73 / 73
後日談
最終話 ブラックホールに消える
しおりを挟む 両者は右足より数歩前進した。そして、大刀の間合い、三間(さんけん)(五・四メートル)に入る――機をみて、雄彦が一歩踏み込むや小手を打った。
八重は斜め後方に退(ひ)く。直後、間合いを詰めて頭上に得物を振り下ろした。
雄彦は体を右に開きながら相手の剣尖を左、刃を後ろに左鎬(しのぎ)で受け流す。そのまま動きを止めることなく木刀を大きく旋回させながら左肩より袈裟に斬った。もちろん、寸止めだ。――遠心力を利用して半円を描くように頭上から刃を浴びせる『豪撃(こわうち)』は、立身流独特のものであり、かの山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)をして「真(まこと)の剣を遣ふ」と云わしめた凄絶な斬り下ろしだ。
そも、立身流の特色は居合の技において『立合(たちあい)』という立技を重視する点にある。その歴史は古く戦国時代にまでさかのぼり、その影響は居合において初太刀から両手斬りを見舞う点にも見受けられる――これは、斬撃の勢いを増させ、甲冑ごと敵を斬りふせる
合戦場での戦いを想定した工夫だ。
立身流は表芸の居合と剣術にくわえ、柔術、棒術、さらには逮捕術までも網羅した総合武術だ。こういった傾向は、他の古い剣術にもみられる――戦場の主力武器は槍であり、その穂先を失ったのなら、棒術で戦い、それすらもなくしたのなら柔術でもって敵に立ち向かう、戦国という世をくぐり抜けた流派がこういった特徴を持つのはある意味、自然の摂理ともいえる。
――雄彦が肩口より喉へと剣先をつけながら後ろに下がり、中段に構える。八重も同じく中段に剣尖を取った。
今度は違う組太刀を行う。
毎朝の稽古は、二人の欠かすことのない習慣だ。無宿人の恨みを買い、またいつ仇を巡りあうかもしれない、そんな常在戦場の心構えが必要とされる環境にいるため、よほど疲れていない限り、たとえ今朝のように昨夜無宿人と死闘を演じた次の日であったとしても剣の修行に励むのだ。
立身流の稽古が終われば、今度は雄彦が妹の中条流の組太刀に付き合うことになる――
八重は斜め後方に退(ひ)く。直後、間合いを詰めて頭上に得物を振り下ろした。
雄彦は体を右に開きながら相手の剣尖を左、刃を後ろに左鎬(しのぎ)で受け流す。そのまま動きを止めることなく木刀を大きく旋回させながら左肩より袈裟に斬った。もちろん、寸止めだ。――遠心力を利用して半円を描くように頭上から刃を浴びせる『豪撃(こわうち)』は、立身流独特のものであり、かの山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)をして「真(まこと)の剣を遣ふ」と云わしめた凄絶な斬り下ろしだ。
そも、立身流の特色は居合の技において『立合(たちあい)』という立技を重視する点にある。その歴史は古く戦国時代にまでさかのぼり、その影響は居合において初太刀から両手斬りを見舞う点にも見受けられる――これは、斬撃の勢いを増させ、甲冑ごと敵を斬りふせる
合戦場での戦いを想定した工夫だ。
立身流は表芸の居合と剣術にくわえ、柔術、棒術、さらには逮捕術までも網羅した総合武術だ。こういった傾向は、他の古い剣術にもみられる――戦場の主力武器は槍であり、その穂先を失ったのなら、棒術で戦い、それすらもなくしたのなら柔術でもって敵に立ち向かう、戦国という世をくぐり抜けた流派がこういった特徴を持つのはある意味、自然の摂理ともいえる。
――雄彦が肩口より喉へと剣先をつけながら後ろに下がり、中段に構える。八重も同じく中段に剣尖を取った。
今度は違う組太刀を行う。
毎朝の稽古は、二人の欠かすことのない習慣だ。無宿人の恨みを買い、またいつ仇を巡りあうかもしれない、そんな常在戦場の心構えが必要とされる環境にいるため、よほど疲れていない限り、たとえ今朝のように昨夜無宿人と死闘を演じた次の日であったとしても剣の修行に励むのだ。
立身流の稽古が終われば、今度は雄彦が妹の中条流の組太刀に付き合うことになる――
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説


【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
エレメンツハンター
kashiwagura
SF
「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。
3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。
3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。
ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。
ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。
それが”トレジャーハンター”であった。
主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。
独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。
アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。
破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。
様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
深海のトキソプラズマ(千年放浪記-本編5上)
しらき
SF
千年放浪記シリーズ‐理研特区編(2)”歴史と権力に沈められた者たちの話”
「蝶、燃ゆ」の前日譚。何故あの寄生虫は作り出されたのか、何故大天才杉谷瑞希は自ら命を絶ったのか。大閥の御曹司、世紀の大天才、異なる2つの星は互いに傷つけ合い朽ちていくのであった…
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
闇と光の姉妹を全部読んでの感想を申し上げます。
楽しみながら書かれているのが文章を通じて伝わってくるようです。文章にもっと躍動感があるとより良い作品になる気がします。ともあれ萌えSFが好きな方にはお勧めできるのではないでしょうか。
貴殿の今後益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。