俺しか使えないジョブ【ガンナー】で無双していたら、助けたアイドルのコーチングをする事になった件

登龍乃月

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第一章 始まりのハジマリ

1.PKとPKK

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「フゥーーハッハッハッハッハァ! 弱い! 弱すぎるぞォ!」

 中級ダンジョンの下層にて、不遜な高笑いが木霊している。
 周囲にモンスターの姿は無く、代わりに数人の探索者が地に伏していた。

 その中央には一人の男――この俺、重賀虎能充じゅうがこのみが、笑いながら地に付した男の頭を踏みつけていた。

「な、何しやがる……テメェ……」

「あれ? まだ生きてたのか。ゴキブリ並みにしぶといな」

「がっ……!」

 その中の一人が呻き、声を上げるが俺は迷いなく男の頭を打ち抜いた。

 タァン、という軽い音が鳴り、男の体が一瞬痙攣する。

 そして地に伏していた男達の姿が光の粒子となって霧散していった。

「ふん。雑魚共が。この俺のファントムイェーガーからは逃れられないのだ。ククク、クックック、ンナーーッハッハッハァ!」

 高笑いを上げながら俺はマントをバサァ! と翻し、今倒した男達のドロップ品を集め始めた。

 現在俺がいるのは上野にある陰陽公園ダンジョン、その中層だ。
 
 ここは中級ダンジョンの割りに敵が弱く、だのに経験値は高くドロップもそこそこ良い。
 その恩恵があるゆえに、初級クラスの探索者プレイヤーがよく訪れるダンジョンでもあった。

 だがしかし、その初級探索者ビギナープレイヤーを食い物にする不届き者がいる。

 奴らの食い物は初級探索者だけではないけれど、このダンジョンに来る奴らは決まってそうだ。
 初級ダンジョンで苦労して力を付け、金を使って装備を整え、中級への足掛かりとしてこの陰陽公園ダンジョンに挑む初級探索者。

 そこに奴らは手伝いをすると近付き、中層か下層で牙を剝いて相手の身ぐるみを剥ぎ、殺す。

 いわゆるプレイヤーキラー、PKというやつだ。
 ネットゲーム内であれば迷惑行為でしかなかったが、ダンジョンという謎の構造物が世界中に現れてからは完全な犯罪行為となった。

 ダンジョン内で死んでも死にはしない。
 その代わりデスペナルティという強烈な反動がある。

 記憶喪失になる者、四肢が欠損したままの者、脳死状態になる者、精神が壊れ廃人になる者、情緒不安定になり自殺をする者と実に様々な負のペナルティがある。

 しかしこれはダンジョン内においてトラップやモンスターにより命が失われた場合にのみ適応される。

 どういう理屈かはしらないが、人が人に殺された場合のデスペナルティはレベルダウン、所持品の全ロスト、記憶の混濁、一時的感情の喪失、一時的身体機能低下というものになる。

 そして極めつけは、ダンジョン内で人を殺した者に対しての刑罰が何もないということ。

 ダンジョン外であれば重大な犯罪にも関わらず、警察関連は全く動かない。

 記憶の混濁などのデスペナルティはあるが、命は失っていない事、確実な証拠が薄く障害としても立件し辛い事、など警察側からの言い訳は色々とあるがそういう事らしい。
 
「邪悪な国家の犬共め。いずれこの俺がその喉笛を噛み切ってやろう! それまでせいぜい無様に生き永らえるのだな! お、こいつ結構レアなアイテム持ってんじゃん。よきよき」

 そして俺はそのPKを相手に殺しまわっているPKK、いわゆるプレイヤーキラーキラーと呼ばれる存在だ。

 理由は割愛するけれど、俺はPKが嫌いだ、憎んでさえいる。

 だから俺は毎日ダンジョンに潜り、PKを探しては駆逐するという行為を行っているのだ。

 PKはこの世のゴミだ。
 俺がやっている行為はきっと褒められたものではないだろう。

 でも別に俺は誰かに褒められたくて頑張っているわけじゃあない。
 誰に認められなくとも俺は俺の道を行く。

 ダンジョンが発生する前であれば、こんな生き方はしなかったろうし出来なかっただろう。

 今の時代ならダンジョンに潜り、ダンジョンに眠る宝やモンスターの素材、それに纏わる情報等を売りさばけば働かずに生きていける。

 だから俺は17という年齢で学校にも行かず、毎日ダンジョンに通っているのだ。
 
「あ、あの……ありがとう……ございました」

「ん? あぁ」

 作業化したPKのアイテム収集の最中、どこかからそんな声が聞こえた。
 
「つ、強いんですね」

「まぁ、それなりには」

 声がした方を見れば20歳くらいの男女が怯えた目で俺を見ていた。

 PKが襲っていた探索者、見た感じは初級から少し足が出た程度の人達だろう。

「ぜひお礼を」

「いい。金品ならこいつらから頂くからな。それよりその装備じゃこの先少しきつい。これをやる。持っていけ」

「え?」

 戸惑う男女に向けて、ポケットから取り出したマジックアイテムを放り投げた。

 怯えているのはPKにあった恐怖もそうだが、恐らく俺に対してでもあるだろう。

 PKをやったとはいえ、している事はPKと同じ、自分達が未だ危機から脱していないと思っているのだろう。

 目や態度を見ればわかる。

「これって……上級の身体強化タブレットじゃないですか! こんな高価な物貰えません!」

「いいんだ。アイテムは使ってなんぼだろ? それに、出会ったあんたらが死んだら寝覚めが悪くなる」

「でも……」

「ごちゃごちゃうるさい。礼なら……そうだな。あんたらが強くなったらその分初級の人達を助けてやってくれ」

「わ、わかりました」

「ありがとうございます! この恩は絶対忘れません!」

 そう言って男女は何度も頭を下げて先へ進んでいった。
 初級の人達を助けてやってくれ、か。
 我ながら臭いセリフだ。

「さて、この先はPKもいないし、帰るとするかな」

 俺の探索スタイルは一度ダンジョンの最下層まで一気に潜り、そこから逆走するというものだった。

 モンスターの討伐やらボスアイテムも興味はあるが、往復することでPKの待ち伏せやらを発見出来たりするからだ。
 
「やだ……ねぇお願い止めて! 助けて! やだあ!」

 中層から上層にあがる階段を登っていた俺に、そんな声が届いた。

 くっくっくっく……! 今日は良い日だ!
 どうやらまた獲物が増えたらしい。
 俺は心の中で笑みを浮かべ、戦闘態勢に入り階段から躍り出た。
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