上 下
60 / 73
惑星動乱

逃亡者とロックと

しおりを挟む
 虹はどんどん活気づいていった。
 世界大戦後のヒッピーの時代を再現したようなフラワーでサイケデリックな気風が盛り上がっていった。
 ある音楽イヴェントが開かれた。その開催規模こそウッドストックには及ばないが、爆音でジミヘンをコピーするバンドが現れたり、かなりの熱気があった。
 地球の木を再現した人工木をいくつも植えた林ではロックのリズムに合わせてフリーセックスにいそしむ者たちまでいたらしい。
 虹も変わった。陰鬱な地球での暮らしに疲れ傷ついた漂流者たちは、お互いの傷に触れないようにひっそり機械に飼われるように生きてきたが、旨い食べ物や幾つかの嗜好品や文化の力で元気を取り戻していった。
 この元気を自治へ、デモクラシーへ。
 機械支配を解除し、みんなで民主主義を。もうすぐだ。 
 音楽イヴェントで歌われた歌にもそんなメッセージが入っていた。
 その音楽イヴェントには一人の逃亡者が紛れていた。
 彼は情報通のジャックと接触した。
 すこし前まで「善く生きるための会」に属していた彼だったが、かの会は善く生きるためと言いながらルサンチマンを飼い慣らせずテロを正当化するカルト集団になってしまった。
 元会員は逃亡生活を余儀なくされたが、ひょんなことからジャックと知り合うことになったのだ。
 彼の名はゴメス。
 ゴメスは大きな顔の半分が髭で覆われていて臆病そうな目をしている。彼は己精神薄弱さを克服するべく自己啓発を求めるうちにあの会にはまってしまった。
 ロック音楽のビートは彼にも火をつけたようだ。
「自分達が住んでいた陽にも民主主義を取り戻したい。そのためにまずは我等にとって頼りのミラグロスを解放したい。その思いがより強くなった」
 ゴメスはジャックに語った。
 持ち主がいなくなって放置されたガレージは、六〇年代風の内装が施されていた。
「そうだな。ここで、あんたたちとも手を結べば虹や俺にとってもプラスになる。俺もミラグロスのことを探るから知ってることがあれば教えてくれ。些細なことでも構わない」
 ジャックは馬に乗って颯爽と駆けるミラグロスを思い出した。
 あんな凛々しい姿がもう一度見れたらな。
 ジャックはもともと切れ長の目をさらに細めた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

眠らない世界で彼女は眠る

楠木 楓
SF
「睡眠」というものが過去の遺物となった世界でただ一人、眠る体質を持った少女が生まれた。 周囲に支えられ、強く優しく、そして切なく生きていく彼女の生涯を描く。 無事完結しました。 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

【完結】天下人が愛した名宝

つくも茄子
歴史・時代
知っているだろうか? 歴代の天下人に愛された名宝の存在を。 足利義満、松永秀久、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。 彼らを魅了し続けたのは一つ茶入れ。 本能寺の変で生き残り、大阪城の落城の後に壊れて粉々になりながらも、時の天下人に望まれた茶入。 粉々に割れても修復を望まれた一品。 持った者が天下人の証と謳われた茄子茶入。 伝説の茶入は『九十九髪茄子』といわれた。 歴代の天下人達に愛された『九十九髪茄子』。 長い年月を経た道具には霊魂が宿るといい、人を誑かすとされている。 他サイトにも公開中。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

処理中です...