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惑星動乱

沈黙へ

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 幼稚で身勝手なカルト教祖であるチョコはどこかに逃げた。その姿はいくら探しても見つからなかった。
 そしてこの惑星では、しばらくは何も事件が起きなかった。
 カクタはかなり強引なメディアコントロールを行った。事件直後までは、巷では本部ビル乱入騒ぎを起こしたカルト団体(に成り果てたもの)とあのドラゴン人間について語り草になっていた。
 しかしカクタは、閣僚のスキャンダルをでっち上げるように"各方面"に忖度させた。
 ジャーナリズムでさえカクタの拡声器となり彼女に都合のいいストーリーが共有されはじめ、カルトとドラゴンの話題は街から消えた。
 メディアコントロール化の状態で、善く生きるための会に関わった者たちの裁判は事実上、秘密裏で行われることになった。
 ビル乱入の実行犯で、逮捕されたのはグフタム、ネオン、モデスタの三人だった。
 この三名の裁判は困難を極めた。
 グフタムは暴れ、ネオンは動かず、モデスタは支離滅裂なことをしゃべる。
 弁護人は、この三人には身体的、精神的な後遺症があるため裁判より治療を優先すべきと申告したが、「詐病や撹乱の疑いもあり」とされ被告人の証言も充分ままならぬまま裁判は淡々と進んでしまった。
 なにより、中心人物であるチョコの身柄すら確保できていなかったのだ。
 それから特別謹慎とされたミラグロスは裁判にもかけられず、どこで謹慎させられているのかも殆どの人間が知らなかった。
 コントロールされたメディアは忘却を誘う単調な歌を流す。
 殆どの人々は「テロ恐かったね」とすら言わない。
 一部の人が「権力機構は情報公開しろ」とデモをするが、それをテロだとレッテル貼りされてデモも萎縮した。
 「テロやカルトやドラゴンの話題は不謹慎だよね」と言いながら黙るようになっていた。
 陽にはえもいわれぬ非民主的な重苦しい空気が流れるようになっていた。

 ヤミとヒカリは有給を取った。
 虹へメアリの見舞いに行くためだ。
 北へ向かうくじら船のなか、二人はあの日みたいにはしゃいではいない。
 ヤミの口数は減り、ヒカリもジョークを言ったりする気分ではない。
「うまく言えないけど疲れたわ」
 ヒカリが海を見ながら呟く。
「十日ぐらい冬眠したい」
 ヤミもぼんやり顔だ。
 唐突に起こった事件のことや、知り合いが捕まってしまったこと、それからヤミを侵食するなにか、あらゆることが倦怠感としてのしかかるようだ。
 ゼリーフライの群れが漂っている。それを眺める二人の気持ちもどこか漂っているようだった。
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