虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

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惑星動乱

信念と制度

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 後日、ジャックはみなにゴメスを会わせた。
 場所は例の六〇年代風ガレージだ。
 アイアン・サチコに加え、モコとエマもその場に居合わせた。その他の面子は表向きの仕事をやらねばならなかった。 
 アイアン・サチコは、ゴメスと言うカルトの残党には一定の距離を取りつつも、ミラグロスにたいそう興味を持ったようだ。
「そのミラグロスと言う者は馬も扱えるのか。頼もしいな。馬に乗れるなんて素晴らしいことだよ!」 
「はい、ミラグロスさんとちかしい関係にあったモデスタさんも彼女のパワフルさとカリスマに何か期待するところがあったようですね。陽の政治にもカクタ・タナエ以外の選択肢があるといいのですが」
 ゴメスはボトルにつめた葛根湯を飲みながらしゃべった。葛根湯に含まれる興奮作用のせいか、ゴメスは饒舌に語った。
 政治に不満があるなら、他人に頼らず自分の責任で立候補でも活動でもすればよかろうとアイアンは彼に然り気無い侮蔑の眼差しを呉れてやった。
 ゴメスはまさか自分がそう思われていると知らず葛根湯を飲み干した。
「とにかくだ。ミラグロスという者がどこかで不当に拘束されている可能性がある。彼女はヤミやヒカリが世話になった人でもある。そんな彼女の捜索に力を貸さない訳には行かない」
 ミラグロスを救出する。この点ではみな意見が一致した。
 それを理解しながらも、懐疑派のモコもアイアンと同様に、ゴメスのことを信じきってはいなかった。
 モコはゴメスにを鎌かけた。
「あなたは民主主義者ですか?」
 ゴメスは即答した。
「はい、民主主義者です」
「あなたの民主主義は、強い信念に支えられていますか」
「もちろんですよ。私は民主主義が正しいと強く信じる」
 理性派のエマがびっくりした顔で話に割り込む。
「ちょっと待ってください。これはテスト?民主主義を信じるのは私たちにとって大前提の話です。ここで私たちがゴメスさんのことを試す必要がありますか?」
「私は疑われても仕方ありませんよ」
 葛根湯の影響で汗をかいていたが、ゴメスの口調は淡々としていた。
「そうね。若いエマにも考えてほしいわ。強い信念。むしろそれは厄介なモノではないかしら?」
 それを聞いたジャックは大袈裟に仰け反ってみせた。
「モコさん、わかるぜ。強い信念がときにキケンだってことは。でもそんなものとまるで縁がなさそうな俺みたいな人間は安全かい?」
「ジャックさん、あなたは別な意味でキケンです。ヒカリさんのこと泣かせないでね」
 ジャックは、そんなことここで話すなと言わんばかりに首を横にふった。
 モコはゴメスに向きなおった。
「民主主義は多用な価値観の共存が必要不可欠です。あなたは、あなたの信念に反するものに寛容になれますか」
 ゴメスは黙ったまま、脳内でシミュレーションした。自分の人生のなかでどうしても許せない存在を自分は許せるのか?
 ゴメスは冷や汗をたくさんかきながら顔を蒼くした。
「ごめんなさい。俺は小心者だ。自分の信念に反するものに寛容になるなんて今はできそうにない……。ミラグロスさんは良きお人だった。私は到底及ばないが憧れの方だ。そんな彼女を不当に閉じ込める権力が許せない……!」
 アイアン・サチコがゆっくり拍手する。
「よく言ったゴメスよ。男が民主主義を唱えるなど女々しいことだと私は思うよ」
 モコも続けた。
「これは、ドイツの哲学者も似たようなことを言っていたと思いますが、民主主義は制度です。個人的な信念をたかが制度に結びつけてしまってはいけないのです。ましてや公正さが肝要なはずの民主主義制度においてはなおさら」
 エマが指を鳴らした。
「ユリイカ!その考え方は合理的です!」
「とにかく主体的に自由に。頭でっかちな信念なんざ持たず素直になったほうが気軽でいいぜ」
 ジャックがサムズアップしながらゴメスに目配せした。
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