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緊張と緩和
こんどはドラゴンかよ
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巨体の使者来る!陽は再び混乱した。
その巨体の使者についての情報は錯綜した。
うなぎの顔と獅子の身体を持つ巨大なエイリアンだとか、全身が金属でできたロボット兵だとか。
その使者の来訪の目的についても憶測が飛んだ。
スパイかテロリストか怪獣か?
警戒心は煽られ、権力側もサイバーパトロールを駆り出す騒ぎになった。
陽の人々の慌てぶりと裏腹にその使者の態度はあくまで紳士的だった。
しかも使者は交渉のための正式な書類一式まで用意してきていて、陽の外交要員はおっかなびっくりしながら巨大な来訪者の対応をすることになった。
その使者は黒よりの灰色の岩のようにごつごつしたような皮膚を持っていて、頭はとかげの形、手足には鋭い爪があった。
遠くから見たらコモドドラゴンが立ち上がって二足歩行しているようだった。
身長の五メートルの特撮怪獣みたいなそいつは、第一印象の問題で言えば「怖がるな」と言うほうが無理があっただろう。
その怖い見た目と違い、ドラゴンの使者は人間と同じ言葉を喋り、人間社会で必要とされるのと同じような社交辞令を交わし、人間社会における外交官のように振る舞ったのだ。
だいたい、水の都とされる蒼との交流が陽にはほとんどなかったのだ。
水資源に恵まれる蒼は永世中立を謳い、その居住区を高い壁で囲い、孤立状態で、その実情は謎の部分が多い。
数日後、陽の権力機構が蒼と居住区レベルで交渉を開始したこと、そしてドラゴンの使者はあくまで理性的な人物であり、警戒はこの使者を警護するためと公式に発表した。
しかし具体的に何の交渉がはじまったのかは伏せられた。
しかもドラゴンの使者が街のなかを移動するたびに住民に外出禁止令が出されたり、理由がよくわからない節電要請が出されたりした。
「これは使える状況ですね。モデスタさん」
三〇回目の善く生きるための会の集まりが終わったあと、チョコは個人的にモデスタに声をかけた。
ミラグロスはチョコとモデスタが市民会館の普段使われていない和室に入っていくのを見たが、特に気にしなかった。
会をリードして次々に教えを説くチョコにモデスタは心酔していった。
「あなたはお菓子を食べるために生きているの?それは善くない生き方です」
「あなたは人間観察が好きなの?でも自分を観察できてないわ。何よりもおろかな自分を」
チョコがモデスタに向ける言葉はカルトじみた自己啓発セミナーまがいのものになっていたが、会の参加者は感覚が麻痺していて、モデスタに事実上の罵倒を浴びせかけるようになっていた。
モデスタの友人であるミラグロスは、さすがに胸が痛んだが、チョコの言葉の洗脳力に良心は押し負けてしまった。
「私が悪いんだ。もともとお菓子とゲームが好きな怠惰なモデスタを中途半端なところまでしか連れて来れなかった私が……」
別にモデスタが地球から逃れ少しでも気持ちが軽くなったならそれでもよかったはずだ。別にモデスタが日々を気ままに生きても問題はないはずなのに。
いつのまにかチョコに乗っ取られた善く生きるための会は、モデスタの自由意思を潰し、"カリスマ"チョコの忖度奴隷に変えてしまったのである。
「みんなあのドラゴンに怯えています。この状況は使えます。人々に私の思想の意味を教え込むために」
密室でチョコはモデスタにそう囁いた。
「チョコさまの思いを叶えるために私はなにをすべきか?怠惰な自分を破壊して世界に光をもたらすたむに手段は選んでいられない!」
その巨体の使者についての情報は錯綜した。
うなぎの顔と獅子の身体を持つ巨大なエイリアンだとか、全身が金属でできたロボット兵だとか。
その使者の来訪の目的についても憶測が飛んだ。
スパイかテロリストか怪獣か?
警戒心は煽られ、権力側もサイバーパトロールを駆り出す騒ぎになった。
陽の人々の慌てぶりと裏腹にその使者の態度はあくまで紳士的だった。
しかも使者は交渉のための正式な書類一式まで用意してきていて、陽の外交要員はおっかなびっくりしながら巨大な来訪者の対応をすることになった。
その使者は黒よりの灰色の岩のようにごつごつしたような皮膚を持っていて、頭はとかげの形、手足には鋭い爪があった。
遠くから見たらコモドドラゴンが立ち上がって二足歩行しているようだった。
身長の五メートルの特撮怪獣みたいなそいつは、第一印象の問題で言えば「怖がるな」と言うほうが無理があっただろう。
その怖い見た目と違い、ドラゴンの使者は人間と同じ言葉を喋り、人間社会で必要とされるのと同じような社交辞令を交わし、人間社会における外交官のように振る舞ったのだ。
だいたい、水の都とされる蒼との交流が陽にはほとんどなかったのだ。
水資源に恵まれる蒼は永世中立を謳い、その居住区を高い壁で囲い、孤立状態で、その実情は謎の部分が多い。
数日後、陽の権力機構が蒼と居住区レベルで交渉を開始したこと、そしてドラゴンの使者はあくまで理性的な人物であり、警戒はこの使者を警護するためと公式に発表した。
しかし具体的に何の交渉がはじまったのかは伏せられた。
しかもドラゴンの使者が街のなかを移動するたびに住民に外出禁止令が出されたり、理由がよくわからない節電要請が出されたりした。
「これは使える状況ですね。モデスタさん」
三〇回目の善く生きるための会の集まりが終わったあと、チョコは個人的にモデスタに声をかけた。
ミラグロスはチョコとモデスタが市民会館の普段使われていない和室に入っていくのを見たが、特に気にしなかった。
会をリードして次々に教えを説くチョコにモデスタは心酔していった。
「あなたはお菓子を食べるために生きているの?それは善くない生き方です」
「あなたは人間観察が好きなの?でも自分を観察できてないわ。何よりもおろかな自分を」
チョコがモデスタに向ける言葉はカルトじみた自己啓発セミナーまがいのものになっていたが、会の参加者は感覚が麻痺していて、モデスタに事実上の罵倒を浴びせかけるようになっていた。
モデスタの友人であるミラグロスは、さすがに胸が痛んだが、チョコの言葉の洗脳力に良心は押し負けてしまった。
「私が悪いんだ。もともとお菓子とゲームが好きな怠惰なモデスタを中途半端なところまでしか連れて来れなかった私が……」
別にモデスタが地球から逃れ少しでも気持ちが軽くなったならそれでもよかったはずだ。別にモデスタが日々を気ままに生きても問題はないはずなのに。
いつのまにかチョコに乗っ取られた善く生きるための会は、モデスタの自由意思を潰し、"カリスマ"チョコの忖度奴隷に変えてしまったのである。
「みんなあのドラゴンに怯えています。この状況は使えます。人々に私の思想の意味を教え込むために」
密室でチョコはモデスタにそう囁いた。
「チョコさまの思いを叶えるために私はなにをすべきか?怠惰な自分を破壊して世界に光をもたらすたむに手段は選んでいられない!」
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