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葵ちゃんと中部エリア到着

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 うどんを食べ終えた二人はトラックに戻ると怜と旭はぐっすり眠っていた。二人を見た柚奈はボソッと呟いた。

「はぁ、どんな所でも眠れることができるって楽そうですね」
「柚奈さんは慣れてない場所では眠れないんですか?」

 麦が素直な眼差しを向けると柚奈はそっぽを向いて思った。

(言えません、誰であっても言えません。私があの……クマさんのぬいぐるみがないと眠れないと言うことは!)

 そう、柚奈のベットの角にクマのぬいぐるみが置いてあるのだ。柚奈は毎晩、そのぬいぐるみを抱いて寝ていたのだ。しかし、柚奈もバカじゃないため、ぬいぐるみのことを聞かれたら、大切な貰い物だと毎度、理由付けているのであった。

「そ、そうなんです」
「分かります。私も無理なんですよね~」

 麦は何一つ怪しまず、笑顔だが、柚奈は苦笑いを浮かべていた。二人は荷台に乗ると、場所の把握をした。

「ここはまだ関東エリアですよね柚奈さん?」
「そうですね。関東エリア・西の一九九ですね。旧茨城といった所でしょうか」
「まだまだ、道のりは長いですね……」
「一九九といえば、先輩が任務に行く前にいつも寄ってた場所がありました」
「どこですか?」
「確か神社、神宮? だったような気がします。勝利の神様がなんとかです」
「わ、私も行ってみたいです」
「後で先輩に聞いみてください」
「はい!」

 二人が荷台で話しているとトラックの運転手が戻ってきた。

「すいやせん、また二時間後に休憩で、その後静岡に向かう感じになりやーす」
「あ、はい。分かりました」
「じゃ、閉めまーす」

 荷台を閉めると運転手はトラックを走らせた。また、柚奈は座禅を組み、精神を統一させた。麦も眠れないが、布団の中に入り、横になった。
 トラックは高速道路を走り、轟々とした音を立て走った。何も変わらない数時間、眠れない二人はそれぞれ時間が長く感じた。
 しかし、数分トラックを走らせるといきなり怜が目を覚ました。布団の音に柚奈と麦は驚き、スマホの明かりを怜の方向を照らした。

「せ、先輩、何事ですか!?」
「ななな、なんですか!?」
「い、行かないとあそこに……」

 怜は目を瞑ったまま、そう呟いていた。目を瞑りながら話す怜に二人は怯え、何が起こっているのか分からなかった。そこで麦の早とちりが発動する。

(まま、まさか悪霊に取り憑かれた!? 危ない、こ、このままじゃ、冬風さんが殺されてしまう! わ、私が役に立たないと)
「行かないといけないんだ。あそこに」
「せ、先輩? も、もしもし!?」

 麦は走るトラックの中で立ち上がり、リュックの中から塩を取り出した。暗闇の中、麦は自分の右手に塩を塗し、力強く拳を握った。そして怜に近づき、思いっきり拳を振りかぶった。

「麦パーンチ!」

 麦の拳は怜の左頬に直撃し、倒れた。

「がはっ! ゔぅ……うん? あれ? なに、痛っ。誰? む、麦ちゃん。なな、なんで拳構えてるの?」
「今助けます!」
「それ助けるじゃなくて倒しにかかってるから!」
「麦パーンチ!」
「ぐはっ」

 麦の二回目拳がまた怜の左頬に直撃すると怜は左頬を真っ赤にし、気絶した。気絶し怜を見た麦は安堵し、自分の布団に戻った。その状況をスマホのライトを照らして見ていた柚奈はこれは見なかったことにしようと思い、柚奈も横になった。
 数分後怜は頬のジリジリする痛みから目覚めた。

「はっ! お、俺は麦ちゃんに殴られた!? ゆ、夢か。痛っ! ゆ、夢じゃないし、しょっぱい」

 怜は頬を触って殴られた理由を模索するが中々、出てこないのであった。諦めた怜はまた、布団に入った。
 怜が殴られて二時間が経過した。時刻は二時半を回った丁度、丑三つ時が終わった頃だった。しかし、悪霊は真夜中に出現する。
 怜と旭は眠っているが、柚奈と麦は眠れないでいた。運転手がドアを開けると二人はトイレと暖かい飲み物を買いに出た。
 二人はトイレを済ませ、パーキングエリアの自動販売機の前に立った。

「六月なのにまだ冷やますね柚奈さん」
「そうですね。この辺は悪霊の気配は感じません」
「ちっちゃい幽霊とか人魂ならいそうですね」

 柚奈はコーンスープのボタンを押した。麦はメロンおでんのボタンを押した。メロンおでんを見た柚奈は目を細くして聞いた。

「それ、美味しいんですか?」
「美味しいんですよ、メロンの果汁とおでんの出汁がたまらないんですよ! よかったら、柚奈さんもどうですか!」
「わ、私は遠慮しておきます」
「今度、試してみてくださいね」
「あ、はい……」

 二人は温かい飲み物を購入すると荷台に戻り、缶を開け、飲み始めた。運転手はエナジードリンク片手にドアを閉めると、トラックを出した。
 そして一時間後、ついにトラックは旧静岡県、中部エリア・東、一部にたどり着いた。時刻は四時となっており、残り数分で日の出だ。
 トラックは中部エリア・第二軍事基地に止め、荷台のドアを開けた。

「お疲れっす。着きました」
「お疲れ様です。運転、ご苦労様です」
「あ、ありがとうございます」
「先輩、旭ちゃん、起きてください。着きました」
「俺、あっちに用あるんで、起きたら行っちゃってください」
「すみません、ありがとうございます」

 運転手は基地に向かい、柚奈は中々起きない怜と旭を叩き起こすのであった。
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