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15 塩再臨
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翌日、ギルドでバルトを待っているとリーシャの姿があった。
「あれ、フィリアじゃない!」
「わー! リーシャさん! 今日はどこにいかれるんですか?」
「私? 私はバルトさんに誘われてダンジョンに……」
「えっ!? リーシャさんもですか! 私もです!」
「ええっ!? やった! フィリアがいれば百人、いえ、万人力ね!」
「それはハードル上げすぎィ!」
「お、やってんな」
リーシャと手を握り合ってきゃいきゃいしていると、バルトが大剣を担ぎながら現れた。
完全装備のバルトは久しぶりにみたけど、やっぱサマになってるなぁ。
ザ・冒険者って感じ。
「今日は三人でいくの?」
「いや、今日はあともう一人、アタッカーを呼んでる。おいザックス」
「あいよお」
バルトの手招きを受けてザックスと呼ばれた男性がこちらに近寄ってきた。
細身で腰には長剣が差されていて、スピードを活かした剣士なのかな。
あ、あれ? 素通りした……?
「こんにちわぁ、よろしくねぇ」
「ひぎぃ!」
その人を見た瞬間、私の体がビキィッと硬直した。
細身の剣士さんは全く関係がなく、剣士の後ろからのそのそと現れた男。
私が二人は入りそうな、とてもふくよかな体型をした温和そうな人だった。
近いただけで体温の熱気がむわりと私の肌を舐める。
あぁ、だめだこれ。
「ザックスだ。よろしく」
「触らないで」
差し出された手を一瞥し、ザックスを睨み付ける私。
きょとんとするザックスとバルト、そしてリーシャ。
「馴れ合う気はないから」
「そ、そうかい。がんばろうね」
「よろしくねザックス! 私はリーシャ、メイガス。で、こっちの機嫌が悪い子がフィリア、ビショップよ」
「どうしたんだよフィリア、険しい顔して頭でも痛いのか」
「違うわ。ただちょっと」
「そうか。緊張してんのかもな。んじゃ行くぞ」
本当にごめんなさいいいいい!
悪気は無いの! 出ちゃうのよ!
それもこれも皇太子が悪いの! 太ってるから無理っていうわけじゃないの!
お願い、お願いだから静まって塩フィリア。
良い子だからおねんねしていて。
「足手まといにはならないで……すから」
ザックスにとんでもなく失礼な事を言いかけて、必死で語尾を変える。
足でまといにはならないでよね、じゃないよ! 足手まといになるのは私なんだよ!
うう、先行き不安だぁ……。
〇
そして到着したダンジョン。
ここはB級上位以上が訪れる事ができる初級ダンジョン【虚無の回廊】。
敵もそこそこ強く、ドロップするアイテムも結構質がいい。
「ふんん!」
ザックスが吠えモンスターにぶちかましを決めるとモンスターは壁に激突し、息絶えた。
すごい。
ゆたかな体に着込んだ重装備は敵の攻撃をものともせず、大型の盾と先端に痛そうなトゲトゲが付いたメイスを振り回してモンスターを粉砕している。
バルトとザックスは互いに適度の距離を取りつつ敵を殲滅していき、リーシャは後ろから魔法を飛ばして援護に回っている。
実に安定した構成とパワーバランス。
私は簡単な援護と初級のヒールを飛ばすだけの簡単なお仕事をしているだけだ。
ザックスに失礼な事を言わないようにできるだけ口をつぐみ、淡々と自分の仕事をこなしていく。
一層、二層、三層と順調に階層をクリアしていき、いよいよ最下層にまでたどり着いた。
「さすがザックスだな。安定の火力と防御だぜ」
「ふぅーありがと。でもバルトもやっぱり強い、安心して背中を任せられるよ」
「二人とも凄い。後ろに全然敵が来なかった」
「上出来ね」
なんっで上から目線!
私なんて大して仕事してなかったでしょうに!
「ありがとうフィリアさん。ヒールも援護も的確に飛んでくるし、安心して攻撃に専念できたよ」
「そう」
「全然いけるじゃないか。トラウマってのはどうしたんだ?」
「きっとバルトがくれたネックレスのおかげ。ありがと」
「おう」
いよいよボス。
気を引き締めないと。
「行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
「……!」
いざボスの間に突入。
白骨化した馬と獅子が合体したようなボーンビーストとの戦いが始まった。
「リーシャ! 眷属は任せたぞ!」
「わかった!
「フィリアは各自の援護を!」
「おけ」
ボーンビーストは低級の飛行型使い魔【バッドスカー】を絶え間なく召喚し続ける死霊系のボス。
召喚はボスを倒さない限り止まらないが、バッドスカー一体一体の力は弱く、リーシャの魔法でことごとく撃ち抜かれている。
的確な魔法は今までの鍛錬で培ったものだろう。
しかしバッドスカーが召喚される速さとリーシャの攻撃のサイクルが噛み合っていない。
バッドスカーのほうが僅かに早く、徐々にリーシャの手が追いつかなくなっている。
「聖法:クリアアロー!」
聖法にだって攻撃手段はある。
魔法にくらべればそりゃあ威力も種類もすくないけど、その分全ての術にデバフと聖の輝きを帯びている。
射出された白い魔法の矢がリーシャに近づくバッドスカーの一体を撃ち抜く。
精度は私だって負けてはいない。
リーシャの援護をしながらバルトとザックスにヒールと補助術をかける。
目まぐるしく動くボーンビーストにも弱体化の術をかけ、何度めかのアタックが終わり。
「っしゃあ!」
「おつかれさま!」
「やった! 勝った!」
「よし」
ボーンビーストは地面に倒れ、息絶えた。
勝った。
出来た。
なんだ、私出来るじゃん。
頑張れたじゃん。
「あれ、フィリアじゃない!」
「わー! リーシャさん! 今日はどこにいかれるんですか?」
「私? 私はバルトさんに誘われてダンジョンに……」
「えっ!? リーシャさんもですか! 私もです!」
「ええっ!? やった! フィリアがいれば百人、いえ、万人力ね!」
「それはハードル上げすぎィ!」
「お、やってんな」
リーシャと手を握り合ってきゃいきゃいしていると、バルトが大剣を担ぎながら現れた。
完全装備のバルトは久しぶりにみたけど、やっぱサマになってるなぁ。
ザ・冒険者って感じ。
「今日は三人でいくの?」
「いや、今日はあともう一人、アタッカーを呼んでる。おいザックス」
「あいよお」
バルトの手招きを受けてザックスと呼ばれた男性がこちらに近寄ってきた。
細身で腰には長剣が差されていて、スピードを活かした剣士なのかな。
あ、あれ? 素通りした……?
「こんにちわぁ、よろしくねぇ」
「ひぎぃ!」
その人を見た瞬間、私の体がビキィッと硬直した。
細身の剣士さんは全く関係がなく、剣士の後ろからのそのそと現れた男。
私が二人は入りそうな、とてもふくよかな体型をした温和そうな人だった。
近いただけで体温の熱気がむわりと私の肌を舐める。
あぁ、だめだこれ。
「ザックスだ。よろしく」
「触らないで」
差し出された手を一瞥し、ザックスを睨み付ける私。
きょとんとするザックスとバルト、そしてリーシャ。
「馴れ合う気はないから」
「そ、そうかい。がんばろうね」
「よろしくねザックス! 私はリーシャ、メイガス。で、こっちの機嫌が悪い子がフィリア、ビショップよ」
「どうしたんだよフィリア、険しい顔して頭でも痛いのか」
「違うわ。ただちょっと」
「そうか。緊張してんのかもな。んじゃ行くぞ」
本当にごめんなさいいいいい!
悪気は無いの! 出ちゃうのよ!
それもこれも皇太子が悪いの! 太ってるから無理っていうわけじゃないの!
お願い、お願いだから静まって塩フィリア。
良い子だからおねんねしていて。
「足手まといにはならないで……すから」
ザックスにとんでもなく失礼な事を言いかけて、必死で語尾を変える。
足でまといにはならないでよね、じゃないよ! 足手まといになるのは私なんだよ!
うう、先行き不安だぁ……。
〇
そして到着したダンジョン。
ここはB級上位以上が訪れる事ができる初級ダンジョン【虚無の回廊】。
敵もそこそこ強く、ドロップするアイテムも結構質がいい。
「ふんん!」
ザックスが吠えモンスターにぶちかましを決めるとモンスターは壁に激突し、息絶えた。
すごい。
ゆたかな体に着込んだ重装備は敵の攻撃をものともせず、大型の盾と先端に痛そうなトゲトゲが付いたメイスを振り回してモンスターを粉砕している。
バルトとザックスは互いに適度の距離を取りつつ敵を殲滅していき、リーシャは後ろから魔法を飛ばして援護に回っている。
実に安定した構成とパワーバランス。
私は簡単な援護と初級のヒールを飛ばすだけの簡単なお仕事をしているだけだ。
ザックスに失礼な事を言わないようにできるだけ口をつぐみ、淡々と自分の仕事をこなしていく。
一層、二層、三層と順調に階層をクリアしていき、いよいよ最下層にまでたどり着いた。
「さすがザックスだな。安定の火力と防御だぜ」
「ふぅーありがと。でもバルトもやっぱり強い、安心して背中を任せられるよ」
「二人とも凄い。後ろに全然敵が来なかった」
「上出来ね」
なんっで上から目線!
私なんて大して仕事してなかったでしょうに!
「ありがとうフィリアさん。ヒールも援護も的確に飛んでくるし、安心して攻撃に専念できたよ」
「そう」
「全然いけるじゃないか。トラウマってのはどうしたんだ?」
「きっとバルトがくれたネックレスのおかげ。ありがと」
「おう」
いよいよボス。
気を引き締めないと。
「行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
「……!」
いざボスの間に突入。
白骨化した馬と獅子が合体したようなボーンビーストとの戦いが始まった。
「リーシャ! 眷属は任せたぞ!」
「わかった!
「フィリアは各自の援護を!」
「おけ」
ボーンビーストは低級の飛行型使い魔【バッドスカー】を絶え間なく召喚し続ける死霊系のボス。
召喚はボスを倒さない限り止まらないが、バッドスカー一体一体の力は弱く、リーシャの魔法でことごとく撃ち抜かれている。
的確な魔法は今までの鍛錬で培ったものだろう。
しかしバッドスカーが召喚される速さとリーシャの攻撃のサイクルが噛み合っていない。
バッドスカーのほうが僅かに早く、徐々にリーシャの手が追いつかなくなっている。
「聖法:クリアアロー!」
聖法にだって攻撃手段はある。
魔法にくらべればそりゃあ威力も種類もすくないけど、その分全ての術にデバフと聖の輝きを帯びている。
射出された白い魔法の矢がリーシャに近づくバッドスカーの一体を撃ち抜く。
精度は私だって負けてはいない。
リーシャの援護をしながらバルトとザックスにヒールと補助術をかける。
目まぐるしく動くボーンビーストにも弱体化の術をかけ、何度めかのアタックが終わり。
「っしゃあ!」
「おつかれさま!」
「やった! 勝った!」
「よし」
ボーンビーストは地面に倒れ、息絶えた。
勝った。
出来た。
なんだ、私出来るじゃん。
頑張れたじゃん。
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