上 下
19 / 73
赤道直下のドタバタ

疾走するクイーン 三

しおりを挟む
 ピピー。
 ヒカリの通信機にニューラーから連絡が入った。
「オーケー。C公園へ向かえばいいのね」
 ニューラーの情報によると新たに確認されたねずみは三体。
 一体はB通り、残り二体はC公園の方向へ走っているらしい。
「すばしっこいやつらですが、三体ともなんとか発信器は打ち込めました。動きは手に取るようにわかりますよ」
 電気吹き矢でねずみに打ち込まれた発信器はこの居住区の外からでも感知できるほど強い電波を発しているという。
 本部からC公園に至る道の途中にある三叉路でニューラーはねずみに出くわした。
 ニューラーはねずみを誘き寄せるためのチーズ(本当はチーズに似せたコピー食品)を持ってきていたので、ねずみの興味を引くことはできたが、不慣れな水鉄砲の扱いに手こずっていた。
 
 ヒカリは端末の反応を頼りになんとか不案内ながらC公園に着いた。
「反応はあるけど、姿が見えないわね」
 C公園には小さな小さな泉があった。
 ヒカリはそこまで馬を連れていき水を飲ませてやった。
「雨でも降ればびっくりするかしら?」
 ヒカリは水鉄砲いっぱいに水を充填すると、その銃口を天に向けた。
 そして銃口近くのノズルを切り替えた。 ザーザー。
 引き金を引いた瞬間、人工的な夕立スコールが降った。
 ギーギャー。
 ゴミ箱がひっくり返る。ゴミ箱の裏に身を隠していたねずみが飛び出してきたのだ。
 冷静さを失ったねずみは馬のいるほうへ跳ねた。馬はびっくりして逃げてしまった。
「あ、いけない」
 馬も逃げるし泉のわずかな水分も消費しつくしてしまった。
 あわよくば花火ねずみを泉の中へ放り込んでしまおうとしていたのに。
 束の間の雨がやんだ。ねずみの目はヒカリに敵意をはなつ。
 咄嗟に水鉄砲ではないほうの銃を構え撃ったがレーザーの熱は体温が高すぎるねずみに効果がなかった。
「ねずみちゃん、お熱いのが好き?ヒカリは大ピンチ」
 林に囲まれたC公園、素早い敵。
 ヒカリは冷や汗をかいた。
 危機感に襲われたとき、人は藁をもつかみたくなるものだ。
 ヒカリは無意識的にポケットに手を突っ込む。たしかな感触がそこにはある。
 ヤミがくれた青い猫目石だ。
 古来より人は石、特に光る石に力が宿ると信じてきた。
「えい」
 ヒカリは右手で掴んだ石を高く振りかざした。
 石はキラっと光った。
 眩暈のような感覚のなかヒカリは深刻な状況に合わないような駄洒落みたいなことを言った。
「ヒカリ、光ります……」 
 正気を取り戻したヒカリの目の前でねずみがギョッとした顔をしている。
 これは?なんかヘンだぞ?
 よくわからないが、ヒカリは今なら丸腰でもねずみに対して強く出れるような気がして威嚇してみた。 
「フー!」
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。 特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。 「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」 傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。 でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。 冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。 私は妹が大嫌いだった。 でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。 「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」  ――――ずっと我慢してたけど、もう限界。 好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ? 今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。 丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。 さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。 泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。 本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

我々が守る価値はその人類にはあるのか?

あろえみかん
SF
あらすじ:十日前から日常がぐにゃりと歪み始める。足元から伸び上がるこの物質は何なのか、わからないままに夏の日は過ぎていく。六日前、謎の物質が発する声でフルヂルフィは自分の記憶を取り戻す。彼は記憶を消去した上で地球の生命体に潜入し、様々なデータを採集していたのだった。それらのデータで地球と人類の複製がラボで行われる。美しい星に住む人類はその存在意義を守る事ができるのか。それは守るものなのか、守られるものなのか。遠い遠い場所の話と思っていれば、それは既に自分の体で起こっている事なのかもしれない、そんな可能性のお話。

ふたりの旅路

三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。 志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。 無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。

ちはやぶる

八神真哉
歴史・時代
政争に敗れ、流罪となった貴族の娘、ささらが姫。 紅蓮の髪を持つ鬼の子、イダテン。 ――その出会いが運命を変える。 鬼の子、イダテンは、襲い来る軍勢から姫君を守り、隣国にたどり着けるか。 毎週金曜日、更新。

融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス

karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。 本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。

狭間の島

千石杏香
ホラー
「きっと、千石さんに話すために取ってあったんですね。」 令和四年・五月――千石杏香は奇妙な話を聴いた。それは、ある社会問題に関わる知人の証言だった。今から二十年前――平成十五年――沖縄県の大学に彼女は通っていた。そこで出会った知人たちと共に、水没したという島の伝承を調べるために離島を訪れたのだ。そこで目にしたものは、異様で異常な出来事の連続だった。

原初の星/多重世界の旅人シリーズIV

りゅう
SF
 多重世界に無限回廊という特殊な空間を発見したリュウは、無限回廊を実現している白球システムの危機を救った。これで、無限回廊は安定し多重世界で自由に活動できるようになる。そう思っていた。  だが、実際には多重世界の深淵に少し触れた程度のものでしかなかった。 表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。 https://perchance.org/ai-anime-generator

処理中です...