虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
上 下
17 / 73
赤道直下のドタバタ

疾走するクイーン 一

しおりを挟む

 オークリーダーを討伐した俺達親子は、残っているオークの殲滅に移った。

 ここで気付いたのは、指揮官を失った途端にオーク達の動きがバラつき始めたこと。

 人型の魔物が人間と同じく動揺するのかは不明だが、明らかに動きや判断力が鈍っているように見える。

 魔物と言えど、人型故に人間と共通する部分もあるのだろうか?

 しかし、俺達にとっては都合が良い。

 俺と親父は仲間達と協力して次々に仕留めていき、遂に最後の一体を殺害することに成功した。

「俺達の勝利だァァッ!」

「「「 おおおッ!! 」」」

 親父の勝鬨を合図に生き残った者達が雄叫びをあげる。

 ――俺達は勝った。

 少なからず犠牲者は出てしまったものの、街の防衛に成功した。

 そして……。

「よくやった、レオンッ!」

 俺の頭をくしゃくしゃと撫でる親父も救えた。

 ハーゲット家の未来は変わったのだ。

 これで母様がおかしくなってしまう未来も避けることができたのだ。

 死亡フラグに繋がる第一歩、最初のフラグも力で捻じ伏せてやったんだ。

「父様、やったね!」

「おいおい、戦闘中みたいにオヤジって呼べよ! 俺はそっちの呼ばれ方の方が好きだぜ!」

 ニッと笑う親父に対し、俺は手を伸ばした。

「やったぜ、親父!」

「おう! やったな、レオン!」

 満面の笑みを浮かべる親父とハイタッチを交わす。

「ようし、レオン! 母さんの元に戻るぞ!」

「うん!」

 俺は家族を守ったんだ。守れたんだ。

 俺が積み上げてきた四年間は無駄じゃなかった!

 胸を張りながら屋敷に戻り、避難していた住民に称えられながら親父と共に玄関を潜ると――

「な"んで戦いにい"っじゃったのぉぉぉぉ!!」

 大泣きする母様に抱きしめられた。痛いくらいに。

「じんばいしだ~! こんなの私が死んじゃうよぉぉぉぉ~!」

「ご、ごめん、母様……」

 大泣きし続ける母様をどうにか落ち着かせるべく謝り続けていると、今度は感情が怒りに傾いたらしい。

 母様は泣きながらも、キッと親父を睨みつける。

「アナタにも問題あるからね!? どうしてレオンが来た時に戻れと言わなかったの!?」

「す、すまん……。レオンが予想以上に強かったし、息子と戦うのが嬉しすぎて……」

 屋敷の外は勝利の余韻で賑やかなのに、一番の功労者である親父はプンスカ怒る母様に激詰めされてしまう。

「嬉しかったじゃないわよ! ばか! ばかばか! アナタっていつもそう! 若い頃からそう!」

 ガミガミと怒られ続ける親父の背中は徐々に小さくなっていき、すごく自然な流れで正座に移行していった。

 親父……。なんか、ごめん……。

「坊ちゃん。傷の手当をしましょう」

「え? 傷? 傷なんて無いと思うんだけど」

 親父が怒られている間、シオンが応急セットの入った箱を持ってきてくれる。

「膝、怪我してるじゃないですか」

 言われて見てみると、膝から血が出ていた。

 といっても、転んで擦りむいた程度の傷だが。

 それでもシオンは見逃してくれず、彼女の処置を受けることになった。

「……坊ちゃん、よくぞ戻って来てくれました」

 床に座って足を伸ばしていると、シオンが患部を洗いながら言う。

 彼女の顔には嬉しそうな笑みがあるが、目からは涙が零れていた。

「言ったじゃん。俺が守るって」

「ええ。その通りでしたね」

 シオンは顔を上げると、満面の笑みを浮かべて――

「坊ちゃん、守ってくれてありがとう」

 この時見たシオンの笑顔は一生忘れられないと思う。

 彼女の笑顔を見て、俺はこれからも家族を――

「サワサワサワ」

「どさくさに紛れて腹筋触らないで」

「嫌です。もう二度と触れないかと思ったんですから」

 まぁ、今この瞬間くらいは思う存分に触らせてあげよう。


 ◇ ◇
 

 家族との温かい触れ合い? と勝利の報告を済ませたあと、俺達に圧し掛かったのは『戦後処理』だ。

 親父に「これも勉強」と言われて連れ出され、まず体験したのはぶっ殺したオークの死体処理。

「既に知っていると思うが、魔物の体内からは魔石が採取できる。オークも同じだ」

 山に生息するブラウンウルフやワイルドボアと同じく、魔物であるオークからも魔石――体内の魔力が凝縮して宝石化したもの――が採取できる。

 これらは魔物退治において貴重な戦利品の一つとなり、人型種であるオークの魔石はサイズも大きいので利用価値が高い。

 魔石はサイズが大きいほど内包する魔力量が多く、街で売られている……いや、都会で売られている魔道具のエネルギー源となる。

 因みに言い直したのは、我が領地で魔道具は販売されていないからである。

 魔道具を作る人がいないって親父と母様が嘆いていたっけ……。都会っていいよな、とも言っていたのを思い出す。

 話が逸れてしまったが、魔石ってやつは前世で言うところの電池だ。

 家電を動かす電池が生き物の体内から採取でき、それらは物によっては高額で取引される。

 他にも魔物素材と呼ばれる毛皮、爪、牙などがあり、魔物を解体してそれらを採取するわけなのだが……。

「グロ……」

 さすがに人型は感じ方が違う。

 ブラウンウルフやワイルドボアは動物型だったから多少は軽減されていたが、街の住人がせっせとオークを解体していく様子は……。なかなかキツいものがある。

 ゲームの中じゃ戦闘終了後に『〇〇を入手した!』なんて軽くメッセージが出るだけだけど、実際現実になればこうなるよな……。

 R18指定のグロ映画以上の光景だよ……。

「これがオークの魔石」

 ガーディンさんが「ほら、見てみ?」くらいのテンションで紫色の血が滴る赤い魔石を見せてくるのだが、正直シンドイ。トラウマになりそう。

「レオン、嫌がらずにちゃんと見ておけよ? 魔石の取引は重要な財源の一つだ。領主としても、個人としてもな」

 特にオークの魔石は高く売れるのでしっかりと採取したい。

 そして、採取した魔石を売った金は死んだ住民の家族へ見舞金として渡したいと。

「だから、しっかりと採取しよう」

「う、うん……」

 うわああ! 血がヌメッとしてるぅぅぅ!

 どう誤魔化そうにもグロ映画のワンシーンにしか見えねえよ!!

 なるべく目を逸らしながら魔石の採取を手伝っていくが、手に伝わる感触がもう……。

「……なんで魔物の血って紫なんだろう?」

 脳を誤魔化すため、血の色について思考を偏らせる。

 更にそれに集中するため、敢えて口に出した。

「さぁ?」

 俺達人間は赤い血。魔物は人型であっても紫色の血。

 俺の呟きを拾った親父は首を傾げるだけだった。

 頼むからもうちょっと何とか言ってくれ。

 なんかこう、こういうことなんだぜ! って自慢気に語って意識を集中させて欲しい。

「さて、魔石を抜いた死体は埋めるか。レオン、穴掘ってくれないか?」

「うん、いいよ」

 オークの解体以外なら何でもします。何でもさせて下さい。

 俺はここぞとばかりにその場を離れ、初級土魔法を駆使して大穴を掘り始めた。

「ところで、レオン」

「ん?」

「お前、将来はどうするんだ?」

 穴を掘っていると、横に並んだ親父が問うてくる。

 ……少なくともハーゲット家の未来は確実に変わった。

 親父は生存したし、母様も正常だ。シオンも無事。

 恐らく、このままハーゲット家は平和な暮らしを送ることが出来ると思う。

 ただ、魔王と魔王軍の存在が確認されたあとはどうだろう? ハーゲット領も魔王軍との戦争に巻き込まれてしまうのだろうか?

 この点についてはゲーム内で語られる物語と違うルートを辿ることになるので分からない。

 このまま家族を守るため、領地に残ってのんびり暮らすという選択肢もあるにはあるだろう。

 しかし、俺にはまだ救うべき人がいる。

 ――リリたんだ。

 俺の推しキャラであるリリたんを救わねばならない。

「俺は王立学園に行くよ」

 リリたんを救うには王立学園へ入学することが必須。

 学園で彼女と出会い、彼女の運命を変えるためにフラグを折らねばならない。

 それに正史ルートで王都に残った俺が、魔物化するって状況も気になる。

 どうして人間が魔物になってしまうのか? その方法は? 俺が魔物化するに至るまで、他の誰かが関与しているのか?

 物語終盤、ゲーム内でも設定資料集でも語られなかった真実を解き明かすのも、死亡フラグを完全に折るための必要な要素なのではないだろうか?

 俺自身とリリたん、二人分のフラグを完全粉砕するためにも王都へ行く必要がある。

「王立学園に?」

「うん」

「……もしかして嫁探しか?」

 親父はニヤッと笑う。

「ち、違うよ」

 一瞬、俺の心を読んだのかとドキッとしてしまったが、親父は脳筋領主であってエスパーではないのは確かだ。

 たぶん、親として察したのだろう。あるいは、同じ男だからか。

 ただ、俺も俺で「推しキャラを救いに行きます」とも言えないし「魔物化する謎を解き明かしに行きます」とも言えない。

 自分好みの可愛い女の子を救って、あわよくばイチャラブ恋人生活を送りたいという本音も恥ずかしくて言えない。

 だから、俺は――

「俺よりも強いやつに会いに行く」

 どこかで聞いたようなセリフで誤魔化した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

エレメンツハンター

kashiwagura
SF
 「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。  3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。  3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。  ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。  ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。  それが”トレジャーハンター”であった。  主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。  独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。  アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。  破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。  様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...