虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
上 下
51 / 73
惑星動乱

閑話休題

しおりを挟む
 ヒカリは虹における用事足しをほとんど一人でこなすことになった。
 もともとは病気療養中のメアリを見舞うつもりだったが、ヤミまでもが体調不良におちいってしまったのだ。
 おそらくダークマター被曝と先日の闇のチカラの暴走が彼女の身体に負荷をかけたものと思われる。
 メアリの手術後の体力回復のため、面会は延長された。予定があいたためヒカリは数日暇をもて余すこととなった。

 虹に到着して二日後、ヤミは定期診断を受けていたクリニックを訪れた。数ヵ月ぶりの診察である。
 陽にもクリニックはあったが、なんとなく馴染みの場所でないと通うのが億劫だった。
 しかし今回ばかりは診てもらう必要性がかなりあったのだ。吐血や目眩などの症状がたびたび起こるようになってきたのだ。
「ヤミちゃん久しぶりね。しかしかなり顔が蒼いわね」 
 ヤミの主治医的な存在のハイネ医師だ。
「さすがに無理が効かなくなってきました……」 
「そう。なにかあったらきっとハードワークを強いられる。そんな仕事なんでしょう。それでなくてもあなたはあの災害の……」
 ヤミは自分で体温計を左脇に挟んだ。ガラス製の体温計はすこしひんやりした。ずいぶん旧式のガラスでできた水銀式の体温計だった。
「平熱ね」
 体温計を読み取ると、ハイネ医師はそれをアルコールを含ませた脱脂綿で拭き取りもとあったガラスのビーカーにしまった。
「じゃ胸の音」
 ハイネ医師が聴診器の用意をした。
 ヤミはリネンの上着を脱いだ。黒いブラジャーだけになったヤミの二つの乳房と乳房の間あたりになんどか場所をずらしながらハイネ医師が聴診器を当て心音を聴く。
「ふむ、胸の音も普通ね。食欲はある?」
「まあ、なんとか食べれてますけど」
「朝は?ちゃんと食べた?」
「いつもの半分くらい」
 ハイネ医師は頭を抱えながら、ドイツ語でカルテを書いた。
「う~ん、これは医学だけで解決できるのか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

エレメンツハンター

kashiwagura
SF
 「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。  3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。  3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。  ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。  ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。  それが”トレジャーハンター”であった。  主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。  独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。  アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。  破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。  様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

深海のトキソプラズマ(千年放浪記-本編5上)

しらき
SF
千年放浪記シリーズ‐理研特区編(2)”歴史と権力に沈められた者たちの話” 「蝶、燃ゆ」の前日譚。何故あの寄生虫は作り出されたのか、何故大天才杉谷瑞希は自ら命を絶ったのか。大閥の御曹司、世紀の大天才、異なる2つの星は互いに傷つけ合い朽ちていくのであった…

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...