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惑星動乱
キュリオ博士
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────あるいは黒く染まり、あるいは白く消え去り、わずかなゆらぎに歴史の残像を見るだけ。
「カワシマ・ゴロー?」
不調続きだったヤミの目が少し踊る。
ヤミは古い映画が好きで、名バイプレイヤーと言われた「カワシマ・ゴロー」と言う俳優を特に好んでいる。
カワシマ・ゴローのさりげない演技が光るヤミの一番のお気に入り作品が「ガマズミとキツネ」である。(ペットの名前もこれに由来する)
そのカワシマ・ゴローと瓜二つの人物がヤミの目の前に現れたのだった。
ヤミはハイネ医師の紹介でその人物とクリニックの応接間で初対面した。
クリニックは煉瓦造り風の建物で応接間には暖炉に似せたオブジェを置くなど郷愁を漂わせたビジュアルとなっている。
ヤミの好きな俳優に似たその人物の名はキュリオ・ベック。地球からこの惑星にある理由から亡命してきた物理学博士だ。
すこし薄暗い応接間で、バーチャル暖炉の疑似炎の灯りに照らされたキュリオ博士の顔を見てヤミはなぜだかとても落ち着いた気分になった。
「あのダークマター災害の関係者がいると大学時代からの知り合いであるハイネ医師に聞きましてね」
キュリオ博士はヤミの左手にそっと触れた。
「ダークマター被曝の影響を遅延させる物質があるんだ。それを使えば体調の悪化も避けられるだろう」
「キュリオ博士は優しい方なんですね」
ヤミが無意識的にキュリオ博士の手を握り返そうとしたが、キュリオ博士はそっと手を離した。
「ヤミちゃん。キュリオ博士の助言も借りてあなたの身体をこれからも診ていくからよろしくね」
「はい、ありがとうございます」
ヤミはハイネ医師に微笑して答えた。
外はやけに静かだった。
「さいきん栄養失調の患者さんが増えてるのよ」
「そうか。食糧供給システムに狂いでもあるのでは?」
キュリオ博士は何気無しにそう答えた。
そして薄いニセのコーヒーを飲んだ。
「そうだ。バグスターやドラゴン人間まで目撃されてるみたいじゃないですか」
キュリオ博士の声に呼ばれるようにガマズミがヤミの影からひょっこり顔を出した。
キュリオ博士はヤミのペットをしばらく無言で撫でた。
やがてキュリオ博士は重くため息をついた。
「バグスターもドラゴン人間もダークマターパワーの副産物。人類の知恵ではダークマターパワーは扱いきれません。単に安全性の問題にとどまらず、ダークマターパワーが引き起こすあらゆる現象を解釈しきれません。原子力でさえ、社会を歪めてきたのにまだ懲りないのだろうか」
「キュリオ博士、ダークマターのことは私も同じ思いですが、あなたがそこまで責任を感じる必要はありますか?あなたは今は自由に振る舞える身じゃないですか……」
「ハイネさん、ヤミくん。聞いてください。この惑星の水の都と呼ばれるあの場所、実は……」
言いかけたところでハイネ医師には急診が、キュリオ博士には急用が入り話は中断した。
「カワシマ・ゴロー?」
不調続きだったヤミの目が少し踊る。
ヤミは古い映画が好きで、名バイプレイヤーと言われた「カワシマ・ゴロー」と言う俳優を特に好んでいる。
カワシマ・ゴローのさりげない演技が光るヤミの一番のお気に入り作品が「ガマズミとキツネ」である。(ペットの名前もこれに由来する)
そのカワシマ・ゴローと瓜二つの人物がヤミの目の前に現れたのだった。
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すこし薄暗い応接間で、バーチャル暖炉の疑似炎の灯りに照らされたキュリオ博士の顔を見てヤミはなぜだかとても落ち着いた気分になった。
「あのダークマター災害の関係者がいると大学時代からの知り合いであるハイネ医師に聞きましてね」
キュリオ博士はヤミの左手にそっと触れた。
「ダークマター被曝の影響を遅延させる物質があるんだ。それを使えば体調の悪化も避けられるだろう」
「キュリオ博士は優しい方なんですね」
ヤミが無意識的にキュリオ博士の手を握り返そうとしたが、キュリオ博士はそっと手を離した。
「ヤミちゃん。キュリオ博士の助言も借りてあなたの身体をこれからも診ていくからよろしくね」
「はい、ありがとうございます」
ヤミはハイネ医師に微笑して答えた。
外はやけに静かだった。
「さいきん栄養失調の患者さんが増えてるのよ」
「そうか。食糧供給システムに狂いでもあるのでは?」
キュリオ博士は何気無しにそう答えた。
そして薄いニセのコーヒーを飲んだ。
「そうだ。バグスターやドラゴン人間まで目撃されてるみたいじゃないですか」
キュリオ博士の声に呼ばれるようにガマズミがヤミの影からひょっこり顔を出した。
キュリオ博士はヤミのペットをしばらく無言で撫でた。
やがてキュリオ博士は重くため息をついた。
「バグスターもドラゴン人間もダークマターパワーの副産物。人類の知恵ではダークマターパワーは扱いきれません。単に安全性の問題にとどまらず、ダークマターパワーが引き起こすあらゆる現象を解釈しきれません。原子力でさえ、社会を歪めてきたのにまだ懲りないのだろうか」
「キュリオ博士、ダークマターのことは私も同じ思いですが、あなたがそこまで責任を感じる必要はありますか?あなたは今は自由に振る舞える身じゃないですか……」
「ハイネさん、ヤミくん。聞いてください。この惑星の水の都と呼ばれるあの場所、実は……」
言いかけたところでハイネ医師には急診が、キュリオ博士には急用が入り話は中断した。
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