虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

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緊張と緩和

影絵

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「さ、次行くよ」
「ちょっと待ってよヤミちゃん。もうお昼よ」
 建物の壁に落書きをされたお店の関係者や近隣の住人から聞き込みをしているうちに正午になっていた。
 お昼はラーメンを食べた。居住区に迷い込んだゼリーフライが浮かんでいるのが窓越しに見える。
「あれで出汁とったらおいしいのかな」
 ヤミのとぼけた呟きにヒカリが思わず笑う。
「そうね。ああやってぼんやり生きていたら、捕まって出汁でも絞りとられちゃうかも?」
「う~ん。私はちょっとちがうと思うな。ゼリーフライもウサギもシカも頭の片隅では悟ってるんだよ。自分が被捕食者であることを」
 もったいぶったようなヤミの表情をヒカリが見透かす。
「でもヤミちゃんがウサギだったら?シカだったら?肉食獣に喰われそうになったら逃げるんじゃない?」
「それはね。脳にそういうスイッチもついてるからだよ。でも圧倒的なものには抗えない。そういう覚悟がゼリーフライにもあるんだと思う」
「自分も自然の一部だ的な?」
「全部自然だよ。すべてはヒカリとヤミが織り成す影絵」
 
 聞き込みから得られたのは、落書きの内容がドラゴンの使者や水の都に対する根も葉もない噂や排外的な内容で、どうやらネットの噂を間に受けた何名かの人物が実行犯であることだ。
 もうひとつ気にかかるのは、政治的リーダーであるカクタ・タナエに関するものであった。
 いわくカクタ・タナエこそがドラゴンの使者や水の都への不信感を背景にこの居住区に軍事独裁体制を敷き宇宙の覇権を握る足掛かりにしようとしているというものだった。
 ムッソリーニ礼賛疑惑と合わせると、ありそうな話だったが、決定的ななにかが欠けていてこれも噂の域を出ない説であった。
 ただ、ネットの書き込みに住人が振り回されていることだけははっきりした。

 
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