虹のアジール ～ある姉妹の惑星移住物語～

惑星動乱

記憶喪失の街

「ガマズミー、ぎゅー」
　朝の微睡むような空気のなか、ヤミはガマズミとじゃれていた。
「ヤミちゃん、ヤミちゃん」
「なに？お姉ちゃん」
「さっきエマちゃんからメールが来たんだけど、みんなでミラグロスさんを探すらしいわ」
「見つかるといいね」

　朝食を終えるとヤミは闇市へ出かけた。
「お姉ちゃん、在宅勤務がんばってね」
　ヒカリはパソコンに向かうと、仕事を開始した。
　ヒカリの今の仕事はこの居住区を自動管理するレーゲンボーケンのシステムをハックするための準備だ。
　ヤミやヒカリがこの居住区にやってきた時にはすでに自動管理システムが稼働していた。当時は便利な街だとも感じたが、今はそうは思わない。
　ヒカリはデータベースにアクセスしてみた。
　そして、ある奇妙なものを目の当たりにした。
　この居住区の歴史記述は穴があるのだ。たかだか三十年ほどの歴史しかないのに、誰がこの居住区を作ろうとしたのか、いつからレーゲンボーケンは稼働していたのかなど肝心の記録がないのだ。
　サイバー・パトロールの責任者、アイアン・サチコに問い合わせてみる。
　彼女が前任者のノリオと言う人物からその立場を引き継いだのが八年前だが、サイバーパトロールとしての経験がなく、一介のプロレスラーだったアイアン・サチコにそんな依頼が来ること自体が異例だった。　　
　ノリオからの一切の連絡はメールで行われ、彼の顔も見たことがないという。
「よくこんなんで持ってきたな。虹か。すぐに消える雨上がりの幻、みたいにならなきゃいいけど」
　コン、コン。
　部屋のドアを誰かがノックした。