虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
上 下
4 / 73
闇と光の姉妹

ピッツァでも食べながら

しおりを挟む
 地球からとおく離れた惑星ナキは大きさこそ地球とおなじくらいだが、大気は薄く人類が居住するためにはドーム式の居住空間が必要となる。 
 ドーム内では重力、大気、天候などの環境条件が人間の暮らしやすいように地球と同じような状態に保たれ、そのなかに住居や商業施設、娯楽施設、水耕プラント、畜産施設などが設けられている。
 このような居住区が惑星ナキには三つある。
 豊富な水資源を利用して独自の発展を遂げた「蒼」。
 赤道直下で恒星の光エネルギーを活かした「陽」。
 そしてヒカリとヤミたちが暮らす「虹」。
 「虹」はこの三つの居住区でいちばん規模が小さく、居住区としての個性はとくにない。
 ヤミとヒカリはこの居住区のサイバーパトロール隊員で、主にサイバー保安に関わる仕事をしている。
 
「力仕事や用心棒はロボット、知識や娯楽ならコンピュータに任せればいい。そうすれば男いらずよ」
 仕事が終わりピッツァ店に寄り道した二人は席につくなり人生談義を始める。
「お姉ちゃん、わたしたちはまだ二四歳で若い。今はいいけど、年老いたらやっぱパートナーって必要だなってなってくると思うよ…」
 男不要論をぶちあげるヒカリに妹のヤミが水を差す。
「ま、いずれはパートナーは必要かもねー。そのばあいは、一緒にいてイライラしなければそれでいいわ。でも地球の男は、その最低ラインすら達してない男ばっかだったわ」
「なるほど、お姉ちゃんは地球の男に飽きて宇宙船に乗ってこんなとこまで来ちゃったのね……」
「ところでヤミちゃんだったらどんなひとをパートナーにしたいの?」
「わたし?カワシマ・ゴローみたいな男がいいなー」
「カワシマ・ゴロー?誰?イケメン?」
 ヒカリは思わず身を乗り出した。
 ヤミは「宇宙進出以前の映像アーカイブ」というチャンネルで、ある白黒映画を観たのだった。そしてその映画で脇役として出演していたカワシマ・ゴローという俳優を気に入ってしまったのだ。
 ヤミはミニコンピュータ端末の画面にカワシマ・ゴローの画像を表示させてみせる。
 ヒカリは、意外そうな顔をした。
「ただのおじさんじゃん!ヤミちゃんの趣味は変わってるねー」
「違うもん。カワシマ・ゴローは名バイプレーヤーとして名を馳せた俳優。この骨董品のようなさりげない味わいぶかさは誰にも真似できない!」

「あなたたち不吉だわ。二人は対極の要素をもっているのね」
 髪の長い女がとつぜん二人に話しかけてきた。
 その不躾な態度にヤミは口を尖らせる。
「あなたは誰ですか?」
 ヒカリは警戒しながら質問した。
「わたし?何でもないわ。あえて言うならゲーテのファウストに出てくるメフィストフェレスみたいなものかしら?怪しい人ではありません」
「めっちゃ怪しいじゃん!」
 居住区のドームの半透明な屋根ごしに夕陽がさしてきた。
「今日も夜が来るわね。夜は容赦なくやって来るわ。闇はわたしたちに見えるすべてを喰らい尽くすのよ」
 ヤミはきょとんとした。 
 ヒカリはむっとした。まるでヤミの悪口を言われているような気がしたのだ。
「わたしはそうは思いません。夜の闇はわたしたちに眠りと安らぎをくれます。闇は優しいもの。本当に恐ろしいのはその闇を利用する狡猾さです」 
 メフィストフェレス女は関心したような表情をした。
「あなたは知的ね。その輝く知性が打ち消されないよう祈っているわ。知的なお嬢ちゃん、黒い爪のお嬢ちゃん、あなたたちの幸運を祈っているわ」
 メフィストフェレス女は去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...