上 下
56 / 73
惑星動乱

静かな反逆のはじまり

しおりを挟む
 アイアン・サチコが流浪の身であるジャックに声をかけたのはある狙いがあった。
 アイアンはさらにキュリオ博士やハイネ医師と言ったサイバーパトロール外の人間に協力を呼び掛けていった。
 アイアンの話によるとジャックとキュリオ博士は利害が一致するし、ヤミやヒカリとも共闘できるという。
 あくる日、アイアン・サチコの呼び掛けでヤミ、ヒカリ、モコ、ルビィ、エマ、ハイネ医師、キュリオ博士が街の外れの廃屋に集合した。
 月の出ない夜だった。(この惑星の月に当たる衛星は四〇日ごとに満ち欠けを繰り返す)
 廃屋は、隠密行動のための隠れ家だとアイアンは告げた。
「ここさいきん食糧供給システムが供給する食糧が少しずつ減らされている。これについてシステムのチェックをしたいが、我々サイバーパトロールにシステムをチェックする権限がないらしい。変だろう?誰がチェックするのか?誰も自分たちを管理するシステムをチェックしてないんだよ」
 彼女の考えはこうだ。表向きはサイバーパトロールとして与えられた義務を果たしながら、少しずつ統治管理システムであるレーゲンボーゲンをハックして、自治を取り戻そうというものであった。
 そのために、ハイネ、キュリオ、ジャックにも外部から協力してもらう必要があったのだ。
 それは静かな反逆のはじまりである。
「それはそうと皆の者、腹が減っただろう」 
 アイアンが指を鳴らすと大量の料理が運ばれてきた。
 一同は舌鼓をうった。
 キュリオ博士が言った。
「実はこれ、水の都の食糧供給システムで作られた料理なんだ。基本システムはここのとほぼ同じさ」
「じゃ、なんでこんなに味がちがうの?教えてカワシマ」
 ヤミがキュリオ博士に勝手にカワシマとあだ名をつけた。
「カワシマ?」 
「そう、博士はカワシマ・ゴローに似てるから今日からカワシマよ。それよりこの味の違いについて説明してよ」
「単純な話さ。要は道具は使う人次第。この街のシステムを構築した人が味音痴だったんでしょう。かわいそうな言い方になっちゃうけど」
 一同は美味に酔い一体感を確かめあった。アナーキーでスリルに満ちた関係!人は秘密を共有できる相手とより親密になるものだ。

 ジャックがワイングラス片手にヒカリに囁いた。
「あなたとは何度かお会いしていますね」「あら、覚えていてくれてありがとう」 「あなたのように輝きに満ちた女性を忘れるわけありませんよ」 
 ヒカリはなにも答えなかった。絵に描いたようなジャックの気障振りに吹き出しそうになるのを堪えていた。
「ヒカリさんの眩しさ、暗闇のなかだと一層際立つんでしょうね……」
 もうダメだった。ヒカリはけらけら笑った。
「もっと笑ってください。笑顔が眩しすぎる!さ、庭に行きましょうか」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エレメンツハンター

kashiwagura
SF
 「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。  3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。  3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。  ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。  ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。  それが”トレジャーハンター”であった。  主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。  独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。  アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。  破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。  様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

規則怪談:漆黒の山荘

太宰菌
ホラー
温泉山荘の規則は以下の通り、厳守してください。規則を守らない者は、それに同化され、永遠に山荘から離れることができない!

復讐の芽***藤林長門守***

夢人
歴史・時代
歴史小説の好きな私はそう思いながらも一度も歴史小説を書けず来ました。それがある日伊賀市に旅した時服部ではない藤林という忍者が伊賀にいたことを知りました。でも藤林の頭領は実に謎の多い人でした。夢にまで見るようになって私はその謎の多い忍者がなぜなぞに覆われているのか・・・。長門守は伊賀忍者の世界で殺されてしまっていて偽物に入れ替わっていたのだ。そしてその禍の中で長門守は我が息子を命と引き換えに守った。息子は娘として大婆に育てられて18歳になってこの謎に触れることになり、その復讐の芽が膨らむにつれてその夢の芽は育っていきました。ついに父の死の謎を知り茉緒は藤林長門守として忍者の時代を生きることになりました。

融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス

karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。 本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。

我々が守る価値はその人類にはあるのか?

あろえみかん
SF
あらすじ:十日前から日常がぐにゃりと歪み始める。足元から伸び上がるこの物質は何なのか、わからないままに夏の日は過ぎていく。六日前、謎の物質が発する声でフルヂルフィは自分の記憶を取り戻す。彼は記憶を消去した上で地球の生命体に潜入し、様々なデータを採集していたのだった。それらのデータで地球と人類の複製がラボで行われる。美しい星に住む人類はその存在意義を守る事ができるのか。それは守るものなのか、守られるものなのか。遠い遠い場所の話と思っていれば、それは既に自分の体で起こっている事なのかもしれない、そんな可能性のお話。

天命に導かれし時~明清興亡の戦い

谷鋭二
歴史・時代
この物語の舞台は16世紀末から17世紀初頭の中国です。この頃、中国東北部の後に満州といわれることになる土地では、女真族(後の満州族)といわれる人達が、幾つもの小部族に分かれ、ちょうど同時代の我が国の戦国時代のように、互いに争っていました。本編の主人公である愛親覚羅ヌルハチという人物は、その中でも弱小部族に生まれながら、幾つもの戦いに勝利し、ついに名実ともに天下人となり、大汗(中国でいえば皇帝の位に匹敵する)という至高の位を手にします。  その頃中国を支配していた明王朝(日本でいえば室町初期から江戸初期まで中国を支配)は、すでに衰退期にさしかかり、特に我が国の豊臣秀吉の朝鮮出兵により、甚大な人的、物的損害をだし、国威は傾くばかりでした。当然、東北でのヌルハチの勢力拡大は面白いはずもなく、両勢力はやがて衝突する宿命でした。  両者の戦いは最終的にはヌルハチの女真族が勝利し、やがて明にかわって清がおこるわけですが、本編ではそのターニングポイントとなったサルフの合戦といわれる戦いと、明側の最後の抵抗となった寧遠城での、元文人にして「今孔明」といわれた袁崇煥との死闘にふれてみたいと思います。今回の小説は短編ではありますがよろしくお願いします。

聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。 特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。 「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」 傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。 でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。 冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。 私は妹が大嫌いだった。 でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。 「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」  ――――ずっと我慢してたけど、もう限界。 好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ? 今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。 丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。 さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。 泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。 本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...