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てんやわんや

人柱の帝国から逃れて

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 リューミィにとって、惑星ルーインでの思い出は古傷のようにその心に刻まれている。
 思い出すのがつらそうだな、とチホは察知した。
「ご、ごめん。なんか話せそうになったらゆっくり話してくれていいよ。さ、ごはん食べちゃおう。この皿に盛り付けてあるのは?サラダ(皿だ)。なんちゃって」
 フフ、フフ。各人から微笑が漏れた。

「みんなで映画を観まショウ」
 SFマニアのショウズが提案した。
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』
 イモータン・ジョーの魔の手から逃れる女性たちを五人ははらはらしながら見守った。 
 とくに反応が素直だったのがリューミィだった。
 幼少期から特殊な訓練を受けて育ってきたリューミィは娯楽映画もロクに楽しんだことがなかった。

「シマって本当は恐ろしいのよ……」
 映画の余韻に浸るまでもなくリューミィは呟く。
 ちなみにレイワとハッカはポップ・コーンの取り合いでケンカなう状態だった。
 「シマは専制国家ギンガ帝国の女帝で先代の女帝からその地位を引き継いだ二代目だったのよ」
 チホとレイワはちょっと吹き出した。
 リューミィにふっ飛ばされる間抜けなハデハデお姉ちゃんと言った印象しかなかったが、まさかの女帝とは。
「女帝"キャラ"って、ちょっと高飛車なカンジかよ?痛々しいねえ」
 レイワはビールを飲みながらシマを嘲笑した。
「キャラじゃないわよ。本当に女帝だったのよ。強大な権力を後ろ楯にやりたい放題。やつらは逆らう者を人柱にして城を築き、そこに住んでいたのよ!これは比喩じゃないわ」
 リューミィの声に重苦しさが混じる。
 ハッカもショウズも思わず黙り混む。
 人柱。
 それは人身御供の一種で、難工事や災害に際して無事を祈るため、生け贄の人間の身体を建造物の柱などに埋め込むという残酷なものだ。
 古い風習と思われがちだが、西暦一九一四年に開通した常紋トンネルで、一九七〇年の改修工事中に人柱にされた遺体が立ったままの姿で発見されたという。
「私は、そんなギンガ帝国のエリート軍人として育てられた。でも私はギンガ帝国への忠誠を捨てたわ。市民を焚き付け、暴力を用いギンガ帝国を滅ぼした。人は権威という楼閣を支える人柱ではないわ……」
「リューミィ、そのあとはどうしたの?」
「シマは新しく出来た共和体制により国家犯罪者とされ収監されたわ。でもある理由から彼女は牢獄から出た。私はクーデターのシンボルとして、急進派に担ぎ上げられ、シマとは反対の意味で立場があやうくなったの」
「そう、それで」
 ギンガ帝国が滅び、座るべき玉座を失ったシマはリューミィを酷く憎んだ。そしてリューミィへの復讐とギンガ帝国の再興にその黒い熱情を燃やすことになる。
 リューミィは、ギンガ帝国の打倒という目標は果たしたが、急進派の神輿になるのもイヤになり行方をくらました。
 そしてこのグリーゼという惑星で、チホたちと出会い、シマと因縁の再会を果たすこととなるのだ。
 それはトリックスターと不吉な星との数奇なめぐりああいだった。
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