虹のアジール ～ある姉妹の惑星移住物語～

惑星動乱

猫さんぽ

　猫の目線からはいろんなものが見える。
　顔色の悪い人たち。
　画一的な建物。
　工場から逃げた食用コオロギ。
　誰かが落としたブローチ。
　噂話。
　娯楽の店。
　小説を書く女。
　ガラクタになった機械たち。
　いつか見た男の顔。

　ヒカリは猫になってみた。猫になって散歩してみた。
　自分が離れてる間、この街はもて余すぐらいなにもなかったようだ。
　その「なにもない」が人々からなにかをじわりしわり奪っているかのように、誰もが力なく歩く、漂う。
「ニャ？」
　ふと胸がどきっとして、ヒカリの姿がもとに戻る。
「ニャんで？あの人がここにいるの？」
　ヒカリは木陰に隠れた。
　ジャックだ。ジャックがこの虹でもっとも不味いとされる定食屋でなにかを食べていた。