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闇と光の姉妹
ピッツァでも食べながら
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地球からとおく離れた惑星ナキは大きさこそ地球とおなじくらいだが、大気は薄く人類が居住するためにはドーム式の居住空間が必要となる。
ドーム内では重力、大気、天候などの環境条件が人間の暮らしやすいように地球と同じような状態に保たれ、そのなかに住居や商業施設、娯楽施設、水耕プラント、畜産施設などが設けられている。
このような居住区が惑星ナキには三つある。
豊富な水資源を利用して独自の発展を遂げた「蒼」。
赤道直下で恒星の光エネルギーを活かした「陽」。
そしてヒカリとヤミたちが暮らす「虹」。
「虹」はこの三つの居住区でいちばん規模が小さく、居住区としての個性はとくにない。
ヤミとヒカリはこの居住区のサイバーパトロール隊員で、主にサイバー保安に関わる仕事をしている。
「力仕事や用心棒はロボット、知識や娯楽ならコンピュータに任せればいい。そうすれば男いらずよ」
仕事が終わりピッツァ店に寄り道した二人は席につくなり人生談義を始める。
「お姉ちゃん、わたしたちはまだ二四歳で若い。今はいいけど、年老いたらやっぱパートナーって必要だなってなってくると思うよ…」
男不要論をぶちあげるヒカリに妹のヤミが水を差す。
「ま、いずれはパートナーは必要かもねー。そのばあいは、一緒にいてイライラしなければそれでいいわ。でも地球の男は、その最低ラインすら達してない男ばっかだったわ」
「なるほど、お姉ちゃんは地球の男に飽きて宇宙船に乗ってこんなとこまで来ちゃったのね……」
「ところでヤミちゃんだったらどんなひとをパートナーにしたいの?」
「わたし?カワシマ・ゴローみたいな男がいいなー」
「カワシマ・ゴロー?誰?イケメン?」
ヒカリは思わず身を乗り出した。
ヤミは「宇宙進出以前の映像アーカイブ」というチャンネルで、ある白黒映画を観たのだった。そしてその映画で脇役として出演していたカワシマ・ゴローという俳優を気に入ってしまったのだ。
ヤミはミニコンピュータ端末の画面にカワシマ・ゴローの画像を表示させてみせる。
ヒカリは、意外そうな顔をした。
「ただのおじさんじゃん!ヤミちゃんの趣味は変わってるねー」
「違うもん。カワシマ・ゴローは名バイプレーヤーとして名を馳せた俳優。この骨董品のようなさりげない味わいぶかさは誰にも真似できない!」
「あなたたち不吉だわ。二人は対極の要素をもっているのね」
髪の長い女がとつぜん二人に話しかけてきた。
その不躾な態度にヤミは口を尖らせる。
「あなたは誰ですか?」
ヒカリは警戒しながら質問した。
「わたし?何でもないわ。あえて言うならゲーテのファウストに出てくるメフィストフェレスみたいなものかしら?怪しい人ではありません」
「めっちゃ怪しいじゃん!」
居住区のドームの半透明な屋根ごしに夕陽がさしてきた。
「今日も夜が来るわね。夜は容赦なくやって来るわ。闇はわたしたちに見えるすべてを喰らい尽くすのよ」
ヤミはきょとんとした。
ヒカリはむっとした。まるでヤミの悪口を言われているような気がしたのだ。
「わたしはそうは思いません。夜の闇はわたしたちに眠りと安らぎをくれます。闇は優しいもの。本当に恐ろしいのはその闇を利用する狡猾さです」
メフィストフェレス女は関心したような表情をした。
「あなたは知的ね。その輝く知性が打ち消されないよう祈っているわ。知的なお嬢ちゃん、黒い爪のお嬢ちゃん、あなたたちの幸運を祈っているわ」
メフィストフェレス女は去った。
ドーム内では重力、大気、天候などの環境条件が人間の暮らしやすいように地球と同じような状態に保たれ、そのなかに住居や商業施設、娯楽施設、水耕プラント、畜産施設などが設けられている。
このような居住区が惑星ナキには三つある。
豊富な水資源を利用して独自の発展を遂げた「蒼」。
赤道直下で恒星の光エネルギーを活かした「陽」。
そしてヒカリとヤミたちが暮らす「虹」。
「虹」はこの三つの居住区でいちばん規模が小さく、居住区としての個性はとくにない。
ヤミとヒカリはこの居住区のサイバーパトロール隊員で、主にサイバー保安に関わる仕事をしている。
「力仕事や用心棒はロボット、知識や娯楽ならコンピュータに任せればいい。そうすれば男いらずよ」
仕事が終わりピッツァ店に寄り道した二人は席につくなり人生談義を始める。
「お姉ちゃん、わたしたちはまだ二四歳で若い。今はいいけど、年老いたらやっぱパートナーって必要だなってなってくると思うよ…」
男不要論をぶちあげるヒカリに妹のヤミが水を差す。
「ま、いずれはパートナーは必要かもねー。そのばあいは、一緒にいてイライラしなければそれでいいわ。でも地球の男は、その最低ラインすら達してない男ばっかだったわ」
「なるほど、お姉ちゃんは地球の男に飽きて宇宙船に乗ってこんなとこまで来ちゃったのね……」
「ところでヤミちゃんだったらどんなひとをパートナーにしたいの?」
「わたし?カワシマ・ゴローみたいな男がいいなー」
「カワシマ・ゴロー?誰?イケメン?」
ヒカリは思わず身を乗り出した。
ヤミは「宇宙進出以前の映像アーカイブ」というチャンネルで、ある白黒映画を観たのだった。そしてその映画で脇役として出演していたカワシマ・ゴローという俳優を気に入ってしまったのだ。
ヤミはミニコンピュータ端末の画面にカワシマ・ゴローの画像を表示させてみせる。
ヒカリは、意外そうな顔をした。
「ただのおじさんじゃん!ヤミちゃんの趣味は変わってるねー」
「違うもん。カワシマ・ゴローは名バイプレーヤーとして名を馳せた俳優。この骨董品のようなさりげない味わいぶかさは誰にも真似できない!」
「あなたたち不吉だわ。二人は対極の要素をもっているのね」
髪の長い女がとつぜん二人に話しかけてきた。
その不躾な態度にヤミは口を尖らせる。
「あなたは誰ですか?」
ヒカリは警戒しながら質問した。
「わたし?何でもないわ。あえて言うならゲーテのファウストに出てくるメフィストフェレスみたいなものかしら?怪しい人ではありません」
「めっちゃ怪しいじゃん!」
居住区のドームの半透明な屋根ごしに夕陽がさしてきた。
「今日も夜が来るわね。夜は容赦なくやって来るわ。闇はわたしたちに見えるすべてを喰らい尽くすのよ」
ヤミはきょとんとした。
ヒカリはむっとした。まるでヤミの悪口を言われているような気がしたのだ。
「わたしはそうは思いません。夜の闇はわたしたちに眠りと安らぎをくれます。闇は優しいもの。本当に恐ろしいのはその闇を利用する狡猾さです」
メフィストフェレス女は関心したような表情をした。
「あなたは知的ね。その輝く知性が打ち消されないよう祈っているわ。知的なお嬢ちゃん、黒い爪のお嬢ちゃん、あなたたちの幸運を祈っているわ」
メフィストフェレス女は去った。
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