28 / 73
緊張と緩和
天岩戸隠れ
しおりを挟む
ヤミは指を鳴らした。
「岩戸に隠れたお姉ちゃんを外に連れ出す方法思い付いた!」
「なんだ?鏡でも見せるのか?」
ミラグロスはぴんと来てない。
「鏡じゃないんだな。鏡なんかなくてもお姉ちゃんは自分が美人だって知ってますよ」
「ナルシスト?」
モデスタが梟みたいに首を傾げる。
「鏡じゃないとしたら何が必要なんだい?」
ミラグロスが問う。
「あのチャラそうな人ですよ」
ピリリ、ピリリ。ミラグロスの携帯電話が鳴った。
「すまん、人と会う用事ができた。そのチャラそうな人の連絡先はモデスタに聞いてくれ」
ミラグロスは、早足で出ていった。
チャラそうな人こと、ジャックと連絡がついたのは午後四時ころだった。
ヤミはずっと思考していた。
なぜあのタイミングで姉は元の姿に戻ったのか?
あのタイミングとは、ジャックが二人の前に現れたあのときだ。
猫の姿だったヒカリはジャック目掛けて本能のまま飛び込んでいったではないか。
あの伝説が本当だったら?
猫に姿を変えた人が恋人の愛の抱擁で元に戻ったと言うあの伝説だ。
「伝説に当てはめて考えると、猫がお姉ちゃんで恋人があのチャラい人?趣味はまあまあだけど、そんな人ができたとすればお姉ちゃんも幸せね。彼が来たら押し入れから飛び出してくるかしら?あるいは裸で?」
「お姉ちゃん、ジャックさんが訪ねてきますよ」
ヤミは襖ごしに姉に話しかけた。
物音がした。ヒカリが押し入れの中で身動きしたようだ。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。言い過ぎたわ。出てきて。そしておめかしをしなきゃ。恋人が来るんでしょ」
数分の沈黙を挟み、襖が少しだけ開いた。
ヒカリの目が薄暗い押し入れのなかからこっちを覗いた。
「そんなんじゃないよ……」
か細い声だったが、久しぶりに聞く姉の声だった。
「あ、あの、申し訳ないけど、ジャックさんには日を改めてもらえないかしら……」
ジャックとは一度会ったきりとは言え不貞腐れて閉じ籠るだなんて子供じみたことをしている自分を見られたくはなかったのだ。
「うんうん。お姉ちゃん。そこからちゃんと出てきてくれたらそうしましょう」
「もう意地悪なんだから」
ヒカリが面倒くさそうに押し入れから這い出してきた。
なにはともあれ姉を岩戸から表に出すと言うヤミの作戦は成功である。
「押し入れのなかは真っ暗で寂しい。昔のヤミちゃんもこうだったの?」
ヤミは、姉の目に光るものを見た。
「岩戸に隠れたお姉ちゃんを外に連れ出す方法思い付いた!」
「なんだ?鏡でも見せるのか?」
ミラグロスはぴんと来てない。
「鏡じゃないんだな。鏡なんかなくてもお姉ちゃんは自分が美人だって知ってますよ」
「ナルシスト?」
モデスタが梟みたいに首を傾げる。
「鏡じゃないとしたら何が必要なんだい?」
ミラグロスが問う。
「あのチャラそうな人ですよ」
ピリリ、ピリリ。ミラグロスの携帯電話が鳴った。
「すまん、人と会う用事ができた。そのチャラそうな人の連絡先はモデスタに聞いてくれ」
ミラグロスは、早足で出ていった。
チャラそうな人こと、ジャックと連絡がついたのは午後四時ころだった。
ヤミはずっと思考していた。
なぜあのタイミングで姉は元の姿に戻ったのか?
あのタイミングとは、ジャックが二人の前に現れたあのときだ。
猫の姿だったヒカリはジャック目掛けて本能のまま飛び込んでいったではないか。
あの伝説が本当だったら?
猫に姿を変えた人が恋人の愛の抱擁で元に戻ったと言うあの伝説だ。
「伝説に当てはめて考えると、猫がお姉ちゃんで恋人があのチャラい人?趣味はまあまあだけど、そんな人ができたとすればお姉ちゃんも幸せね。彼が来たら押し入れから飛び出してくるかしら?あるいは裸で?」
「お姉ちゃん、ジャックさんが訪ねてきますよ」
ヤミは襖ごしに姉に話しかけた。
物音がした。ヒカリが押し入れの中で身動きしたようだ。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。言い過ぎたわ。出てきて。そしておめかしをしなきゃ。恋人が来るんでしょ」
数分の沈黙を挟み、襖が少しだけ開いた。
ヒカリの目が薄暗い押し入れのなかからこっちを覗いた。
「そんなんじゃないよ……」
か細い声だったが、久しぶりに聞く姉の声だった。
「あ、あの、申し訳ないけど、ジャックさんには日を改めてもらえないかしら……」
ジャックとは一度会ったきりとは言え不貞腐れて閉じ籠るだなんて子供じみたことをしている自分を見られたくはなかったのだ。
「うんうん。お姉ちゃん。そこからちゃんと出てきてくれたらそうしましょう」
「もう意地悪なんだから」
ヒカリが面倒くさそうに押し入れから這い出してきた。
なにはともあれ姉を岩戸から表に出すと言うヤミの作戦は成功である。
「押し入れのなかは真っ暗で寂しい。昔のヤミちゃんもこうだったの?」
ヤミは、姉の目に光るものを見た。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
エレメンツハンター
kashiwagura
SF
「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。
3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。
3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。
ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。
ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。
それが”トレジャーハンター”であった。
主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。
独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。
アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。
破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。
様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる