ド、だ」


「はい!」


 今日俺は池袋にある中級の中では高難易度を誇り、階層も一番深くまであるダンジョン、デイシャインダンジョンに来ている。

 ここは初級者狩りというより、中レベルの探索者をPKして回っている奴らがいるとの情報を見つけてやって来た。


 どこでそんな情報を見つけるかって?

 PK被害者の会というサイトがあり、そこの掲示板にどこそこのダンジョン何層でやられた、とかそれっぽい奴らがダンジョンに入って行った、などの情報が書き込まれている。

 俺は前日にそういった情報を仕入れて、回るエリアを決めているのだ。

 

「だっ! 誰か助けてえええええ!」


「どうした! PKか!」


『キシャアアアア!』



 全108階層からなるデイシャインダンジョン、俺が今いるのは49階層。

 声は49階層と50階層を繋ぐスロープから聞こえて来た。

 人の駆ける音と、大量のカサカサワシャワシャという音。



「げ……まさか」



 ダンジョンの50階層から下は深層と呼ばれており、モンスターもかなり強くなる。

 通常は3人から5人のパーティーを組んで挑む。


 そして深層のモンスターは中層に上がってくる事は無い。

 例え遭遇して逃げたとしても、スロープに入った段階でモンスターは嘘のように人に興味を無くす。


 しかしごく稀にその法則を無視して探索者を追ってくる事がある。

 それは逸脱者デビアントと呼ばれ、通常よりも高い能力を持ち、さらに【狂化】という状態異常を持っている。


 狂化とはいわゆる暴走状態であり、目の前の命を食い殺すか自分が消滅しない限り止まらない。



「勘弁してくれよ。めんどくさいな……」



 ただこの程度のダンジョンのモンスターであれば、逸脱者だろうが俺にとっては特に脅威ではない。

 しかし、聞こえてくる音から察するに一番面倒くさいモンスターが逸脱したんだろう。

 

「おいアンタ! これを使って外に出ろ」



 マントの内ポケットから黒い水晶を取り出して、さっき助けた探索者に投げた。



「これは……?」


「転移結晶だ。それを使えばダンジョンの入口に出る。表面にある小さな赤い突起を押せ」


「え!? なんですかそれ!?」


「いいから早く! 喰われたいか!」


「ひぃ! 分かりました! でもヴォイドさんは!? あの声って」


「あぁ、トライデントコックローチの逸脱者だ。しかも大量のな!」


「ぎゃああああ! む、むむむりです! ヴォイドさんも一緒に逃げましょう!」


 俺の言うモンスターが何かを察した探索者は、一気に顔を青くして俺の服を引っ張った。


「うるさいな! 問答してる暇ないんだよ! さっさと行け!」


「わっ、わかりました! 応援を呼んできます!」



 そう言って探索者は転移結晶で俺の目の前から消えた。

 それと同時にスロープを駆け登ってくる探索者達が見えた。



「アンタら! そのままダッシュで上に行け! ここは俺が食い止める!」


「誰!? ってあ、あなたも一緒に!」


「助けて助けて助けて!」


「死ぬ死ぬ! 喰われちまう!」



 逃げて来た探索者は足を止めずにそのまま俺の横を走り去った。



「いいからお前らは先に行け! 後で必ず合流する!」


「は! はぃい!」


「それ死亡フラグじゃ!?」


「喰われるのはいやだああああ!」



 ククク。

 言えた。

 俺の死ぬまでに言ってみたいセリフナンバー5と8が一気に言えるなんて、今日はなんてツイてる日なんだ。

 思わず口角が緩み、ニヤニヤが止まらない。



「さぁ――パーティーの時間だぜ?」



 俺は懐から愛銃ブラックサレナを引き抜いて、マントを翻した。
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