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闇と光の姉妹
くじら船に乗り込んで
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「あら、ヤミちゃん?やはりあのねずみはバグスターみたいだったわ。ネットワーク回線を通じてどこへでも移動できるみたい」
ヒカリは電話越しに報告した。ヤミは昼寝していたことを隠しながら、ヒカリに話を合わせた。
「お姉ちゃんにばかり仕事させてゴメンね。それにしてもジャックと言う男はチャラそうだな。壁ドンにトキメクなんてお姉ちゃんもあんがい乙女だわな」
ヒカリとの電話を切ってヤミは一人ごちた。
そして南へ。港にはローバーごと乗り込める巨大な船がとまっていた。
その山が聳えるようなたたずまいは圧巻を通り越して爽快ですらある。
「くじらだよ!くじらに乗ってゴー」
地球のシロナガスクジラをそのまま五倍ほどに巨大化させたようなその船のフォルムはいい大人も童心に帰すようだ。ヤミは無邪気なリアクションをひたすら繰り返す。
二人がくじら船に乗り込んで半日ほどの船旅を始めたころだった。
居住区の虹のホスピタルでサイバーパトロールの一員であるメアリはベッドに横たわっていた。
メアリは齢四九になるが、ここのところ体調が優れない。とうとう入院することになったのだ。
ちなみにこのホスピタルはヤミも左腕の骨がダークマター化した影響を調べるため定期検診を受けに来ている。医学的な異常は認められていないがメアリは自分のことよりヤミの身体を気にしている。ドクターにヤミのことばかり尋ねていた。
「便箋を頂戴」
メアリは看護師に桜色の便箋を持ってきてもらった。
"闇と光のハーモニー"
そんな書き出しの手紙をメアリは認めた。書き終えた便箋にセッケンの匂いをつけるとしっかりと封をした。
巨大なくじら船は退屈を許さない。やや旧式のものとは言えたくさんのゲーム台がプレイルームに置かれていた。
しかも多くのゲームがデジタルではなくアナログ式のピンホールゲームやテーブルテニスなどである。
見知らぬ人が姉妹に使い古されたような科白をはいた。
「デジタルは人間性を弱らせる。アナログのゲームは人間性を取り戻せる」
そういう誰かさんを某デジタル姉妹がテーブルテニスでめちゃくちゃに負かしてしまった。
「アナログ式の人間性は客観性に欠ける。無駄に体を動かすだけ。デジタルを経由した私たちはアナログの要素さえもコントロールできるのよ」
ヒカリは思わず勝ち誇って大言壮語をはいてしまった。
「お姉ちゃん!」
おずおずとするヤミの突っ込みに、ヒカリは少し自分の発言が恥ずかしくなった。
部屋に戻るとヒカリは横になりたくなった。
「お姉ちゃん、船酔いしたね。アナログな自分の身体、コントロールできてないじゃん、ねー、ガマズミちゃん」
ヤミはガマズミを抱き上げながら、いたずらっぽく言った。
「うー」
ヒカリは間接的に海の波に揺られるような感じを疎ましく思いながら、ひたすらうずくまった。
ヒカリは電話越しに報告した。ヤミは昼寝していたことを隠しながら、ヒカリに話を合わせた。
「お姉ちゃんにばかり仕事させてゴメンね。それにしてもジャックと言う男はチャラそうだな。壁ドンにトキメクなんてお姉ちゃんもあんがい乙女だわな」
ヒカリとの電話を切ってヤミは一人ごちた。
そして南へ。港にはローバーごと乗り込める巨大な船がとまっていた。
その山が聳えるようなたたずまいは圧巻を通り越して爽快ですらある。
「くじらだよ!くじらに乗ってゴー」
地球のシロナガスクジラをそのまま五倍ほどに巨大化させたようなその船のフォルムはいい大人も童心に帰すようだ。ヤミは無邪気なリアクションをひたすら繰り返す。
二人がくじら船に乗り込んで半日ほどの船旅を始めたころだった。
居住区の虹のホスピタルでサイバーパトロールの一員であるメアリはベッドに横たわっていた。
メアリは齢四九になるが、ここのところ体調が優れない。とうとう入院することになったのだ。
ちなみにこのホスピタルはヤミも左腕の骨がダークマター化した影響を調べるため定期検診を受けに来ている。医学的な異常は認められていないがメアリは自分のことよりヤミの身体を気にしている。ドクターにヤミのことばかり尋ねていた。
「便箋を頂戴」
メアリは看護師に桜色の便箋を持ってきてもらった。
"闇と光のハーモニー"
そんな書き出しの手紙をメアリは認めた。書き終えた便箋にセッケンの匂いをつけるとしっかりと封をした。
巨大なくじら船は退屈を許さない。やや旧式のものとは言えたくさんのゲーム台がプレイルームに置かれていた。
しかも多くのゲームがデジタルではなくアナログ式のピンホールゲームやテーブルテニスなどである。
見知らぬ人が姉妹に使い古されたような科白をはいた。
「デジタルは人間性を弱らせる。アナログのゲームは人間性を取り戻せる」
そういう誰かさんを某デジタル姉妹がテーブルテニスでめちゃくちゃに負かしてしまった。
「アナログ式の人間性は客観性に欠ける。無駄に体を動かすだけ。デジタルを経由した私たちはアナログの要素さえもコントロールできるのよ」
ヒカリは思わず勝ち誇って大言壮語をはいてしまった。
「お姉ちゃん!」
おずおずとするヤミの突っ込みに、ヒカリは少し自分の発言が恥ずかしくなった。
部屋に戻るとヒカリは横になりたくなった。
「お姉ちゃん、船酔いしたね。アナログな自分の身体、コントロールできてないじゃん、ねー、ガマズミちゃん」
ヤミはガマズミを抱き上げながら、いたずらっぽく言った。
「うー」
ヒカリは間接的に海の波に揺られるような感じを疎ましく思いながら、ひたすらうずくまった。
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